16時限目「資金活動【ハウンドドッグ・ハンティング】(前編)」


 休日前半一日目。

 ディージー・タウンの一角。巨大な掲示板が並ぶ集会所広場へとやってきたクロード・クロナード。


「良いバイトあるといいんだけど……」


 クロードが行おうとしていたのは、資金調達。つまりは食費や生活費を稼ぐ仕事探しだった。

 ラグナール学園はアルバイトが許可されている。学園生活を謳歌するために、こうして遊ぶためのお金を稼ぐ学生も少なくはない。


「アレがあるから、郵便とか軽い荷物運びも出来る……薬売りとか、喧嘩の助っ人とか、そういうの以外なら何でも行ける」


 日払い。継続。いろいろなバイトの張り紙に目を向ける。


「どうしよう……」

「おーっ! 奇遇だな!」


 悩んでる最中、野太く汗臭い男の声が聞こえてくる。


 ソルダ・フロータスだ。

 会いたくないわけじゃない。だが、人付き合いは極力避けたい彼にとっては喜ばしいエンカウントじゃないことも事実。


「お前も仕事探しか?」

「お前“も”?」


 クロードは首をかしげる。


「今月ピンチでな。バイトないか探しに来たんだよ」

 頭を掻きまわしながらソルダは苦笑いをする。

「お前も小遣い稼ぎか?」

「そんなところです」

 実際、お金が必要ではある。

 クロードは特に誤魔化すこともなく、仕事を探していると伝えた。


「なんか良いバイトあるか? 一日で50万くらい稼げそうなの」

「単独でドラゴン退治とかなら、その条件当てはまってますけど……勝てます?」

「食われるな。確実に」


 一人でドラゴン退治なんて、そこらの腕利きでも困難な仕事である。とんでもない無茶ぶりを張り出す輩がいるものだと、二人は苦笑いする。


「おっ! こんなのはどうよ!?」


 ソルダは一枚の張り紙に目を通す。


 “山奥の畑に現れた魔物の狼達を追い払ってほしい”

 “狼達が二度とやってこない環境を作ってくれたら、より報酬増し”。


「灼熱業火のソルダ様と、吹き荒む暴風のクロード! 俺達二人が手を組めば、こんな仕事程度怖いものなしだろうよ~!!」

「なんで一緒に仕事する話になってるんですか。異名ダサい」


 吹き荒む暴風。誰かが噂でつけたのか、それともソルダが勝手につけたのか。どうであれ、クロードにとっては迷惑千万な話である。


(あと、異名変わってない?)

 面倒なので、ツッコミがしやすそうな部位だけにチョップを入れておくことにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 というわけで、そのまま流れで受けることになった。魔物の狼退治。

 日払いの仕事で狼を追い払うだけのこの仕事。成功すれば結構な額の報酬金を渡してくれる。これくらいの敵を相手なら、クロードも困ることはない。


「んー、学生か~……」

 だが、問題は依頼人の対応だった。

 本来こういうのは冒険者ギルドやそこらの腕利きの魔法使いが息抜き程度に受ける仕事である。まだ学生である二人には荷が重いのではないかと依頼人は不安にもなる。


「おいおい! 俺らの腕が信用ならないってのかよ! 俺はこう見えて、ラグナール学園では三本の指に入る炎の魔法使い、」

「本当?」

「……になり得る男さ!」


 随分盛ったなとクロードは思って言葉を挟んだが、それに対してチキンになったかソルダも上手く引き返してきた。


「うーん、腕利きなら安心してやらせるんだけど……ケガでもしてもらったら、コッチも迷惑かかるからなぁ。ホントに大丈夫?」

「大丈夫だって! 俺達は無敵のコンビだからよ!」


 ソルダがクロードの肩に手を回し、その場で高らかに大笑い。


(ウザい)


 暑苦しいし、汗臭い。

 タンクトップ一枚に穴だらけジーパン姿のソルダ。筋肉質な身体が余計に目立つ。


 ベスト付きのシャツにレディース用のズボン。そしていつものストールと……痩せっぽい体が目立つクロードの服装。


対照的すぎる細身なクロードの嫌がる姿がより鮮明に映っているように見えた。


「……わかった。ただし、結果次第ではバイト代出せないから。いいね?」


 二人の名前が、依頼書に記入された。


「これでとりあえず四人だな」

「ん? 四人?」

 クロードが首をかしげる。


「そうそう、君達以外にも仕事を受けた学生がいてね。その子達と一緒に協力しておくれ」

 狼退治に参加しているのは他にもいる。

「仕事を任せたって事は……腕利きなんです?」

「あぁ、学園では有名人さ」


 一体誰なのだろうか。クロードはひとまず、楽は出来るかなと安堵した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 数十分後。山のふもと。

 畑へと続く裏道の入り口前。クロードは出会う。


「あらら~? こんなところで会うなんて奇遇ですなぁ~?」


 災難、ここに極まる。


「久しぶりだな。ルーキー」


 協力者だという二人の女子生徒。

 それは私服姿のアカサ・スカーレッダとブルーナ・アイオナス……エンカウントは嫌でも避けたい例のチームのメンバー二人と真っ先に顔を合わせる羽目になった。


「神様なんていない……」


 挨拶もなしにクロードは言霊を漏らす。いますぐにでも帰りたいと言いたくなるようなオーラを放ち続けていた。


「おいおい。そこまで嫌がることないじゃないの。チャラい男に構われまくられるのも迷惑だけど。こうして雑に扱われるのも、それはそれでムカつく」


 アカサは不満げにクロードを睨む。

 しかし、それに対してもクロードはそっぽを向いたまま。口を開きたくないと遠回しにアピールを続けるだけだった。


「え、えっと……ブルーナさん! どうして、このお仕事に!?」

 男女問わず、憧れの的であるブルーナ・アイオナス。そのファンの一人であろうソルダは緊張オーラ全開で質問をする。


「ハンティングが趣味であり取り柄だからな。魔物退治が仕事なら、金銭関係なく受け持っている」


 アイオナス家は古くから魔物退治を続けてきた。

 受ける理由はただそれだけ。山登りに山を登る理由を聞いて、『そこに山があるから』と同じ感覚で即答した。


「なるほどぉ……お前はどうして、この仕事に?」

「おい、私はタメかよ。モジャモジャ野郎。後輩だけど」


 相手が先輩だろうと、アカサは容赦なく毒舌を叩きこんだ。


「お小遣い稼ぎですよ。欲しいものがあるので……モジャモジャ先輩はどうしてバイトしてるんです? まさか、中庭騒動の事が親にバレて、当分の間はお小遣い抜きにされたとかですか?」

「ぎくぅううーー!?」


 思わず声で図星を突かれた効果音を出すソルダ。

 クロードはなんとなく理解した。一ミリも申し訳ないという気持ちは湧かないが、片手を振って謝っておく程度はしておく。


「ルーキー」

「クロード・クロナードです」

「では、クロナード」


 名前か苗字のどちらか。ブルーナは苗字で彼を呼んだ。


「君もお小遣い稼ぎか?」


「……そういうことにしといてください」


 答えることさえも面倒なので、そういうことにする。クロードは呆れながら、一人そそくさと目的地である山奥の畑まで向かっていった。


「あっ! コラコラ、待ちなさいな!」


 アカサに続いて、ソルダとブルーナも歩き出した。

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