3人の焚き火の見張り番

ちびまるフォイ

焚き火の社畜たち

「よいか、この焚火は村を守る火の神なんじゃ。

 けしてこの火を絶やしてはならんぞ。絶やせば村に災いが訪れる」


「わかりました村長。我々で焚き火を見張っています」


村の若者4人は焚き火を寝ずの番で見守ることとなった。

その夜のこと、4人は疲れに耐えきれなくなってウトウトしはじめた。


「ああ、やばい。もう眠すぎて耐えられない」


「交代で眠るか?」


「そうしようそうしよう」


「でも、焚き火の見張り番たる俺たちが寝てるのバレたらやばくないか?」


もしも、村の誰かが夜に起き出して運悪く焚き火を見たら。

焚き火に照らされて見えるシルエットが寝ている姿だったら。


「さすがに寝るのはまずいよな……」


「それじゃ外から見えないようにしないか?

 焚き火が外の風で消えないようにするため、とか言い訳すればいいし」


「それだ!!」


4人は急きょ焚き火を囲うよう壁を立てていった。

外から中の様子を見えないようにして眠る準備を整える。


「これなら外から見えないぞ」

「やっと眠れる。今にも倒れそうだ」

「順番で寝ようぜ」


4人は1人を残して眠ることにした。

それが何巡目か繰り返して慣れてきた頃のことだった。


「……あれ?」


誰に起こされることでもなく起きたひとりの見張り番は、

空に日が昇り始めて明るくなっていることに気づいた。


そして、目の前で燃えているはずの焚き火が今にも消えそうになっていることも。


「おいみんな起きろ!! 焚き火が消えそうだ!!」


慌てて他の3人を叩き起こした。

焚き火を見るなり全員の顔は青ざめた。


「こんなか細い火じゃすぐ消えちゃうぞ!」

「なんでちゃんと焚き火見てなかったんだよ!?」


4人の見張り番は誰が焚き火の監視をサボったのかと犯人探しをはじめた。

けれど、何度も交代で眠ったり起こしたりを繰り返していたので意識はもうろう。

もはや誰の順番で焚き火がどうなっていたのか知るすべはない。


不毛な泥仕合をしている間にも焚き火の火はみるみる消えかかっていく。


「どうするんだよ。このままじゃ焚き火は……」


「村の火を絶やしたらどうなるか……」


「なにか燃やすものをもって来るしかない!」


「バカ! 材料集めてるときに村の人に会ったら、

 焚き火が消えかかってることがバレるだろ!?」


「それじゃどうすりゃいいんだよ!?」


焚き火が消えたとバレたときの仕打ちを考えたとき、

見張り番の一人から表情が消えた。


おもむろに足元に転がる大きめの石を手に取ると、

いきなり隣にたっていた見張り番の頭をぶん殴った。


「おい!? いったい何してるんだ!」


「お前らも手伝え! 足を抑えて焚き火にぶん投げるんだ!!」


「まさか……」


「早くしろ!!」


3人は見張り番を動けなくしてから焚き火へと放り込んだ。

人間の体に含まれる脂が焚き火のいい燃料となり、

消えかかった火の勢いをふたたび復活させた。


「よかった……間に合った……」


3人の見張り番が安心したとき、村長がやってきた。


「おはよう。朝起きたら焚き火の周りに壁ができてて驚いたわい」


「そ、村長っ。おはようございます。いやぁ、昨日の夜は風が強くて。

 こうして壁を立てないと焚き火が消えてしまいそうだったんです」


「そうかそうか。なんて仕事熱心なんじゃ」


「ええ。俺たちはこの村に災いを呼び込まないようにとがんばってました!!」


「……はて? 見張り番が1人いないようじゃが?」


「じ、実は……ひとりは逃げ出しまして……」


「逃げ出した!?」


「はい! とんでもないやつですよ。俺たちも必死に止めようとしたんですが。

 やつはとっても足が早くて追いつけないし、追いかけたら焚き火の見張りを離れてしまう」


「目を離したときに焚き火が消えてはたまらないと、

 俺たちは彼を追いかけることよりも焚き火の見張りを続けたんです!!」


「な、なんて立派な心意気じゃ!!」


見張り番たちの熱いプロ意識に村長は大粒の涙を流した。


「1人が抜けても3人だけで必死に焚き火を見張っていた心意気、

 君たち3人には村を代表してたんと褒美をあたえよう!」


「本当ですか! ありがとうございます!!」


「さぁ、わしの家まで来るといい。すでに太陽は昇りきっている。

 村の火が消えても、もう魔物が襲ってくることはないじゃろう」


村長は3人を案内しようとしたが、3人全員が顔を横に振った。


「こ、この火を絶やすんですか!? 村長!?」


「そうじゃが……普段から昼間は魔物が来ないから焚き火は消しているじゃろ?」


「今この火を絶やせば昼間でも活動できる魔物が襲ってきますよ!」

「そうです! 昨日の夜、村の外に大きな魔物を見かけました!」

「火を消してしまえばたちまち魔物の餌食です!!」


3人の頭は焚き火の炎で今は見えなくなっている人骨のことでいっぱい。

もしも火が消えてしまったらすべて白日の下に晒されてしまう。


「俺たちはこの火を見張っている必要があります!」

「誰にもこの場所を譲る気なんてありません!」

「けして火を絶やさないために!!」


「お前たち……! そこまで……!! そこまで村のためを思ってくれてるんじゃな!! お前たちこそ村の英雄じゃ!!」


3人はその生命が尽きるまで、食べることも寝ることもままならないまま火を見張り続けた。

そんな献身的な姿に感動した村の人達は3人を火の神様として崇めた。


焚き火の下に眠る4人目の人骨には最後まで気づかれないまま、

3人の男の英雄譚はいつまでも語り続けられるのだった。

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