”春”の章

第二部 ロックンロールな少女隊

13時限目「叛逆者同盟【シャドウ・サークル】」


 貴族が嫌いだと言った。そう言ってやった。

 実際本当の事だ。クロードはとある理由で“貴族を嫌っている”。


 そう答えた矢先の事だった。


「ようこそ! 影の叛逆者同盟シャドウ・サークルへ!」


 すると、何故だろうか。

 歓迎された。いつの間にか歓迎された。


「いやぁ! これでまた、一人確保ですねぇ!」

「ふむ、私も彼の戦いは現場で見ていた。放っておくには実に勿体ない……」


 同盟、叛逆者、戦力として確保。

 何を言ってるのか分からない。何か分からないが話が強引に進んでいるような気がする。


「そういうわけだ、クロナード君! 早速だが、歓迎会で昼食を」

「お断りします」


 即断。即決。即効退避。


「じゃあ、僕。用事があるので、これにて」


 向こうが強引に進めるのなら、この話を強引に終わらせる権利だってある。バスケット片手に不機嫌ながら部屋を出ようとする。


「「ちょっと待ってぇえええッ!!」」

 すると、どうだろうか。

 アカサとロシェロ。二人同時にクロードに飛び掛かり、絶対に逃がすわけには行かないと体を引きずってでも取り押さえようとしてくる。まるでゾンビだ。


「待つんだ、クロナード君! 何故断るのかね!?」

 右足を両手で掴んでいるロシェロは体が引きずられながらも彼に問う。その見た目通り、大した運動もしていないからか力は全くと言っていいほどないようだ。


「意味が分からないし、何で誘われたのか分からないし、話が見えてこない。あと、何をするのか分からない得体のしれないチームに入る気は更々ありません。以上」


「話も聞かずに即決とは勿体ないッ! ちゃーんと、私達には目的があるからさ……とまれぇえええ……!」


 腹部から抱き着いて取り押さえようとするアカサは告げる。


「じゃあ、聞かせてくださいよ。ここ、何をするところなんですか」


 下にいた謎のゴーレム。まるで秘密基地のようなこの部屋。

 影ながらに何か企んでいるのは分かる。だが、それが何なのかは分からない。その話を聞いたら多少は傾くかもしれないと、聞いてみることにする。



「「皆をギャフンと言わせる、凄い事を何かする!!」」


 二人同時に、このチームとやらの目的を堂々と語った。

 床に引きずられて顔面ほこりまみれのロシェロ。全力のために皺が寄っているアカサの表情。二人の顔は、見るも完璧はドヤ顔だった。


「……失礼します」

 やっぱり、ろくなことにはならない気がする。クロードは帰宅を選択する。


「待って! お願いだから! 入ってくれたら、女子にはモテモテ! 昨日とは違う自分に早変わりするかもしれないから!」

「そんな怪しい広告突き付けても逆効果だろう」


 アカサの交渉材料はむしろ不安を煽るだけだとブルーナは真後ろで指摘。


「そうだ! ここに入れば良い事尽くしだぞ! たぶん、良い事あるぞ!」

「そこまで根拠のない自信振りかざせるのも逆に才能だな」


 ロシェロの交渉も迫力があるだけで結局中身がない。彼の交渉材料にはならないと断言する以外他ならない。


「冷静に考えてみなさいよ、クロナード君……こんな美少女三人組に囲まれて、学園生活を過ごすチャンスなんだぜェ? それを不意にするつもりかい。灰色の学園生活から脱却できるビッグチャンスなんだぜぇ……!?」


「いや、ごめん。そういうの興味ないので」


「……え? まさか、君、そういう趣味?」


「すぐそっち方面に路線変えようとする女性。僕、嫌いです」


 色恋沙汰に興味がないだけであって、関心はある。

 だが、今の彼はそっちに集中する余裕がないだけ。彼には彼のやりたいことがある。そっちに集中したいのだと言いたいのだろう。


「いいから……っ、話だけでもっ……!」

 この失礼さ。そして、しつこさ。

「離せよっ!!」

 クロードのイライラ度数。それを瞬時に上げるには十分すぎる悪循環。

 ある程度ケガにならない程度には全力で二人を振り払う。


「おおっ!?」「ふぎゃぁああっ!?」

 振りほどかれたロシェロは再びソファーまで突き飛ばされ、アカサはそこら辺の魔導書の山の中に頭から突っ込んで生き埋めにされる。



「……ッ!!」


 クロードはすぐ近くにあった窓を開く。


「むむっ?」

 

 その様子をブルーナは興味よさげに眺めている。

 

 クロードが取った行動。

 それは、“窓から身を乗り出したのだ”。


 階段を下りて、そのままダッシュで外まで逃げる展開ではなく、まさかの窓から飛び降りて脱出する計画。確かにそこからならば、一瞬で退避することは出来る。


 だが、逃げるにしてもここから一階に飛び降りるのはリスクが高すぎる。結構な高度だ、下手をすれば両脚をやられる危険性だって否めない。


「これでっ……」

 すると、彼はブレザーの内側から何かを取り出した。


「“飛ぶ”!!」


 “取っ手のついた謎のアイテム”だ。

 下敷きのような四角いフォルム。やや分厚く、真ん中にはアーズレーターと同様に魔法石が埋め込まれたそれを手に、クロードは飛び降りる。



 飛び降りる。

 直後、取ってのついた謎のアイテムを天にかざした。


 四角い板切れだったそれは変形し、“羽を広げた鳩”のようなフォルムへと姿を変え、次第にはクロードの肉体よりも巨大な姿へと変形する。

 わかりやすく言えば、戦闘機と言うべきか。それと似たような形に変形したアイテムを手にした彼の体は地に落ちることはなく、フワリと浮き上がる。



「……さよなら」


 発動。彼の片手に緑色の魔方陣が展開される。

 風の魔術。何処からともなく現れた風が……“空を飛ぶ彼の体を女子寮のテリトリーの外へと押し出す”ように吹き荒れる。


 次第に、クロードの姿は小さくなっていった。



「あー、逃げられたー……」

 窓から身を乗り出し、次第に小さくなっていくクロードの姿を見て涙目になるアカサ。

「ほう! あのような技術まで手にしているとは……余計に興味深いじゃあないか!」

 逃がしはしたが、また面白い光景を目の当たりにして、ロシェロは興奮している。


 あまりに間抜けな後姿を晒す二人。

 

「……ふぅ」

 ブルーナは溜息交じりに、テーブルの上に置いてあったフルーツバーを齧っていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 女子寮を走って逃げるのは、誤解を招きそうで怖い。

 昨日のような一件があった後だ。変なトラブルを避けるためにも、女子生徒達の視界に入らない可能性が高い大空を経由して、男子寮まで戻っていく。


「……まさか、こんな形で役に立つなんて」


 彼が手に持つマジックアイテム。利用方法は当然、空を飛ぶための物。

 ディージー・タウンへやってくる際に、故郷から持ってきた代物らしい。まさか、こんな形で役に立つ時が来るなんて思いもしなかったために溜息を漏らす。



「何だったんだろう。あの人たち」


 いきなりの勧誘。よく分からない目的。

 怪しい人達にはついていってはいけないと幼い頃から母親に言いつけられている。何より、現在彼は監査されている立場。


 変な行動を取ったら退学処分に一歩近づく。得体のしれないチームに入るのは、危険すぎる。活動内容次第では首を絞める事になるのだ。


 何事もなく、静かに学園生活を過ごす。

 そのためにも、あんな嵐の気配満載の場所からは一秒でも早く離れたかった。



『貴族は、嫌いかい?』


 不意に投げかけられた質問。

 挨拶代わりというよりは……あのチームに入るための試験内容。資格を得るための問い、だった気もする。



「あぁ、嫌いだよ」

 空を飛びながら、彼は独り言で呟いた。

「理不尽だろうと、八つ当たりと言われようと……俺は」

 イライラ度数70%。

 ぶつけようのない怒りをその身に秘めながら、彼は男子寮までフライトと洒落こんだ。



「……“おばあちゃん”」

 空でたった一人。

「やっぱり、空はいいね。静かで」

 制服の内側にしまっておいた魔導書に、クロードはそっと手を添えた。

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