殺戮ジパング ~元寇・九州本土防衛戦~
中七七三/垢のついた夜食
1.本土防衛最前線の島
一二七四年(文永十一年)九月も終わりの対馬である。季節は明らかに冬に向かっていた。
玄界灘の波濤は狂気を感じさせるほどに荒れている。
その日、対馬の国府のある巌原の港に一艘の早舟が着いた。
「この三人だけか?」
「左様」
対馬守護代、宋助国配下の男(郎党)の問いに、大宰府からの役人は答えた。
(このような者らがか?)
吹き荒れる風浪の響の中に、宋助国配下の男の呻くような呼気が漏れる。
男はそこに立つ三人の者をみやった。
異様な三人であった。
身の丈六尺を優に超えるであろう大男。
頭を丸めた僧のような男。
そして女だ。それも恐ろしいまでに美麗な女。
歩き巫女なのか?
(大宰府は何を考えているのか?)
と、いう思いが口に出そうになる。
確かに、流人でも下人でもとにかく兵となる者を送ってくれと願い出てはいた。
すでに送られてきた者はかなりの数になっていた。
しかしだ――
「いつまで立ってればいいんだい?」
三人の中で最も背の高い男の言葉が、宋助国郎党の思考が遮られた。
改めて男を見やった。
大きい――
そして、まるで氷塊を闇のなかに置いたかのような冷たく暗い気が身から漏れ出しているようであった。
どうみても脅しにしか使えそうにない巨大な太刀を身に着けていた。
「名は?」
「
虎猿という男は、己が名を石でも投げ出すように言った。
続いて――
「
「
と、名乗りを上げた。
巫女装束で大弓を持った女が「伊乃」であり、薄汚れた僧の姿をした男が「破戒」であった。
対馬の郎党は思わず問うた。
「分っておるのか?」
「戦であろう」
虎猿は、心底つまらなさそうに言った。
「銭さえ積めば、こやつらは裏切らぬ。銭さえあればな。なあ、虎猿よ」
大宰府からの役人は虎猿に言った。
虎猿は面倒くさそうに、ぼさぼさの頭をかいた。
「銭さえ積めばいい。積み上げれば、己の親だって殺せる」
「あははは、そうだね――」
「まあ、そういうことよ」
異様な三人組が首肯の言葉を口にする。
違っていた。
宋助国の郎党は震えていた。
これまで出会ったどのような者とも違う。
百姓とも
漁師とも
下人とも
罪人とも
その他、どのような種類の人間とも違っていた。
そもそも、人と表現することが正しいのか――
(鬼――、理外の者――)
と、思う。
そのとき、郎党は虎猿に対しそう思った。
震えはまだ収まらなかった。
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