PKしていたら、いつの間にか異世界に来ていた件

Leiren Storathijs

第1話 PK

 俺はテオ。これはユーザー名だが、敢えて本名は伏せて置く。俺は、どのゲームにおいても、PKプレイヤーキルが大好きだ。PKが可能で、もしPKが推奨されていなくても、例えペナルティがあろうが、例えアイテムが手に入らなかろうが、俺は『殺す』事が好きだ。


 現実では味わえない感覚。実際に殺す時の感覚は分からないが、やりたいと思いはするが、刑務所ぶち込まれるのだけは勘弁だ。だから、その感覚をゲームの中で補う。


 相手を斬る、殴る、殺す鮮明な感覚は無い物の、『相手を殺害した』という事実が俺に快楽を与える。


 そうして俺はある日、俺にとっての最高のゲームを見つけた。その名も『Chaos Fantasy』。どこのゲームメーカーか知らんが、意外と知る人ぞ知るゲームで、プレイヤーも数百万いて尚、知名度が低い。


 そして何にせよこのゲームはなんとPKが推奨されている。ただのPvPプレイヤーバーサスプレイヤーじゃない。


 PKが推奨されているだけに、ペナルティ以前に莫大な報酬が入り、殺されたプレイヤーは、全て持ち物、所持金を失うという最悪で最高の条件。更にフィールド、街の中、屋内、店の中問わず、多種多様な殺し方が用意されており、このゲームで殺したNPCは永久消滅する。つまり、その代わりを他のプレイヤーが担わない限り、いつでも強奪可能と言うわけだ。


 俺は、此処まで現実地味たゲームは初めてだ。報酬以前にただ殺す事を求める俺は相手にとって最悪のプレイヤーだろうなぁ。


 俺はこのゲームを初めて一年が経った。攻略サイトから安全ルートなんて公開されているのを見て、待ち伏せしては初心者だろうが、上級者だろうが構わず殺す。俺が死んでもいつでも復活できるからなぁ。武器なんて無くとも素手で十分。武器は奪えば良い。


 俺が一番好きな殺し方は、騙し討ちだな。如何にも無害のプレイヤーを偽り、話を適当に合わせて、適当な過去やプレイ歴も揃え、仲良くなった所で、隙を見て殺す。


 完全信じ切ったプレイヤーに殺される瞬間の相手の言動と言ったら腹が捩れるぜ。


「どうしてだよ! 信じてたのに!」

「安全だと思ったのに! 嘘なのか?」

「お前、初心者じゃあ無かったのか!」


 いやはや、PK推奨ゲームで人を信じるとか普通に馬鹿だろ。特にパーティの中に入った後の皆殺しは、夜眠れなくなるほど興奮する。


 そして正に今日がパーティの中に紛れ込む作戦の実践日だ。あぁ、興奮でヘマをしないか心配だ。


 俺はいつもの安全ルートで待ち伏せをし、手負いのフリをする。勿論、チャットでな。


 早速カモがきた。パーティは男剣士一人と、女治癒術師と女魔道士。


「あ、あのーすみません。何でも良いので回復薬持ってませんか? 自分、何の準備も無しにレベル上げに行ってたら思わぬ所で瀕死状態まで陥ってしまい……」


 俺のメッセージに三人は気がつくと、男剣士が快く助けてくれた。


「準備無しで? まぁ、良いでしょう。此処は安全ルートと呼ばれていますが、その先は此処と打って変わって一気に危険になりますからね。僕達は沢山買い込んでいたので、良ければどうぞ」


 俺の所持品に傷薬が五個追加される。全く優しいねぇ〜。なんの疑いもせずに回復アイテムくれるなんて。


「このゲーム始めてどれくらい何ですか?」

「あぁ、俺は一年です。色々なパーティの人達に手伝って貰って、結構強くなったつもりだったんですが、油断してしまいました」


 パーティなんて嘘嘘。全部根こそぎ奪ったやつだ。強い奴はなかなか良い物を持ってて、モンスター相手は楽ちんだったよ。


「それはそれは。確かに油断はどんな時でも禁物ですね。本当に瀕死だったようですが、所持品は?」

「すみません。ついこの前PKにあってしまいまして、全部……はい」


 因みにこれは事実。幾らPKが好きでも、やられる時はやられるからな! まぁ、それこそがやめられねえ原因なんだけど。


「それはお気の毒に。よければ装備もお渡ししましょうか?」

「いえいえ! そこまでお世話になる気は」


 こいつ馬鹿だ。初対面相手に装備まで渡すかっつーの。この次に女魔道士が言った事もご最もだ。


「初対面なのに装備渡すの? この人がPKプレイヤーだったらどうするのよ」

「心配ないだろ。だってこの人初めて一年だよ? レベルもそこまで高く無いでしょ」


 全くもってその通りだ。だが、PK推奨ゲームに置いて、PKプレイヤーにはさっきも言ったとおり優遇される。俺には例え自分より高いレベル相手でも確殺できるスキル持ってるからなぁ。レベルとか関係無えんだよ。


「あはは……」

「じゃあ、今日は此処で休憩しましょうか。夜は危険なモンスターも増えますしね」


 本当に疑わねえ剣士だなぁ。スリープモードに迷わず入っちまった。続いて女魔道士まで……しかし、さっきからなんなんだ? 女治癒術師は、いつまでも眠らねえ。というか俺を警戒してやがる。


「あのー、さっきからなんなんですか?」

「私は疑っているんですよ。貴方がPKプレイヤーなのでは無いかと。貴方が寝たら私も寝ます」


 いやはや、パーティに一人頭の切れるやつがいて助かったぜ。でもなぁ、疑うだけじゃ駄目なんだよなぁ。不安な蕾があるなら切り取らないと。迷わずにな。


 まぁ良い、作戦実行だ。俺は、所持品から、貰った片手剣を一つ引っ張り出す。


「……! 何をしているんですか?」

「さっさと寝てれば良いものを……!」


《スキル発動:Sleeper》

効果:PKスキル。無警戒のプレイヤーに対し、体力半減効果。スリープ状態のプレイヤーは即死。


 俺は何の躊躇いもなく、女治癒術師の前で男剣士の胸に剣を突き刺す。スキル効果で即死だ。さて、あと二匹。寝こけてる女魔道士も終わりだぁ!


「起きてッ!!」

「はっ!? え、何!? うわぁ!?」


 女魔道士に向かって振り下ろした剣は、女治癒術師の叫びによってギリギリ杖で防がれる。ただしPK推奨であるこのゲームは、PKプレイヤー側にあらゆる順境が生まれる!


 杖で咄嗟に剣は防がれるも、顔面に向かってそのまま剣を真っ直ぐに構えれば……!


 剣は女魔道士の頭を貫く。ダメージなんて関係せずにこれも即死。さぁ、最後だぁ……。


「ひっ……!」


 あぁ、PC画面越しだから、あんまり良い表情とは言えねえなぁ……。死ねぇ!


 回復しか出来ねえ雑魚は、生きる価値無し!


《PK効果発動:恐圧》

効果:恐怖効果に陥ったプレイヤーは、被ダメージが五倍となる。


 俺は、女魔道士を殺した後に続いて突進するように剣で女治癒術師の腹を貫く。即死とまではいかなかったが、実質体力をオーバーするダメージで一撃で死亡。


「あぁ〜あ、マジでくだらねぇ。さぁて、どんなもん持ってるかなぁ?」


 俺は、死体を徐に探る。ただ、そんなに良い物は無かった。本当に最低限の物しか持ち合わせていなかった。


 そんな風に俺は死体を前にPCの前で溜息を吐いていると、突然俺の操作キャラクターは死亡した。本来は死因も表示される筈だが、今回は突然の死亡。死因は不明。


《HP損失により、死亡しました。リスポーンまであと10秒》


10、9、8、7


 いつの間に毒でも食らってたのかねぇ。まぁ今回は収穫ゼロだったから死んでも構わないんだが……。


6、5、4、


 PKしても一切ペナルティどころか、良い事ばかりだからな! このゲームは。


3、2、1……


 リスポーンカウントダウンが『0』になった瞬間、PC画面が暗転すると同時に、俺の視界も暗転した。

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