第3-7話 命の石を見つけたい
石について調べるために、図書館で調べていると、気になる本を一冊、見つけた。私はそれを借りて、宿舎の部屋へと戻る。そして、当然のように、二人は図書館にも、私の部屋にもついてきた。
「何借りたの?」
「命の石。童話だけど、読む?」
「ああ、それね。結構有名な話だよね。ね、アイちゃん?」
「なんで私に振るんですか?」
「対応が塩」
一通り、目は通したが、なかなか面白い話だった。本は好きだが、この話は読んだことがなかった。
「あれだよね、死にかけの奥さんのために、不老不死になれるっていう命の石を探しに行くやつ。最後、どうなるんだっけ?」
「男が溶岩の中にある石を取ろうとして、焼け死ぬというお話ですね」
「めちゃくちゃ残酷な結末!?」
中身が抜けているが、最初と最後だけ見ればそういう話だ。
「まなさんは、グロい話が好きなんですか?」
「好きではないけど、避けたいほどでもないわね」
「その話のどこが気になったのでしょうか?」
「だって、命の石は溶岩の中でも溶けないのよ? 気になるでしょ」
まゆがにへらと笑いながら、私の顔をのぞきこんでくる。
「何を思いついたの、まな?」
私はまゆに微笑を返し、口を開く。
「──犯人は、命の石を探してるのよ。そして、何かしらの方法で、それが、この近辺にあるっていう情報を得た。だから、この辺りの石や砂を溶かして、とにかく、必死になって探している。そういうことだと思うわ」
この辺り以外では被害が発生していないことからも、この地域に対する執着のようなものが感じられる。一度溶かした場所は狙わないというのも、ポイントの一つだ。
「でも、犯人の狙いが分かっても、次にどこが狙われるか、分からなくない?」
「それも見当はついてるわ。この地域──学園都市ノアの中で、被害に合っていないのは、ここだけだから」
私は机に地図を広げる。ギルドの依頼を確認し、聞き込みもしながら、被害にあった地域に印をつけておいたのだ。そして、被害に合っていないのは──、
「私たちの家の周りだけですね」
「へえ、地図だとこの宿舎ってここにあるんだ」
私は近頃、肌身離さず身につけている、指輪の表面をなぞる。そして、
「この中に、心当たりがある人、いる?」
不老不死になれる、命の石。この話の中だけの存在だと思いたいが、この二人なら何があってもおかしくはない。なにせ、女王と勇者だ。冒険の途中に見つけたと言われても納得できる。それに、以前、確認したとき、マナの部屋には、大量の宝石があった。
「数は多いですが、もらえるものをもらえるままに受け取っていただけですから、そういったものがあるかどうかは存じませんね」
いかにも、マナらしい。執着がないというか、むしろ、なさすぎて、マナに贈った人が可哀想に思えてくる。
「宝石、棚に並べたわよね。まだ原型は残ってる?」
「棚? そんなものが私の部屋にあるんですか?」
片づけを手伝ったときに、一緒に棚に並べたはずだが、興味のないことに関しては、とことん記憶がないらしい。
「あんたね……まあいいわ。とりあえず、確認しましょう」
「分かりました。それでは、あかりさん、部屋を開けてきてください」
「アイちゃん、また鍵なくしたの?」
「余計なことは言わないでください」
「はいはい……」
鍵を無くして、そのままにしておいていいのだろうかと、思わずにはいられなかったが、いちいち指摘するのも面倒だったので、私は口をつぐんだ。
あかりの鍵で扉を開ける。そして、私は思わず顔をしかめた。部屋の状態が、先日、起こしに来たときよりもさらに酷くなっていたのだ。目眩がするほどの散らかしようだ。
「棚はどちらに?」
「ここに積んである段ボールの後ろだけど?」
「それは大変ですね」
「てか、なんでこんなに荷物が増えてるわけ……?」
「城から、部屋にあった分が送られてきたんです。整理するのも面倒だったので、つい、後回しに。えへへ」
「誤魔化さないの」
「大丈夫です。これくらい、魔法で一瞬ですから」
マナが指を向けると、段ボールたちが宙に浮き、道を開けた。ただし、片づけたわけではなく、寄せただけだ。不満はあったが、今は言及しない。
「全部見ますか?」
「そうね。一応確認させてくれる?」
マナが魔法で棚を開け、中にある宝石をガラスでできた机の上に並べていく。机の上だけは綺麗にされていた。
宝石は並べてあるものだけでも、百ほどあるのではないだろうか。
「わあー! きれー!」
まゆが楽しそうにはしゃいでいた。気持ちはよく分かる。
「こんなにたくさん、誰からもらったの?」
「忘れました」
「忘れたって、そんなわけ──」
「覚えていません」
マナに、聞くなという態度を取られ、私はそれ以上の追求を避ける。何かしら、思いの詰まった宝石たちだと、見ただけで分かった。
この間見た、城の引き出しの中にあった宝石たちも、段ボールに詰められているに違いない。マナの母の歌も、この中のどこかにあるのだろう。
「んー、ありそう?」
マナとまゆには触らせないようにして、私はあかりと二人で机の上の宝石を調べていた。後の二人はうっかり落としそうで怖い。あかりは宝石を落としそうになっても、きっと、自分を犠牲にして守ってくれるはずだ。
「この中にはなさそうね。命の石って、中に水が入ってて、絶えず波打ってるらしいから」
「だよねえ」
てっきり、この中にあると思ったのだが、勘違いだったらしい。宝石を戻すよう、マナに頼もうと、顔を振り返ると、彼女は並べた宝石たちをじっと見ており、何やら考え事をしているらしかった。
「マナ? どうかしたの?」
「──いえ、なんでもありませんよ」
そうして、マナは笑みを浮かべた。とても言葉通りとは思えなかったが、私が何か尋ねようとするよりも先に、マナは宝石を棚に並べ直し、段ボールをその前に積み直した。
「あかりは心当たりとかないわけ?」
「うん。全然ない」
「なんでどや顔……? ──まあいいわ。まだ、どれも溶けてないわよね?」
「はい。大丈夫です」
──そのとき、カラスが鳴いた。そして、部屋に一時、静寂が訪れたことにより、外の喧騒に気がついた私たちは、ベランダから、下を眺める。
「溶けてる……」
宿舎の庭にある石が溶けていた。ここに、現在、魔法がかけられているのだ。
マナが少しずらした段ボールの隙間から棚の宝石を見ると、すべて、スライムのようにドロドロに溶けていた。
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