第2話



「“ゴミ強化”……? なんだ、そのスキルは……?」


 父が神官に怪訝な表情を浮かべながら尋ねた。


「それが……私にもさっぱりわからず。このようなスキルを発現した者は今までおりません」


 ユニークスキルと言っても、全く新しい力を発現することは滅多にない。


 なので、まったく聞いたことがない新しいスキルの発現に、神官も驚いていた。


「文字通り、ゴミを強化するスキル……ということでしょうか」


 それを聞いた父は下級の神官を呼びつけて「何か、ゴミをもってこい」と伝える。

 俺の力を試すためだろう。


 やがて、下級の神官が、錆びてボロボロになった今にも折れそうな剣を持って来た。


「レイ、これに“ゴミ強化”を使ってみろ」


「はい、父上……」


 俺は神官から剣を受け取って、スキルを発動してみる。


「――“ゴミ強化”」


 その言葉を呟くと、古びた剣が光り輝く。

 光は数秒ほどで消え、残ったのはやはり古びた剣だった。


「――神官、何か剣に変化はあるか」


 鑑定スキルを持つ神官に、父が尋ねる。


 すると、神官は恐る恐るという感じで答える。


「……剣の諸々のステータスが10倍になっています」


 その言葉を聞いて、父は「おおっ!」と声を上げる。


 10倍。その数値は、強化スキルとしては破格のものだった。


 強化系のスキルは、対象のステータスが1.5倍になれば大魔導士レベルで、2倍なんてことはまずない。

 それを考えると、剣のステータスが10倍になった、というのは、まさにユニークスキルという言葉にふさわしい結果だった。



 ――だが。


「では、このナイフはどうだ?」


 と、父は懐から一本のナイフを取り出した。

 ――いうまでもなく、これはゴミではなく、通常のナイフである。


「――“ゴミ強化”」


 俺は再びスキルを発動する。しかしナイフは光らなかった。


「神官、ナイフのステータスはどうなっている?」


 聞くと、神官は渋い顔で答える。


「……何も変わっておりません」



 ――これでハッキリした。


 この“ゴミ強化”のスキルは、対象のステータスを10倍にする破格の力を持っている。

 だが、対象にできるのは、ゴミだけなのだ。

 もともと使い道がない、ほとんどステータスも持たないものだけしか強化できない。


 ゴミはステータスが10倍になってもゴミだ。


 極論、0に何をかけても、0なのだから。


 すなわち――



「外れスキル、じゃないか」


 マルコムがそう呟いた。


 †


 神殿から、自宅に戻ったあと、父は俺の前にあらゆるものを持って来た。


 ゴミ、ゴミではないもの。

 武器、衣服、食べ物、動物、挙げ句の果てには奴隷。


 それらに、俺の“ゴミ強化”をかけさせた。


 結果、わかったことがある。


 やはり、俺のスキルはその名の通り“ゴミ”しか強化しないということ。

 そして、何を強化してもやはり、ゴミはゴミだということ。


 元のステータスが低いからゴミなのだ。

 それを10倍そこら強化しても、ゴミはゴミだ。


 あれこれ一時間ほど試した結果――


「……ええい、この無能め!!」


 父は怒りに打ち震えながら、俺をそう罵倒した。


「申し訳ありません……」


 俺は、ただそう謝るしかなかった。


 ユニークスキルの印を持つ者として、公爵家の跡取りとして、これまでずっと期待に応えるため、剣を磨いて来た。


 しかし、ようやく得たスキルが、役に立たないものを、役に立たない程度に強化するという<外れスキル>だった。


 自分でも落胆したが、父のそれは想像以上だった。


「お前を育ててきた十八年間を返せ!」


 これまでの期待に反比例するように、父は強い口調でそう言う。


 そして、



「レノックス家には“神聖剣”をもつマルコムがいる。お前はもういらん」



 ――出て来たのは、そんな言葉だった。


「ち、父上?」


 実の父親から出て来た言葉を、俺は飲み込めないでいた。


 だが、俺の父――レノックス公爵はハッキリと言う。


「お前のようなゴミ(・・)は我がレノックス家にはいらん。いますぐに家を出て行け!」




 ――こうして、俺、レイ・レノックスは公爵家の跡取りから一転、実家を追放されることになったのだった。

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