掌編小説・『Guts Pose』
夢美瑠瑠
掌編小説・『Guts Pose』
掌編小説・『ガッツポーズ』
僕には好きな女の人がいて、告白をしたくて、ずっと思い悩んでいるのです。
僕は無職のニートで、顔も不細工で、体つきも貧弱なのです。
モテるわけがないし、モテたことがないのですが、女性に対するあこがれだけは、人一倍強いので、街を行く女性とかにも、いちいち目を奪われて、自分で点数をつけたりするのです。
「この子は顔がきれいだけど痩せてるなー眼鏡だしー67点」
「この子は体格が立派だけど鼻ぺちゃで出っ歯だなー58点」
「この子は容姿はほぼ完ぺきだけどボブの髪型で好みに合わないな。80点」
「この子はできるOLタイプで、きりっとしていてかっこいいし、何かセンスあるファッションだなー90点」
そういう陳腐な感想を抱いて、相手にされるはずもないのに、口説いている場面をシミュレーションしたりしているのです・・・
モテないというのはもう病気みたいなもので、モテないというと全くモテない。
しまいには女性というのが別の生き物みたいな特別な存在に見えてきて、モテるやつとかいうのは、神様の特別な恩寵を受けた、次元の違うスーパーマンみたいに思えてくるのです・・・なんか可哀想だな?
ところで、僕のお目当ての女性というのは、図書館の司書の女性なのです。
図書館というのはニートにとっては一種の待避壕で、これはもう学生時代からそうなのですが、何となくいつも図書館に避難するというような、そういう学生がいて、僕もそういう居場所のない人だったのです。
で、成人してからも、相変わらず本だけが友達で、図書館に足繁く通っているとかいうと、もう、いつも顔見知りの女性というと、司書さんしかいないとか、そういう帰結になって、で、だんだんとその女性が恰も知性と教養の象徴の「図書館の女神」みたいな、そういう特別な意味を持った神聖なアイドル的な存在になってしまった、
大げさに言うとそういう成り行きなのです。
図書館という背景が光背効果を持ったというかそういう感じでもあります・・・
僕が特に感動したのは、「ひきこもり、ニート、不登校から一発逆転!」という本を借りようとしたときに、その司書さんが、「うんこれはー」みたいに本を撫でて、ニコッと微笑んでくれた時です。司書さんの気持ちが痛いほど伝わってきて、僕は泣きそうになった。やっぱり、根はやさしい人ばっかりなんだなーみたいに思えてうれしかったのです。
司書さんだけに、やっぱりその人も品があって、聡明そうで、優しい声をしている。肌は白くて、陶器のように滑らかでつやつやしている。近寄りがたい感じもありますが、雰囲気がすごく自然でアットホームなので、人見知りの僕でもなんとなくそばにしばらくいたくなるような、好ましいムードを身辺に纏ったタイプの人なのです。
少し言葉も交わしたりすることがあって、「『愛のひだりがわ』、2時間で読みましたよ」
「まあ、速いのね。私も読んだのよ。途中で読みさしをしたくならない本って珍しいわよね」
とか話したりする。大体購入した本には一通り目を通してみるのかもしれない。
何の本の話を振っても、「ああ、あれね、」という感じで答えてくれる感じなのです。で、だんだん恋心は募ってきて、一度、「LOVE理論」とか、「愛される理由」とか、「戀愛中毒」とか、「愛と苦悩の手紙」とか、わざとそういう本ばかり借りてみたりしたが、彼女は素知らぬ顔で手続きをして、「はい」といって、手渡してくれて、それでもちょっと含み笑いしている感じだった・・・
名札には「本田」とあって、司書らしい名前だが、下の名前は分からない。
だんだんに本田さんのことばかり四六時中考えるみたいになってきたので、図書館にも何となく行きづらくなってきて、しばらく休んでいた。
その間に僕は、「初恋」という小説を、処女作なのだが、本田さんへの思いを込めて、一所懸命に書いてみた。表題のページの裏には、本田さんに捧ぐーと、書いてみた。本田さんとの出会いと、それからのいろんなエピソード、その間にこれまで経験したいろんな人生のエピソードや、様々な自分の想い、劣等感や、恋愛への憧れや、辛かった学校生活のこととか、あるいは好きな本や音楽や、引きこもりになったいきさつとか、いろいろなことを絡めてみた。そうしてもちろん、本田さんへの熱烈な思いを、真情を込めて、告白するという、「ラブレター」形式として全体をまとめた。
到底うまくまとまっているという感じではなかったが、3日後に延滞していた本を返しに行ったときに、思い切って、「これ、読んでください!」といって、原稿の束を渡した。本田さんは「えっ?」と、目を丸くしていたが、「僕の書いた小説なんです。僕の気持ちを精いっぱい表現したつもりです!」というと、全てのみこんだ、という風にニコッと微笑んでうなずいて、「まあ素敵。喜んで読むわ。」といって受け取ってくれた。
・・・ ・・・
僕は三日ほど興奮と緊張でほとんど眠れなかった。
そうして、三日後に少し眠かったがユンケルを3本飲んで目を醒まして、図書館に出かけて行った。本田さんは僕を見ると、これまでとは違う、一種独特な目で、意味ありげにうなずいた。
「結城くん・・・だったわね。小説読んだわ。すっごい面白かったー処女作とは思えない。もうほとんどプロみたいに上手に感じました。天性のひらめきみたいなものがあったわよ。この才能を私が育てていってあげたい・・・
ね、この続きを二人で作っていってハッピーエンドにしましょうよ。
私は本田由紀といいます。よろしくね♡」
本田さんの目つきには、恋している人の熱っぽさがあった・・・
なんて素晴らしいー僕は有頂天になった。
処女作で、僕はこんな素晴らしい女性を虜にできたのだー
「やったぜ!」と、僕は心の中で大きく”ガッツポーズ”をした・・・
<了>
掌編小説・『Guts Pose』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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