第99話 ムチドンドン

 ちむどんどん胸がドキドキして始まった私の修行の旅は、一応充実していた。


 カマドおばーとチヨの旅に同行した初めのころ、1日中歩き回る生活だったので、体を動かす機会の少ない私の体力ではついて行くことができなくて、カマドおばーに呆れられていた。


 なさけない私に合わせて休憩を多めに取り、その都度私の戦闘スタイルについての相談を何度も聞いてくれたカマドおばーには、本当に頭が上がらない。


 最初にした相談は、女の私がナビーやカマドおばーのように、最前線で戦闘ができるようになるにはどうしたらいいかだった。

 しかし、危険を冒してまで最前線で戦う必要はないし、ナビーのように戦えるまでには相当な時間がかかり、現実的ではないと言われてしまう。


 冷静になって考えてみれば、男が戦うこの異世界琉球でナビーとカマドおばーは異常なほど強い。

 2人にしかわからない苦悩や苦労があったはずなので、簡単に考えてはいけないのかもしれない。


 その次の相談では、何かあった時の切り札に使えるように、ティンサグホウセンカモードを習得したいと言ったが「ナビーが教えていないのが答えさー」とだけ言ってちゃんとした理由を教えてくれなかった。


 花香ねーねー達のメッセージ動画を見た日、初めてナビーにティンサグホウセンカモードを私に教えなかった理由を知った。

 ナビーはなんだか申し訳なさそうにしていたが、私にあった方法をいろいろ考えてくれていた結果なので、気にしないで欲しい。


 ナビーたちから石敢當いしがんとうの事を任された後からは、作っては取り付けの繰り返しの日々が続いた。

 今では石敢當を作りすぎて、特技【石敢當シールド】を会得したくらいだ。


 旅の途中、軍からはぐれたグナァウニ小鬼イチムシ生き物マジムン魔物と戦うことがあり、試しに【石敢當シールド】を使ってみた。すると、そこらのマジムン程度では、触れただけで消滅するほど魔除けの効果があった。


 【石敢當シールド】を見たカマドおばーに「琉美の悩みはこれで解決さー」と言われた。

 どういうことか聞いてみると、私の悩みの1つに、戦いに参加しても強い白虎を私の護衛にするのは申し訳ないというのがあった。しかし、石敢當シールドがあれば、白虎に乗って逃げ回らなくても、後方でドンと構えて自分で自分を守れるだろうと言っていた。


 私もそれに納得したが、まだあの2人と肩を並べてという目標にはほど遠く感じる。


 そんなある日、復興中の今帰仁なきじんぐすくの村で、いつものように石敢當を設置していると、マジムン魔物軍が襲ってきて今帰仁軍との戦が始まった。


 カマドおばーの方針で、私たちは簡単に加勢しないことになっている。私たちが関わりすぎると簡単に勝ててしまい、兵士の成長の機会を奪ってしまうからだそうだ。


 しかし、この日の今帰仁なきじん軍は苦戦していた。

 なぜなら、いつものウフウニ大鬼グナァウニ小鬼からなるマジムン軍ではなく、虫や動物などの生き物からなるイチムシ生き物マジムンの軍だったからだ。


 私たちの世界では何体も倒してきたイチムシ生き物マジムンだったが、異世界琉球では意外と戦うことが少ない。

 兵士たちは、多種多様な生き物の特徴を生かして攻撃してくるイチムシ生き物マジムンとの戦闘経験が乏しいので、戦い方がわからないようだった。


 流石にこれではいけないと、私たちも加勢することにした。

 たしか、グナァウニ小鬼は倒してもステータスに反映されにくいが、イチムシ生き物マジムンは反映されるとナビーが言っていた。


 この機会を逃す手はないと思い、マジムン軍を私たちは倒さずに弱体化だけさせて、とどめは兵士達に差させるようにカマドおばーにお願いした。多分、シバがいたらこうしていたと思う。


 しかし、肝心の兵士たちは圧倒的な力に傷つき、怖気づいている。

 とりあえず、私は傷ついた100人の兵士の回復。カマドおばーとチヨはマジムン軍の弱体化に取り掛かった。


 今帰仁なきじん軍の半数が動けない中、1人1人回復していくのは時間がかかりすぎる。効率の良い方法を考えている今でも、けが人はどんどん増えていく。


 シバとナビーに助けを求めたほうが良いと思ったが、あの2人は自分たちの役割を頑張っているから邪魔をしたくない。


 一度に全員を回復することができたなら、戦況はガラッと変わり作戦も成功する。


 これでも私は【中二病】なので、技のイメージを再現しやすくなっている。

 とりあえず、私がここに居る100人全員を一度で回復しているイメージをする。

 私が使える回復の技は、グスイムチグスイ鞭薬

 グスイは直接触れないと使えない。離れた人にはムチグスイ鞭薬を使ってきた。


 ムチが何本もあればと思った瞬間、無意識にSM嬢がもっている数本の革ひもが束ねられているタイプのムチをイメージしてしまった。


 ふざけている場合じゃないと、できていたムチを地面に投げつけた。消えていくムチを眺めながら冷静になると、急に解決策をひらめいた。


 このSMグッズみたいにムチをドンドン出して、たくさんのムチで一斉にムチグスイ鞭薬をすれば、私のセジの量次第でいくらでも回復ができるはず。


 すぐに実行に移すために100本のムチをイメージすると、手元からドンドンムチが作られていった。


 そのムチを掲げてムチグスイ鞭薬をすると、ケガ人全員を叩いて回復することができた。

 それからは、最初の思惑の通り弱らせたイチムシ生き物マジムンを今帰仁なきじん軍の兵士に倒させて、成長の手助けをすることができた。


 この時からカマドおばーは、これほどの事ができるのなら、もう教えることはないと言っていたが、石敢當いしがんとうシールドを実戦で使えるようにと、出すタイミングなどの練習に付き合ってくれた。


 それからの旅は順調に進んだ。


 今日は越来城ごえくぐすくの村で石敢當いしがんとうを作っていたが、突然ナビーからテレパシーが届いた。


「琉美、琉美、聞こえるねー?」


「あっ、ナビーどうしたの?」


「そっちに白虎行かせるから、急いで来てちょうだい」


「わかったけど、何があったの?」


「シバの解任式やっていたんだけど、奇襲攻撃されて浦添うらそえ軍が民を守って全滅したわけよ。私は敵の警戒しないといけないから、琉美達に回復を任せたいわけさー」


「うん、任せて。そっちに着いたら浦添うらそえ軍の回復からやればいいんだね。けど、ナビーとシバは大丈夫なんだよね?」


「今は大丈夫だけど、技の規模からして今回の敵はでーじとてもちゅーばー強いかもしれないさー。今は警戒に集中したいから切ろうね」


 カマドおばーとチヨにナビーから聞いた状況を伝え、一緒についてくるようにお願いして、白虎に乗って浦添うらそえぐすくに向かった。


 その時間でステータスを確認することにした。



LV.58


HP 520/520  どSP 15902/19832


攻撃力 467  守備力 126  セジ霊力攻撃力 470  セジ霊力守備力 330  素早さ 75


特殊能力 ドS  中二病  イシグクル石心   BLボーイズラブ


特技 マブイグミ LV.10  サドラゴンサディストのウィップ龍のムチ LV.6


   グスイ LV.10  ムチグスイ鞭薬 LV.7  石敢當いしがんとうシールド LV.2


   ムチドンドン LV.2


 石敢當いしがんとうを作っていた最中だったのでSPセジポイントは減っているが、影響が出るほどではない。


 それよりも、ふざけた特殊能力がまた増えている。アマミキヨ様が私で遊んでいるんじゃないかと疑うほどだ。


特殊能力【イシグクル石心


取得条件:石に対して感情をめられるようになれば得られる。


・石にセジをめやすくなる。


特殊能力【BLボーイズラブ


取得条件:男性同士のカップルを妄想で50組成立させる。


・思い浮かべた男性2人の距離を一瞬で縮めることができる。



 浦添うらそえぐすくに着く直前、見たことがない規模のイチムシ生き物マジムンの軍勢が遠くに見えた。

 不安になってカマドおばーに聞いてみる。


「あんな数のイチムシ生き物マジムンを、シバとナビーの2人で抑えられているんですかね?」


「進軍はしていないみたいだから、何とかしているのかもしれないさー。今はあの2人を信じて、浦添うらそえ軍の回復だけを考えなさい」


 もし手に負えないのなら、真っ先に助けを呼んでいるはずなので、カマドおばーの言う通りに回復の事だけ考えることにした。


 浦添うらそえぐすくの前に到着すると、ひどく荒れた土地に150人の兵士が先頭不能状態になっていた。

 カマドおばーが辺りを見回して、私とチヨに指示を出した。


マブイが落ちているのも数人いるみたいやっさー。マブイグミはわんとチヨで、グスイは琉美に任せようね」


 休む間もなくそれぞれの役割にとりかかった。


「ムチドンドン、からのムチグスイ鞭薬!」


 みんな重症だったので、1度で全回復とはいかない。続けて3発ほど叩くと、マブイが落ちていた10人以外は起き上がってきた。


「琉美、後はわんとチヨでやっておくから、先にこれ達を引き連れて戦場に向かいなさい」


「わかりました。後はお願いします」


 イチムシ生き物マジムンが動き出したのか、向こうの方で土埃が舞っていた。

 私は白虎に乗って先頭に立ち、浦添うらそえ軍に進軍をうながした。


「皆さん、イチムシ生き物マジムンの軍が動き出したようです。中二按司あじとナビーを助けに急ぎましょう!」


『うおおおおおおおお!』


 士気の上がった浦添うらそえ軍と共に、戦場に向けて駆け出した。

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