第98話 1対1

 ナビーの背後にごうが見えた瞬間、ナビーの手を強く引きながら、かばうように覆いかぶさった。


 ……やられる!


 覚悟をしてただ体に力を入れていたが、何も起こらない。

 恐る恐る振り返って確認すると、剛はうずくまってもだえていた。


「うっぐぐぐう……」


 覆いかぶさっていた俺を軽く突き放したナビーは、引きつづきグスイをかけながら剛の状態を説明してくれた。


「シバも気を付けなさいよ。自分で習得した力以上の力を使うと、身体がついて行かなくて、このふらーバカみたいになるからな。修行では良いけど、敵との戦いではステータスにあるレベル以上の事をさんけーなするなよ


「え!? レベル以上の事ってできるのか?」


「シバにはこうなってほしくなかったから今まで言ってなかったけど、無理矢理セジ霊力ばんないたくさん使えばできはする。前にステータスはアマミキヨ様が作っているって言っていたさーね。アマミキヨ様はその人が安全に使えるのか力を見極めて、レベルを設定してくれているから、そのレベルを超えると身体がもたないわけよ」


 今の話は聞いてよかったのか、聞かない方が良かったのか。


 これから俺は、苦戦した時にこの話を思い出し、レベル以上の事をするかもしれないと思い、自分で自分が怖くなる。

 そうしないためにも、剛が苦しんでいる姿を目に焼き付けた。


「まだだ、まだだ、まだだーーーー!」


 剛は気合で意識を取り戻し、落ち着き始めた。


「ナビーは離れてサポートしてちょうだい。後は俺がやるから」


「2人でって言いたいけど、このレベルの戦いだと私はヒヤー火矢がないと足手まといだねー。悔しいけど、私はサポートするから思いっきり戦いなさい!」


 ナビーは俺に守備力を上げるカタサン硬化をすると、戦いの邪魔にならない場所から敵の素早さを下げるヨンナーゆっくりを始めた。

 ここからは、後の事など考えないで戦わないとやられてしまうので、全力で戦うことにした。


「セジオーラ・レベル9!」


 落ち着いていたはずの剛は、セジオーラ・レベル9と聞いて再度怒り狂い始めた。

 居合の構えで出方をうかがっていると、剛が一直線に殴りかかってきたので、拳めがけて抜刀した。

 しばらく鍔迫つばぜり合いのように押し合い、少し剛の身体を退かせると、キックやパンチをガンガン繰り出してきた。


 ……ついて行ける!


 セジオーラ・レベル9とナビーのヨンナーゆっくりで、ようやく剛のスピードについて行けるようになっていたので、反撃のチャンスをうかがえる余裕がわずかにできている。


「はああああーーーー、鬱陶うっとうしい、鬱陶しい、鬱陶しい!」


 格闘家としての感が働いたのか、俺が反撃をする前に剛は一度後退して、苛立ちながらも息を整えはじめた。


 今が勝機とみて、休む間を与えないようにテダコ太陽の子ボールやティーダ太陽ボールを放ちながら距離を詰めていく。


 すると、対抗して黒龍を次々ととばしてきたと思ったら、浦添軍を全滅させた降黒龍こうこくりゅう鬼神きしん破滅拳はめつけんの黒龍が空を埋め尽くした。


 自分1人を守ればいいだけなので、ヒンプンシールドを頭上に設置しようとした時、ナビーのテレパシーが聞こえた。


火災旋風かさいせんぷうばんないたくさんやるよ! シバは火をお願い」


 お互いに距離を詰めながら、ナビーに合わせて火災旋風をいくつも自分たちの周りに出していくと、降り注ぐ黒龍を燃える竜巻が次々と消滅させていった。


 しかし、一安心する間はなかった。


 ヨンナーゆっくりが解けて素早さが戻った剛は、すでにナビーの背後に回り込んでいた。

 気を抜かずに警戒していた俺は、ナビーを守るヒンプンシールドを設置しようとした。だが、獣の影と叫び声が聞こえて手を止めた。


「おおおおおおおおおお!」


 尚巴志しょうはしの愛獅子の太陽丸てぃだまるから飛び降りながら、護佐丸ごさまるが剛に斬りかかっている。剛は何もせずに直ぐに離れて行った。


「2人とも無事みたいだな。遠くからも見えたが、よくあれをしのいだものだ。それとナビー、セジヌカナミセジの要うにげーさびらお願い。実は、一刻も早くと思い急いできたから、直ぐには戦えないのだよ」


わかやびたんわかりました


 セジ霊力が使えない生身の状態で、あのまがまがしいオーラの剛に斬りかかったと思うと、恐ろしく感じる。


浦添うらそえ軍はまーやがどこにいる? どうして、2人だけなのか?」


「民を守って全員やられてしまったさー。やしがだけど、そのおかげでみんな無事です」


「そうか……で、ちゃーすがやーどうしようか?」


 ナビーが護佐丸ごさまるにセジヌカナミをしながら、作戦を述べようとした時、舜天しゅんてんが目の前に現れた。


「護佐丸よ。これは、剛とこ奴らの戦いだ。邪魔するというのなら、我も戦いに参加することになるのだが、それでよいのか?」


 少し考えた護佐丸は、自分が加わると不利になることを悟る。


わかやびたんわかったわんは先の戦いを見据えて、力を温存しておこう。やしがだけど、これだけは渡させてもらう」


 指笛を鳴らすと太陽丸てぃだまるが近づいてきて、護佐丸はそのまま背中に乗り、そこに置いていた物をナビーに投げ渡した。


「ナビー、頼まれていたヒヤー火矢だ」


にふぇーでーびるありがとうございます!」


 護佐丸が遠くに行ったのを確認して、舜天しゅんてんも離れて行った。


 ここからはナビーが全力で戦える。

 剛は心なしかナビーを先に狙っていたので、俺は守ることを意識しながら戦っていた。それがなくなるのは本当にありがたい。


「シバ、ちゃーすがどうしたい?」


「ん?」


「私も戦えるようになったけど、1人で戦いたいんでしょ? 私はもう守らなくてもいいから好きなようにやりなさい」


 ナビーは俺の気持ちに感づいていたようだ。


「やっぱり、ナビーには敵わないな。戦いながらずっと思っていたけど、俺が1人でやらないと、剛さんを更生させられないんじゃないかと考えていたんだ。舜天の策略に巻き込まれただけとも言えなくはないから、無事に元の世界に返したいだろ?」


「本当は私の仕事なんだろうけど……シバ、後はうにげーさびらお願いするよ!」


まかちょーけー任せておけ!」


 今度は俺から剛に斬りかかるがかわされ、最初から攻守交替になった。

 相変わらず剛の攻撃は速かったが、それをかわし、いなし、防ぐことを繰り返す。

 目が慣れてきてこちらから攻撃を出せるようになると、全力を出せるギリギリの戦いが面白くて仕方なくなっていた。


 しかし、このまま長引かせれば剛の身体がどうなるかわからない。


 前蹴りを刀で防いだが、少し押し込まれた。

 そのすきを見て、剛はナビーに向かって飛んでいくが、今度は全く焦る必要はない。


 ナビーはティンサグホウセンカモードをして、目の前に現れた剛の背後を取っていた。


やーお前の相手はあっちだろ!」


 ヒヤー火矢でなぎ払い、元いた場所まで剛をとばしたナビーは、笑いながら俺に親指を立てている。


 ……ナビーは流石だな。


 ナビーを狙うことをあきらめた剛は、まっすぐ俺を見据えている。

 これでやっと1対1になれた気がした。


 意識があるのかないのかはわからないが、剛は腰を入れて構え、息を整えていた。

 これが最後の交わりになると何となく感じたので、今できる最強の技をすることにした。


 剛の黒いオーラがさらに激しくメラメラし始めた。

 そして、無言のまま鋭い正拳を繰り出すと、俺を飲み込まんばかりの黒龍が襲い掛かってきた。


「居合、フィーヌ火の一閃!」


 黒龍を2枚にさばきながら剛の目の前まで来たが、黒龍のヒンガーセジ汚れた霊力の密度が高いのか、斬りこむ勢いが弱まってきている。

 俺は、左手で握っているさや鯉口こいくちを後ろ側に向けて、風と火のセジ霊力を全力で込めた。


カジマヤー風車!」


 鞘から出るジェット噴射の力を利用して刀を振り切り、何周も回転しながら剛の本体を斬った。


「手ごたえあり!」


 慣れない回転に目を回しながらも確認すると、ヒンガーセジ汚れた霊力のオーラが消えた剛が仰向けで倒れていた。


 ふらふらする視界が戻ってきたとき、ナビーがきて回復をしてくれた。


「シバ、ちびらーさんすばらしい! やしがだけど、気を抜くなよ」


やさやーそうだな。ここからが本番かもしれないさー」


 護佐丸ごさまる太陽丸てぃだまるに乗って近づいてきた時、いつの間にか剛の横には舜天しゅんてんが立っていた。


「剛もなかなかの強さだったが、まさか負けてしまうとはな。無念を晴らすためにも、剛が生み出したこの妖兵ようへいを進軍させるとしようか」


 舜天が剛をわきに抱えた。


「待て! 剛さんを連れて行くな!」


「心配するな。用が済んだら後でこのうつわは返す。それより、連戦だぞ。頑張りたまえ」


 地鳴りが近づいてくる。

 ナビーとの火災旋風で結構な数のイチムシ生き物マジムンを巻き込んで倒しはしたが、元の数が多すぎるせいか、全く減った気がしない。


 そのまま3人で戦っても、全滅させる前にセジが切れてしまうのが目に見えるので、覚悟をして刀を握った。


 その時、後方からも小さな地鳴りが聞こえた。

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