第2-51話 全部取り除きたい
そんなこんなで、蜂歌祭当日の朝を迎えた。マナは相変わらず、声が出ないように装っており、心配されていた。私は豪華な朝食をいただいたが、食べ方や食器の使い方が気になって、あまり味に集中できなかった。昨日、泊まることになったのが晩御飯の後で良かった。
「マナ様。どうぞ、こちらへ」
マナはこれから身支度で忙しくなるようだ。期待が高まる。
「それじゃあ、あたしは下で見てるわ」
マナは小さく頷き、使用人たちとともに、準備に向かった。それを見届けて、私は城を出ると、あかりとまゆと合流した。
「あ、まなちゃん! 聞いて! 僕、屋台見て回っていいんだって!」
なんとも、悲しくなる口上だ。今まで、本当に参加させてもらえなかったのだろう。自業自得だけれど。
「あんた、遊ぶのはいいけど、怪しい人がいないかちゃんと確認しなさいよ?」
「はいはい分かってるって!」
夜になれば人々は宿に返り、寝静まる。そうなれば、宝石を探すのは不可能に近い。そのため、昨日はほとんどなにもできなかった。無用な混乱を招くわけにもいかないし。そうして、今、私たちは出来得る限り、爆弾を取り除こうと奮闘していた。
最初こそ、マナに止められていたが、声を返せば協力すると言ったのを、私は覚えていた。そこをついてマナを説得し、朝から見回りに出ることにした。最初は危険だからと止められていたが、夜中の一件を蒸し返すと、「そんなに行きたいなら、勝手に行けばいいんじゃないですか。ふんっ」と、快諾してくれた。
「まなー、雲買ってー」
そう言って、まゆは私の背中に乗ってきた。相変わらずの人混みで、迷子になるかもと判断したのだろう。それにしても、入るのが躊躇われるほどの人混みだ。
「じゃ、僕、人混みとかほんと無理だから、よろしくね! できれば、たこ焼きが食べたいな」
「は? あんたね──」
色々と言いたいことはあったが、人に触るのが無理であることを思い出し、出かけた文句を、舌の付け根辺りでぐっとこらえた。そして、意を決して、人波の中へと飛び込んだ。
──数時間後。
「疲れた……!」
逆流などできそうにないほどの人混みを抜け、私はやっと元の場所に戻ってきた。
「お疲れ、まなー」
「本当にね!」
屋台のお金を請求しようと、私は辺りを見渡し、あかりを探す。しかし、見つからない。
「あれ、あかりは?」
「私に聞かれても。ふぁあ……眠いから寝るねー」
まゆは相変わらず他人事だ。まあ、私と共に行動していたわけだし、知るはずはないのだけれど。
人混みの中にいるはずはないし、もう一度入る元気もないしと、立ち往生していると、奥の通りからあかりが歩いてきた。その前方で、人が宙に浮かされている。
「お、ナイスタイミング。その辺に兵士いなかった?」
「あっちにいたと思うけれど……」
「おっけー」
投げるようにその人物を雑に飛ばすと、「よし」と、あかりは一息ついた。
「あれが犯人?」
「宝石を盗んでた犯人みたいだね。魔力を込めた人は別にいるみたい。まなちゃんも、あの人に指輪奪われたんじゃない?」
「言われてみれば、そうかもしれないわね」
顔も背格好もあまり覚えていないが、とりあえず、これで、さらなる被害は防げたということか。しかし、
「身に着けてた宝石、できる範囲で触ってきたけれど、どう?」
あかりが魔力を探知し、爆弾となっている宝石を探す。
「うーん。全然、まだまだあるねえ」
「そうよね……」
いくつかは非活性化したが、全部となると、やはり数が多すぎる。これだけ人が密集していると、そもそも、宝石を探すのも一苦労だし。
「うーん、困ったなあ……」
そう頭を抱えながらも、あかりは爆弾を見つけ次第、魔法で宝石を盗み、私に触れさせ、気づく前に持ち主に返していた。
「こんなの、いつまで経っても終わんないって!」
それはまさに、チャーハンの中からみじん切りにされた玉ねぎを取り除くような作業で、どれだけ取り除いてもキリがない。
「やっぱり、中止にした方が良かったんじゃない? むしろ、なんで中止にならなかったわけ?」
私もさすがに、あの場だけで祭りの決行が決まったとは思っていない。あのとき話し合っていたのはあくまで参考程度で、実際は夜を徹しての会議が行われていたことだろう。
「なんかね、れなさんの占いで、中止にしない方がいいって出たんだって」
「結局、れなの判断なのね……」
ああ見えても、れなは賢者であり、国の有事に関する決定権を握っているのだ。
私はこの決定に納得はしていない。ただ、マナに絆されたのだ。だって、可愛すぎる。卑怯だ。
「僕、本番までに全部取り除ける気がしないんだけど……」
「あたしも同感」
どちらにせよ、すべて取り除いたという確信は得られない。祭本番には参加せず、王都の外に出て行った人もいるだろう。そちらの調査はまた別のところに任せているが、──果たして、全員を検査することなど可能なのだろうか。
「僕、絶対無理だと思うんだけど?」
「それでも、やるしかないわ。ここにいる人たちの命がかかってるんだから。それに、マナのためにも」
「──はいはい、やるだけやってみるよ」
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