第3話
俺は、“ゴミ強化”という外れスキルを手に入れたその日に、実の父によって家を追放されることになった。
与えられた時間は、わずかに10分。
その間にわずかな荷物だけをリュックに詰めて、館を出た。
すると、入り口の門ところで、異母弟マルコムが待ち伏せをしていた。
――俺と違って、彼は“神聖剣”の高レアリティスキルを手に入れた。
冒険者としての成功は約束されたも同然だ。
その隣には、今朝父が俺のパーティメンバーにと買った黒エルフ、アラベラの姿があった。
家を追い出された俺の代わりに、マルコムに仕えることになったのだ。
「哀れだな」
マルコムが俺にそう声をかけて来た。
ニンマリという言葉がまさしい笑みを浮かべている。
「まぁ、でも、公爵家を継ぐっていう大役から降りられてよかったじゃないか。これからは、凡人として……
ぷぷ。……楽しく生きなよ」
途中から笑いだすマルコム。
俺はその横を、黙って通り過ぎていく。
†
俺は、一番近い村に向かってとひたすら歩いた。
そして、なんとか日が沈む頃には村にたどり着くことができた。
旅人が立ち寄るような村ではなかったので宿屋は存在しなかったが、村長に頼み込んで空いている納屋に泊めさせてもらうことにした。
寝床について横たわったことで、一気に現実を直視する。
手持ちの金はわずかしかない。食事と宿代で数日分だ。
だから生きていくには、なんとか身銭を稼がないと生きていけない。
幸い、これまでずっと剣士として技は磨いてきた。
スキルは外れスキルだったが、それでもなんとか冒険者として生きていくことはできるだろう。
――とりあえず、街を目指そう。そこでギルドに所属してダンジョンで身銭を稼ぐ。
そうだ冒険者になるんだ。
そうと決まれば、少し気持ちが楽になった。
――――
――
それで俺はようやく瞼を閉じる。
そのまま意識が遠のいて――
「た、大変だ!!!!!!!」
突然。
静寂を破る村人の声。
俺は飛び起きて様子を伺う。
すると、再び叫び声た聞こえてきた。
何かが起きているのは間違いなかった。
俺は枕元に置いてあった剣をとり、勢いよく納屋の扉を開けた。
そして外を見ると――村にゴブリンたちが現れていた。
その数は10体ほどだろうか。
――なぜ、こんなところにゴブリンが!?
村の男たちが家の外に出て、槍で応戦していた。
しかしなかなか倒せないでいる。
ゴブリンは決して強いモンスターではないが、今日は話が違う。
村の入り口の方から、肩で風を切りながら現れたのは――<ゴブリン・ロード>。
ゴブリンの上位種で、そのスキルでゴブリンたちを強化して率いる。
さらに自身も強力な戦闘能力を持ち、並みの冒険者では手も足も出ない。
Bランクダンジョンの奥に現れるような、強力なモンスターだ。
これは、本当にまずい。
この小さな村に、ゴブリン・ロードに勝てるような人間がいるわけない。
――もちろん、俺も含めてだ。
だが、このままでは全員皆殺しだ。
――なんとか、食い止めるしかない。
倒すのは無理でも、時間を稼ぐことくらいはできるかもしれない。
「うぉぉぉぉ!!!」
俺は剣を抜いて、ゴブリン・ロードに立ち向かう。
ゴブリンロードは、俺に気がつくと持っていた大剣を振りかざして来る。
大剣には魔力が込められていた。俺は渾身の一撃で受け止めようとするが、その衝撃に耐えきれず、軽々跳ね返された。
なんとか空中で体勢を立て直し着地するが、すぐさまゴブリン・ロードが距離を詰めて来た。
見かけに反して俊敏な動き。ギリギリのところで剣を振るい、身を守ろうとするが、再び跳ね飛ばされる。
だめだ、力が違いすぎる。
時間稼ぎすら、できない。
――これまで必死に剣を磨いて来た。
だが、強いスキルがなければ、強敵には勝てない――!!
絶望に吸い込まれそうになり――――
――だが、その瞬間。
俺の頭に、電撃のような閃きが起こった。
――お前のようなゴミ(・・)は我がレノックス家にはいらん。
頭をよぎったのは父の言葉。
だが、それは俺にとって絶望の言葉ではなかった。
そうだ。俺は<外れスキル>のゴミ人間だ。
それなら、もしかして、“ゴミ強化”の対象になるんじゃないか?
――もしかして、俺自身(・・・)がステータス10倍強化の対象になるんじゃないか。
いやまで、そうなったら、“ゴミ強化”のステータス10倍も、もしかして×10倍で、100倍になるんじゃ……?
ゴブリン・ロードが俺の息の根を止めようとこちらに向かってくる。
もう考えている暇はなかった。
俺はダメもとで、スキルを発動することにした。
「――――“ゴミ強化”!!!!」
次の瞬間――俺の全身が輝きを放った。
そして脳内に、女神様の声が響く。
――ユニークスキル“ゴミ強化”が“ゴミ強化”によって強化されました。
――ステータスが100倍に強化されました。
その言葉とともに、自分が生まれ変わるような感覚に襲われた。
そして、俺はほぼ無意識に剣を振るって斬撃を放っていた。
なんの変哲もない攻撃。
けれども――
「――――ッッ!!!」
次の瞬間、剣の生み出した衝撃によって、ゴブリン・ロードは跡形もなく吹き飛んでいた。
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