第12話
マルコムたちがダンジョンに入って30分ほど。
一行は、ようやく一階層の真ん中にさしかかっていた。
大量に持ち込んだポーションはすでに枯渇しかけており、あとは予備として用意した<ヒール・クリスタル>だけが命綱だ。
はっきり言って、ダンジョンには全く歯が立たない状態だった。
しかし、マルコムの頭には撤退という文字は浮かばなかった。
まさか、ダンジョン一階層の途中までしか進めずに街に逃げ帰ったりしたら、自分の評判は地に堕ちる。
なんとしても、クエストを達成しなければと思った。
――だが。
行く手を遮ったのはハイ・トロール。
ダンジョン・ウルフと比べて、かなり強力なモンスターだ。
「――“ブリザード・ウインド”!」
アラベラが魔法攻撃を放つ。しかし、ハイ・トロールはそれを受けても、怯みすらせず、アラベラの方に襲いかかってきた。
トロールは棍棒をアラベラに振りかざした。
「“ブリザード・バリア”!」
氷の幕で身を守ろうとするが、軽々突破されてしまい、棍棒の攻撃がアラベラに直撃した。
アラベラはダンジョンの壁に叩きつけられて、HPが大きく削れる。
もう次の攻撃を受ける余裕はない。
と、今度はトロールの目線がマルコムに向き、彼に襲いかかる。
マルコムは“神聖剣”の力でなんとか敵の攻撃を受け止めようとしたが、しかし支えきれなかった。
そのまま、壁に叩きつけられる。
「ぐッ!!!」
――このままでは命が危ない。
だが、もはやこの状況では逃げることさえ難しかった。
と、トロールが冷徹なその瞳を倒れこんだマルコムに向けた。
「マルコム様!」
トロールが棍棒を振りかざす。
次の攻撃が当たったら、マルコムのHPは全てなくなる――
「い、い、いやだぁあああああ!!!」
そう叫ぶマルコムだったが、トロールは容赦無く棍棒を振り下ろし――――
「“ファイヤーランス・レイン”!」
と、暗いダンジョンに、まばゆい炎が広がった。
突然現れた炎の槍がトロールに命中し、その緑色の体が業火に包まれる。
廊下の向こうから別の冒険者が現れて、マルコムたちを助けたのだ。
冒険者たちは続けざまに魔法を放って、トロールを倒してしまう。
「おい、大丈夫か?」
「あ、あぁ……」
命が助かったと知ったマルコムはなんとか、立ち上がる。
と、冒険者はマルコムの顔を見て、その正体に気がつく。
「お、誰かと思ったら、レノックス公爵様の跡取り様じゃねぇか」
冒険者は、下級貴族の一族でマルコムのことを一方的に知っていた。
そして、それはマルコムにとってもっとも都合が悪いことだった。
ダンジョンの一階層で死にそうになっていたところを助けられたなど、これ以上ない屈辱的な出来事だった。父親に知れたら、どれだけ怒られるかわからない。
「――大丈夫ですか、マルコム様。ダンジョンの外までお送りしましょうか?」
その冒険者の申し出に、飛びつきたいのは山々だったが、マルコムのプライドがそれを許さなかった。
「いや、結構だ! いくぞ、アラベラ!」
と、そのまま礼も言わずにその場を立ち去るマルコムだった。
その情けない姿を見て、冒険者は首をかしげる。
「……あれが、本当にあの<剣聖>レノックス公爵の息子なのか?」
†
そのままダンジョンから街に戻り、ホテルで一泊してから実家に戻ったマルコム。
しかし、顔をあわせるなり、レノックス公爵は息子を怒鳴りつけた。
「レノックス家の跡取りが、ダンジョンから逃げ出したと噂になっているぞ!」
「す、すみません、父上……」
「……お前のせいでとんでもない恥をかいたわ」
「本当に申し訳ございません」
アラベラの前で叱責され、マルコムは怒りに打ち震えた。
しかし父親に言い返すなどできるわけがなかった。
「全く、この恥さらしが……」
――手塩にかけて育てた長男が“外れスキル”を手に入れたと思ったら、次男もポンコツときた。
レノックス公爵は、不出来な息子を前に頭を抱えるのだった。
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