第四部 プロジェクト・サティスファクション

29時限目「反抗計画【プロジェクト・サティスファクション】」


「んで……プロジェクト・サティスファクションって何ですか」


 教室の座席に腰掛け、ペンを片手に隣の席のアカサにクロードが問う。


「授業中にそれを聞くんかい」

 

 いきなりの質問にアカサは呆れながらも振り向いてくれた。


「スカーレッダさん。ノートに落書きばっかしてるから暇なんだろうなって」

「意外と見てるな、コノ野郎」


 クロードの観察通り、アカサは黒板に書かれた内容をノートにまとめてはいない。むしろ、座学とやらには苦手意識があるのか、現実逃避代わりにノートへ落書きを開始している。


 シャドウサークルの中では愚か、クラスの中でも小テストの成績は最下位目前とまでは話を聞いていた。クロードの容赦ない言葉の棘が襲い掛かる。



 プロジェクト・サティスファクション。古代語で“満足の計画”。

 計画の全貌を聞く前にホームルームが近づいたことで一度ガレージハウスから解散。活動内容がアヤフヤのまま、座学を迎えることになったのだ。



「んー、まぁ、そだね」

 ペンを顎に、じっくりと考えこんだ後に答える。

「周りを見返す。周りがアッと驚くようなことをする。手段も内容も問わない、学園側に許されるスケールで実行する私達の反抗ってことでヨロシクっ」

 楽しそうに、後先不安で明確さの欠片もない解説がクロードに返ってきた。


 その計画、反抗ではなく“犯行”ではなかろうかと不安にもなる。

 ひとまずは退学に追いやられるようなテロ紛いの行動だけは避けるようにする。場の流れに乗せられないようにと、クロードはセーフのラインを作ることとした。



「……何個か、確認したいことがあるんですが、いいですか?」


 テロ紛いの行動だけは避ける。学園から退学を言い渡されるような事態だけは避ける。それを決定付けた地点で確認しておきたいポイントがいくつかある。


「一度、シャドウサークルが“爆破テロ”紛いなことをしたって話を聞いたんですが」


 ソルダ・フロータスから幾つか噂を聞いている。

 シャドウサークルはろくでもない事を次々とやらかしていることを。そのうちの一つが“学園施設の一部を爆破した”という報告があった。


 それはサークルの仕業なのか。だとしたら、それは故意に学園を破壊したのか。

 憂さ晴らし、報復……八つ当たりにも近い反抗だったのか是非を問う。


「ああ、それについてはね……ホラ、ガレージハウスにあった……ゴリラ?」

「ゴリアテ」

 真っ黒い毛むくじゃらではないとクロードは即座に訂正する。


「そう、それそれ。アレを動かすための動力炉を作ってたんだけど、失敗しちゃってドカンと」

 つまり、事故らしい。サークル活動の際に発生した事故であるならば仕方がない。ということで片付けておく。


「アレ? その動力炉造りって、どうしてガレージハウスじゃなくて学園の方で?」

「失敗したら大爆発は確定してたらしくてさ。家が吹っ飛ぶのは困るけど、馬鹿しかいない学園が少し吹っ飛ぶくらいなら問題ないだろうって」


 ___問題大ありじゃ、ボケ。


 大問題だった。仕方ないで片付けられなかった。

 研究や実験に犠牲はやむを得ず。だが、己の被害は最小限。とんだマッドクリエイターだ。そういった活動が始まりそうになったらズル休みをする事をクロードは頭に入れた。



「ちなみにもう一つ。変な乗り物で学園を暴走したって」

「ああ、それ動力炉のテスト。主人の命令を聞いて独自に動くシステムの完成を目指して、その動力炉を積んだ車を作ったわけ……まぁ、全く成功しなくて、追突事故ばっかり起こしてるわけだけど」


 成功率皆無とまで来た。被害が増える一方。

 本腰入れて止めに入るまではある。これは事と次第では、学園そのものが滅ぶ危険性も視野に入れないといけなくなった。


「まぁ、おかげで動力炉は七割方完成したみたいだけどね。安定していないから、少し動かす程度で終わらせて、完成の目途が立つまで放置してるって感じ。さすがに教師からの説教がうるさかったし、厳重注意されてるから落ち着くまでは、ってとこ」


 グッジョブ、先生達。

 同時にクロードは安心した。このサークルのメンバー、反省の念は持っているようである。学園の面々に全く興味を持っていないとされるロシェロが内心どう思っているのかは知らないが。



「その間はアッと驚かせる計画成就の為に色々活動してるとこ。費用は学園側が出してくれるからね~……皆で遺跡探検したり、魔物狩りに行ったり。近所のケーキバイキングに行ったり、懐石料理のお店に行ったり、あとは本格派のカレーショップに行ったり、人気のクレープ屋に行ったりとか」


「後半、ただのグルメツアーじゃないですか」


 部費をドブに捨てているような気がして否めない。その名の通り、メンバーたちは満足しているのだから成立はしているのだが、費用を出している学園が不憫に思えて仕方ない。



「とりあえず、ボチボチ活動してる。しばらくは新型の動力炉造りをやってるみたいだけど」

「ふーん……」


 ゴリアテの起動を更なる完璧なモノへ近づける為、その基盤造りを行っている最中だという。


 今までの真相を聞く限り不安は募るほどあるが……ジーン・ロックウォーカーはある程度の自由を許している。何かやらかしそうになったら、警告の一つでも入れてくれるだろう。


 それを信じて、活動に身を浸すことにする。


(……僕のやりたいこと)

 当然不安は募っている。後先も怯える事ばかりで逃げ出したいとも思いたくなる。


(あそこにいれば、見つかるかもしれない)

 だけど、あの三人組、そしてその活動を耳にした時に感じた鼓動。

(近づけるかもしれない。だから、やってみる)

 予感は気のせいではない。そう信じて。

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