クープランの墓
もう頼る人は誰もいない状態になり、妹が都会のほうへ引っ越してこないかというようになった。仕事が順調で医者もいい医者に巡り合っている今となってはそのようなことはかなわない。何より住み慣れた田舎を離れる気はまだなかった、受け入れてくれた親戚のおじさんがなくなったら、それも考えてもいいかもしれない……しかし思うようにはならないのだった。薬の副作用で糖尿病を患っており、いつ倒れていてもおかしくない状態なので訪ねてくれる看護師が頼りの綱である。しかし家が広い。2LDKに一人暮らしはあまりに広すぎる。なので一部屋あまっていて結婚でもしない限りずっと一人きりだろう、でももう一人で生きていくと決めたのだった福祉の世話になりながらずっとここで。あの時、四年前のあの時そう決めたのだ。父はお前が決めた道だから……と何も言わず送り出してくれた。これが選んだ道だ……今は充実した日々を送っている、あの時にした判断は間違っていなかった。何よりもおそらく、これが初めて自分の人生で自分から選んだ道だったのだから。何度も実家に帰りたいと思った、お金がなくて泣きつこうと思ったでもそうしなかった。自分は確かにここで自立することに成功していたのだ。もう一人でも悲しくはない、ピアノがある自分には音楽がある。アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズを弾いていてもう何十年と向き合ってきたピアノを一生弾かなくてはならないと決意したのだった。
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