第4話 誰が何をしているかはっきりさせよう
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ここでちょっと下のシーンを読んでみてください。
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ヒロシが校門から出ようとするまさにそのとき、ミサトとスグルがまるで恋人どうしのように肩をならべて向こうからやってきた。
「えっ! おまえたちなんで一緒なんだよ!」
「さっき、道でばったりあったからだよ」
「でもさ、人からみたら付き合っているようにみえるぜ」
からかわれた少年は照れ臭そうにしていたが、少女はなぜか青ざめていた。
「なんか変だよね、この時間に校門の前に三人しかいないなんて」
「そういえば……」
そう、不思議なことに、校門から校庭を見ても、反対側の通りを見ても、人っ子ひとり歩いていないのだ。
その時だった。空が急にどす黒くなり、いなずまが走った。
2秒おいて、雷鳴がとどろきわたる。
(何が起きたのだろう? もしかしてこれが「5ちゃんねるまとめ」で読んだ異次元の入口? それにしてもなんでこんな時に……今日はせっかくミッちゃんとばったり会えたというのに……あっあの子あいつにしがみついている。こいつらやっぱり付きあっているのかな? くそー!)
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以上長々とすみません。
ところでみなさん、終わりのほうで(今日はせっかくミッちゃんとばったり会えたというのに……)と思っているのは誰だかわかるでしょうか?
またいったい誰が誰にしがみついているのでしょうか?
ちょっとすぐには答えられませんよね。
この小説のワンシーンは、途中から誰がそう思っているのか、誰がその動作をしているのかが、わかりにくくなってしまっています。
今の場面だけなら三人の少年少女が校門で雷を怖がっている、というだけですので、まだそれほど混乱せずに済んでいますが、この調子のまま話が進んでいくとどうでしょう?
読者は筋を追えなくなります。
小説を読んでいてあらすじが追えなくなったらもう終わり。
読者はその時点で嫌になって読むのをやめてしまいます。
こういうWEB小説は結構多いです。
他にもセリフが延々と続いて、どれが誰のセリフだかわからなくなる、なんていうのもよく見かけます。
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ではどのように解決したらよいでしょう?
それは多少不自然になっても、主語をきちんと入れることです。
一度書いたものを読み返してみて、「読者がこれは誰の動作や会話、心理描写だろうと疑問に感じないかな?」とちょっとでも思ったら、その前に主語を入れるようにしましょう。
本当は主語を入れすぎないほうが日本語としては綺麗ですし自然です。
でも誰が何をしているかわからないような小説になってしまったら元も子もない。
文章のこなれ度よりも、わかりやすさを優先させるべきです。
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先ほどのシーンを書き直してみました。
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ヒロシが校門から出ようとするまさにそのとき、ミサトとスグルがまるで恋人どうしのように肩をならべて向こうからやってきた。
「えっ! おまえたちなんで一緒なんだよ!」とヒロシが驚くと、スグルがいいわけをする。
「さっき、道でばったりあったからだよ」
「でもさ、人からみたら付き合っているようにみえるぜ」
ヒロシがそうからかうと、スグルは照れ臭そうにしていたが、ミサトはなぜか青ざめていた。
ミサトは小刻みに震えながらこう言った。
「なんか変だよね。この時間に校門の前に三人しかいないなんて」
「そういえば……」とヒロシとスグルもあたりを見回す。
そう、不思議なことに、校門から校庭を見ても、反対側の通りを見ても、人っ子ひとり歩いていないのだ。
その時だった。空が急にどす黒くなり、いなずまが走った。
2秒おいて雷鳴がとどろきわたる。
(何が起きたのだろう? もしかしてこれが「5ちゃんねるまとめ」で読んだ異次元の入口? それにしてもなんでこんな時に……今日はせっかくミサトちゃんとばったり会えたというのに……あっミサトちゃんスグルにしがみついている。ミサトちゃんとスグルってやっぱり付きあっているのかな? くそー!)とヒロシは運命をのろった。
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だいぶわかりやすくなりましたね。
主語をマメに書いたほかにも少年、少女、この子、こいつら、といった言葉を登場人物の名前に書き換えています。
また書き直し前はヒロシはミサトのことを「ミッちゃん」と愛称で呼んでいましたが、書き換え後は「ミサトちゃん」と本名にちゃんづけに変えました。
わかりやすい小説を書くためには、一人の登場人物を複数の呼び名でよばないほうが吉です。
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さらにわかりやすくする方法として、次のような方法があります。
1)セリフを聞いただけでもだれが話しているかわかるように書く。
女言葉、男言葉、お爺さんことば、などは積極的に使う。
ざあますことば、乱暴な言葉、お嬢様言葉……などもキャラにあわせてどんどん使いましょう。
たとえば先ほどのシーンだったらミサトのセリフを「なんか変じゃない? この時間に校門の前にわたしたち三人しかいないなんて」というように、女の子らしい言葉づかいに変えると、さらに誰のセリフだかわかりやすくなります。
また男子学生が二人いるわけですから、一人の一人称を「俺」にして、もう一人は「僕」にしたりするのもいいですね。
2)視点を固定する。
小説を書くときはなるべく視点を固定するようにしましょう。
短い字数の中で視点を変えてはいけないのは、小説を書く上での常識中の常識ですが、できれば一つの作品を通して視点を変えないことをおススメします。
読者はぼーっと読んでいることが多いです。
視点が変わった時に、それがわかるようにちゃんと主語を書いてあげても、読者は読んでいなかったり、忘れてしまうことが多いのです。
一つの作品を通して視点を固定させれば、その小説のなかで、主人公以外の人が思ったり、感じたりすることは決してないわけです。
だから「思った」とか「感じた」と書いてあれば、読者は主人公がそう思ったり感じたのだと特に意識していなくても、瞬時にわかります。
情景描写を書いても、主人公が見ている景色なのだとすぐにわかります。
またモノローグや心理描写を書けば、読者は「これは主人公の胸のうちを書いているのだな」とすぐにわかるわけですね。
このように序章から完結まで視点をブレさせない小説が、読んでいて一番わかりやすいです。
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でもどうしても視点移動をしたい場合もあるでしょう。
そのときはまずは書き方を工夫して、視点移動を極限まで減らすべきです。
さらに動作や心理描写の前にしつこく主語を書くようにしましょう。
例)
× 空を見上げるとどすぐろい雲の上に雷光が走った。
〇 ヒロシが空を見上げるとどすぐろい雲の上に雷光が走った。
× あいつらつきあっているのかな?
〇 ヒロシは思った。「あいつらつきあっているのかな?」
× 胸がむかむかする……
〇 ヒロシは胸のむかつきを感じた。
特に視点が変わってから、1,2章ぐらいは、念入りに主語を書くように気をつけましょう。
ただあんまり「ヒロシは」「ヒロシは」と繰り返すと美しい日本語ではありません。
やはり一つの作品を通して、視点を固定したほうがすっきりまとまった小説になりやすいです。
一番のおすすめは最初から最後まで一人称で主人公視点の小説を書くことです。
一番書きやすくて読みやすい小説にしあがります。
それ以外の場合は、わかりやすくするための工夫がいろいろと必要になるわけです。
読まれない小説はもう卒業! 最後まで読んでもらえる小説の書き方 宇美 @umi_syosetsu
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