第16話 外出先の相談
次の日、いつも通り葵が先に登校して行く。
その日の昼休み、また屋上で葵の弁当を一人で食べていると、
「総ちゃん、ちょっと良い?」
扉を開けて葵が屋上に入ってきた。
「何だ?」
「明日、休みだからどっか行こうよ」
「そうだな。どこ行きたい?」
「総ちゃんが行きたいなら……ホテルでも」
「それは無しだっ」
「ちぇーーー。折角、柚子ちゃんと特訓したのに」
今回も柚子のせいで散々な目に遭う。酷い妹だ。
「じゃあ、家帰ってネットで調べようぜ」
「そうだね。出掛けてくれる事が分かって私は満足だよぉ。じゃあ、行くね」
「おう」
早めにその場から去って行った。少しの寂しさはあったが。
放課後、いつものように別々に帰宅し、マンションで落ち合う。何だか悪い事をしているような気分になる。
二人で七階に向かうと、俺たちの部屋の玄関扉の前に美鈴さんがしゃがんでいる。
また酔っぱらっているのか、と思い、声を掛けると、
「どうしたんですか、美鈴さん?」
「あっ、二人とも……うわああーーん」
「なっ、ちょっと」
急に泣き出した。仕方ないので、部屋にあげた。
床に座り、ようやく泣き止んだ。
「美鈴さん、どうしたんですか?」
「彼氏に振られたの」
「えっ」
俺と葵はいたたまれない気持ちでお互いの顔を見る。
「そ、それは辛いですけど、また美鈴さんなら良い人に出会えますよ」
「おかしいなぁ、とは思ってたの。毎回お金は私持ちだし、デートコースは絶対にホテルだったし」
「えっ……それって」
「私のこと、遊んでただけって事。サイッテーの男だわ。総くんと大違い」
その台詞を聞いて、葵が尋ねる。
「ねえ、総ちゃん。普段は新田くんって呼ばれてるって言ってなかった?」
「へっ、ああ、そうだったかなぁ」
「総ちゃんっ」
喧嘩を諭すように美鈴さんが、
「葵ちゃん、嫉妬なんてしなくても私は総くんを取ったりしないわ」
「えっ、美鈴さん。私、勘違いしたりして……。そうですよね、美鈴さんに限ってそんな」
「夜の相手はお願いするかも、だけど」
「美鈴さんっ!」
俺と葵は同時にそう言った。
「兎に角、コレあげるわ」
「なんですか、コレ?」
徐に小さな白い袋を渡してくる美鈴さん。
その袋を開けてみる。
「――ッ! こ、こんなもの要りませんよっ」
入っていたのはゴムの山。何故こんな大量に。
「今日振られた男がね、いっぱい使うから持って来いってうるさいのよ。もう要らないから」
「じゃあ、美鈴さんが処分して下さいよっ」
その様子を見ていた葵が横から覗き込む。
「なに貰ったの?――ッ!」
「あなた達、いずれ使うでしょ? ちょうど良いじゃない」
「美鈴さん、喜んで頂きますっ」
「おま、要らねえ事言うんじゃねえっ」
葵が袋を俺から奪い、自分の服の中に隠す。
「おいっ、美鈴さんに返せっ」
「じゃあ、総ちゃん、取ってみたら?」
「くっ」
今、葵の服の中に入っている。それを取ろうとすれば、服の中に手を突っ込む必要がある。
「あらあ、総くん男の子でしょ? ガッと手を突っ込んだら?」
「なっ、美鈴さん、なんて事を」
「総ちゃん、良いよ? 入れて」
「ちょ、わけわかんねえよっ」
「まっ、後は二人水入らずでどうぞ。私は愚痴聞いてもらってスッキリしたから帰るわね」
そう言って美鈴さんは帰って行った。袋のブツを置いて行ったままで。
「どうすんだよっ。置いてっちまっただろーがっ」
「良いじゃない。コレ結構高いんだよ?」
「お前が何で知ってんだよ?」
「いつか使うと思ってネットショッピングで検索してたの」
「要らねえ事に情熱を抱くなっ」
「でも、ひょんな事から大収穫。全部で十個くらいあったし、一日で……」
独り言をしゃべっている。
そんな中、スマホの着信音が鳴った。
「誰だよっ、こんな時に」
見ると、柚子からだった。
「チッ! 柚子からだっ。無視してやるっ」
「ダメだよっ、総ちゃん。出てあげなよ」
「……仕方ねえなぁ」
仕方なく、応答する。
『おっ、やっと出た』
「何だクソ妹」
『いや、来週お父さんの誕生日だからプレゼントあげようかなぁと思って』
「勝手にあげろよっ」
『なあ、にぃにも初めてあげてみたら? 一回もあげた事ないじゃん』
「恥ずかしいだろーがっ。親父の誕生日に息子からプレゼントなんて」
『喜ぶと思うよ?』
確かにこのかた、親孝行などした事がない。いつも武道の指導をして貰っている恩返しをする良い機会かもしれない。
「なら、和菓子でも買って行くわ」
『ああ、甘い物はダメなんだ。お父さん、調子悪いんだ』
「えっ」
その言葉に頭が真っ白になる。あれほど強かった親父が病気だと。信じられなかった。だが、それと同時に、調子が悪いから誕生日プレゼントをしてみたら、と柚子が提案してきたのも頷ける。
「親父っ、病気なのかっ、そんなに悪いのかっ」
『いや、虫歯が痛いらしい』
「紛らわしい言い方すんじゃねえよっ」
『兎に角、何か選んであげてね。じゃね~~』
「あっ、おいっ」
電話は切られた。親父が病気では無かった事は嬉しかったが。
「お父さん誕生日なの?」
「ああ、来週な」
「じゃあ、明日、お父さんの誕生日プレゼントを選ぶ外出にしよう」
「そんなしょうもない外出で良いのかよっ」
「しょうもなくないよ。お父さんが居なかったら、総ちゃんこの世に居なかったんだから」
「葵……」
親を思ってくれる優しさを葵に感じるのだった。
「プレゼント買ったらホテル行こ?」
「お、お前っ」
すぐにいつもの葵に戻るのだった。
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