第8話



 俺はどんどんダンジョンを進んでいく。


 驚いたのは、なぜか遭遇するモンスターが極端に少ないということだ。

 前にダンジョンに入った時には、数分おきにモンスターに遭遇していたのだが。

 Bランクダンジョンということで勝手が違うのか。


 そして、遭遇するモンスターは、ほとんどが、さっき倒した<ゴースト・ファイヤー>だった。

 ゴブリンやオークなど、実体のある魔物にはほとんど出会わない。

 もしかして幽霊モンスターばかりが出るダンジョンなのだろうか。


 しかしまぁ、あまり深くは考えないことにした。

 マッピングクエストなので、モンスターが出ないのは好都合だ。


 あっという間に一階層を突破。

 そして二階層もものの数十分で突破し、俺は依頼された第三階層の入り口までのマッピングを完了してしまった。


「うーん、せっかくだし、もっと進んでみるか」


 クエストは、第三階層の入り口までのマッピング、というものだったが、それ以降のマッピングもしておけば、余計に報酬はもらえるだろう。


 それに、せっかく“ゴミ強化”でステータスが強化されているのだから、もっと強いモンスターと戦ってみたい。



 という訳で、俺はそのまま第三階層を進んでいく。


 だが、相変わらずモンスターはほとんど出てこない。


「Bランクって言ってだけど、ほんとか?」


 俺は思わずそう呟く。

 ギルドがランク査定を間違えることがあるのかどうか知らないが、例えば、Bランクのファイルに間違えてDランクダンジョンの情報が混じっていたとか、そういう事務手続きのミスであればありそうだ。


 ……こうなったら、せっかくなので最奥部までマッピングしてしまおう。


 というわけで、俺はどんどん進んでいくことににした。

 第三階層も数十分で突破し、第四階層まで来る。


 そして、さらに数十分歩くと――とうとう広い空間が見えてきた。


 その奥に鉄の門がある。

 あれはいわゆる、ボスの間というやつだ。


 つまり、ここがこのダンジョンの最奥部。

 これで、このダンジョンのマッピングは完了ということになるのだが、


「……せっかくだし、ボスと戦ってみるか」


 本来であればボス攻略はパーティで行う者だ。

 一人でボスを倒すなんて、それこそS級冒険者でもなければ難しい。


 しかし勝てないにしても、どんなボスなのかくらいは知っていて損はなかろう。

 相手のことを知った上で、パーティを組んでもう一度ここに来ればいい。


「よし」


 というわけで、俺はそのままボスの間の扉を開け放った。


 ――中から出てきたのは、キング・トロールであった。


 身長10メートルにもなろうという、二階建ての建物くらいの大きさがあるトロールである。

 動きは愚鈍だが、いかんせん巨体であり、魔力耐性も合間って、倒すのは容易ではない。 


 キング・トロールは、俺を見ると、低い叫び声で地面を震わせた。

 流石の威圧感である。


 果たして、どれほど強いのか――

 俺は腕を試したい一心で、剣を抜いた。


 さぁ、まずは小手調べ。


「はぁぁ!!」


 地面を蹴って、緑色の巨体に向かって突撃する。


 なんてことのない、基本的なアタック。

 それに対して、トロールは棍棒を振りかざして来るが、それより先に俺の剣先がその巨体に到達する。


 ――そして、



「グァァァ!!!!!!!!!!!!」



 トロールは一撃で倒れた。


「……へ?」


 トロールの図体は四散して、後に宝箱がぼんと落ちてくる。


「え、倒した? ボスを?」


 自分でも何が起きているのかさっぱりわからなかった。

 ボスは本来、最低でも数名でアタックして倒すものだ。

 まして、Bランクともなれば、手練れの冒険者が揃わなければ攻略は難しいとされる。


 それなのに、なぜかたった一撃で倒してしまったのだ。


 ……いったい、何が起きているんだ。


 一瞬、実は倒したのは普通のトロールで、ボスは別にいるんじゃないかとも思ったが、しかし見間違うことはない。目の前にあるのは、ボスを討伐した時に出て来る宝箱である。



 ――考えられる理由のはただ一つ。


 “ゴミ強化”の力だ。

 100倍になったステータスの恩恵は、俺が思っていたよりはるかに強力なのだ。


 ――外れスキルだと言われたが、とんでもない。

 超大当たりスキルじゃないか。

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