第92話 嬉しい不審物
浦チンに案内され、不審物が見つかったという城壁までやってきた。
確認するために城壁に挟まっているという不審物に近づこうとした時、見守っていた5人の兵士が止めに入った。
「
そう言いながらも腰が引けたままの兵士たちの隙間から、不審物が太陽光を反射しているのが見えた。
光に驚いてしりもちをついた兵士たちをナビーが飛び越え、ためらうこともなく不審物をもって掲げた。
「シバ! これ、私が向こうの世界で使っていたスマホ
「ナビーのスマホ!? なんでこんなところにあるんだよ? っていうか、持ってきてなかったのか?」
「この世界ではどうせ使えないから、花香ねーねーの家にそのまま置いてきたんだけどね」
「中二按司、これは?」
スマホをいじって話どころじゃないナビーを見ながら、浦チンが俺に説明を求めてきた。
「あれはナビーの物なんです。危険な物じゃないので安心してください」
「そうでしたか。大袈裟に対応してしまい申し訳ございませんでした……」
「謝らないでください。あれはこの世界だと確かに不審物ですから、警戒するのはしょうがないですよ。もう大丈夫なので、兵士たちを連れて行ってもらえますか?」
浦チンは腰を抜かしたままの兵士を立たせ、城内に戻って行った。
中身を確認しているナビーのスマホをのぞいてみる。
「花香ねーねーの家に置いてたってことは、花香ねーねーがどうにかして送ってくれたってことか?」
俺の問いかけには答えずに、スマホの画面を見せてきた。
「これ見てごらん。私が知らないビデオがあるさー」
「ビデオ? 何かわかるかもしれないから、とりあえず再生してちょうだい」
画面には
花香ねーねー「ナビー、シバ、琉美、元気でやっているかしら?
この動画を見ているってことは、ナビーのスマホを見つけてくれたのね。
部屋を掃除したときに見つけて、どうにかそっちの世界に送れないかキジムナーに頼んだら、こころよく引き受けてくれたの。
キジムナーの
それじゃあ、1人ずつコメントお願いします」
愛海「ナビーちゃん、琉美ねーねー、子守にーにー。異世界生活たのしんでいますか?
実は、こっちの世界は新型コロナという感染症が大流行しているせいで、家にこもっている時間が多くなって退屈しています。
あっ、でも引きこもりだった子守にーにーならノーダメージだったかもね!」
動画内の一同とナビーが軽く噴き出した。
「クソ! みんなしてバカにしやがって。それよりも、新型コロナか……あっちも大変そうだな」
「
愛海「子守にーにーはシスコンだから、そろそろ私に会いたくてふるえているんじゃないの?
だから、そっちの用事はさっさと済まして早く帰ってきてね
それと、子守にーにーにお父さんとお母さんからの伝言。
ナビーちゃんと琉美ねーねーの事は、子守にーにーが何としてでも守りなさいだってさ。
お父さんとお母さんの事は私に任せて、気にしないで頑張ってね!」
ライジングさん「シバたちの事だから、そっちの世界でも頑張っているんだろうな……
そっちの世界でも石敢當を見るたびにレキオス青年会のメンバーの事を思い出してくれたら嬉しいです。
帰ったらまた野球しような!」
ナビーが動画を一時停止して真顔で俺を見てきた。
「そういえば、こっちの世界で石敢當を設置しようとしていた事、完全に忘れていたさー」
「ここに来てずっと忙しかったからしょうがないよ。俺も忘れていたし」
「石敢當の事は動画を見た後に考えようかね」
ナビーは再生ボタンを押した。
夏生「琉美、元気してる?
私も琉美のお母さんも元気だから、こっちの事は気にしないで。
実は、琉美のお母さんとは首里城再建のボランティアに一緒に参加したりして、今では友達みたいに仲良くしてもらってるの。
考えたら、元気になった琉美とあんまり遊べてないから、帰ったら思いっきり遊ぼうね。
それと、シバさん、ナビーさん。琉美をよろしくお願いします」
上運天さん「しゅばふぃきさん、ナビーさん、おふぃさしぶりでしゅ。
本当は、はじゅかしいので動画に出るつもりはなかったのでしゅが、
私事なのですが、無事に第一子の男の子が生まれました。
お世話になったナビーさんとすばふぃきさんには是非とも抱っこして欲しいです。
成長しすぎて持ち上げられなくなりますので、早く帰ってきてくださいね」
花香ねーねー「みんな1通り終わったわね。最後に私がこの動画を撮ってスマホを送ることにした理由を話しておきます……」
花香ねーねーはこみあげてくるものを抑えているようで、言葉が出てこないようだったが、10秒ほどして目を赤くしながら口を開いた。
花香ねーねー「3人が異世界琉球に渡って1年と1月くらいたちました。
あの日、首里城が燃えている中、シバと琉美の家族に手紙を渡しに行った時から、私も頑張らなくちゃと強く思いながら議員の仕事をこなしてきたけど、とても辛い日々だった。
あなた達がいない生活がこれほどまでにつまらなく、これほどまでに心に穴をあけるものだとは思いもしなかった。
本当は言いたくなかったけど、あなた達のやるべきことが終わって帰る時が来ても、ナビーがそっちの世界に残ると考えたら寂しくて胸が苦しいの。
私にはシバと琉美はもちろん、ナビーも絶対に必要だと改めて感じているわ。
1日中リビングでダラダラしながらアニメをみる生活をしてもいいから、私の家に帰ってきてちょうだい」
ナビーは一時停止をして、何度も何度も着物の袖で涙をぬぐっている。
俺も泣いているナビーをからかえるほど余裕がなかったので、再生するまで黙って待っていた。
花香ねーねー「それでね、ナビーがこの世界に帰りたくなる作戦1としてこの動画を撮影したのよ。
それと、作戦2なんだけど、こっちで社会現象になっている『
続きが見たいならナビーは帰ってくるように!
最後に、シバ君が
動画はここで終わった。
鼻水をすすったナビーは何事もなかったかのように言った。
「これは琉美にも見せないとねー。それに、
「そうだな……」
この動画を見て、ナビーは何を思ったのか?
俺たちの世界に帰りたくなってくれたのか?
今の気持ちを聞き出したかったが俺にはできなかった。
それから、ナビーは白虎に乗って琉美とカマドおばーとチヨの3人を
琉美はここに来る途中で動画を見たらしく、目を赤くして鼻をすすっている。
そして、俺の隣に立って耳打ちしてきた。
「絶対にナビーを連れて帰ろうね!」
琉美とは変な別れ方だったことを思い出して気まずかったが、いつも通りに接してきてくれた。
「でも、送ってくれるならアウトドアで使うようなソーラーパネルとバッテリーが欲しいなー。私の持ってきたスマホも充電したかったからさ。シバもでしょ?」
「それはそうだけど、流石のキジムナーでも異世界をつなげる穴はスマホ大が限界なんだよ」
ナビーは俺の考えにうなずいたが、注意してきた。
「簡単に異世界をつなげるっていうけど、アマミキヨ様たちは干渉させたくないって言っていた事
そういえば、この世界に来てアマミキヨとシネリキヨの存在を忘れていた。
……たしか、この世界の
3人だけで会話していたので、放置されていたカマドおばーはしびれを切らせた。
「ナビー。
「用というのは、カマドおばーの旅にピッタリの重要な仕事があるから頼みたいわけさー」
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