第47話 衝撃的な提案
「ナビーちゃんが良い子に育ったおかげで、あーしらの心の
ナビーはためらいもせずに即答した。
「もちろん、あっちの世界に帰ります。大切な人たちが戦っているのに、違う世界で1人だけ楽しむことなんてできませんから」
ナビーならそう答えるとわかっていたが、やっぱり寂しい気持ちになる。
しかし、ナビーにはこの世界に来たことをいい思い出にしてもらいたいので、笑顔で送ってやろうと決心した。
「ナビーならそう言うと思っていた。逆に、残るって言ったら追い出していたよ!」
「
花香ねーねーがニヤニヤしながら茶化すように言ってきた。
「ナビー。シバは強がっているの。くみ取ってあげなさい」
「そうだったの? シバ、ごめんねー」
「うるさい!」
冗談を言い合っていると、琉美が元々の本題を思い出させてくれた。
「ふざけるのはそのくらいにして、
「そうだったさー。アマミン様、お願いがあるのですが、
「そうね、ヒンガーホールの件で何も手助けできなかったし、そのくらいは全然オッケーよ! ちょっと待ってて。
目を閉じて黙り込んだアマミキヨは、数秒後に口だけ開いた。
「あっちは大丈夫って。じゃあ、ナビーちゃんの
ナビーは座ったままマブイが抜かれると眠るように力が抜け、2分後に目を覚ました。
久しぶりに
これまでの活動報告を簡潔に済ませて、1か月後に帰ってもいいと了承を得たと言っている。
ナビーがすぐに帰らないと聞いた琉美は、嬉しそうにニコニコ顔で宣言した。
「これで、心置きなく思い出作りができるね。ナビー、エイサー祭りが終わるまで遊び倒すから覚悟しておいてよ!」
「
アマミチューの墓での目的を果たしたので帰ろうとした時、シネリキヨに止められた。
「ちょっと待って、ナビーちゃん。最後に、あっちの世界への渡り方を教えておかないといけなかったよ」
「こっちに来た時と同じように、この
「そうなんだけど、ナビーちゃんがこっちに来る時、まだセジが溜まり切ってないのに、一か八かでやって運よく成功したでしょ?」
「はい、そうでした」
「実は、俺たちはずっと成功した要因を考えていたんだけど、やっとわかったんだ。世界をつなぐ穴を作るには、各世界で大量のセジを消費するのだけど、ナビーちゃんが来られたのは、あっちの世界の
「そうでしたか……あっ! もしかして、あのヒンガーホールもそれが理由ですかね?」
「流石ナビーちゃん、察するのが早いね! そう、あのヒンガーホールで気が付いたんだよ」
異世界琉球の
ヒンガーホールが小さかったのは、こっちの世界の今帰仁城跡は
それに、人が渡れるほどのものではなかったらしく、
「私は
「このぐらい大したことないよ。それよりも、残りの時間を楽しんじゃって!」
帰り際にシネリキヨが何か言いたそうにしていたが、全員に
花香マンションに帰ると、ナビーが異世界琉球に行くまでのスケジュールを立てることになった。
沖縄の観光地をいけるだけ行くという大雑把な計画だったが、これなら、花香ねーねーの仕事に影響が少なくてすむので良しとした。
ナビーが、アニメなども
その時を見計らい、珍しく琉美が俺を部屋に誘ってきた。
琉美はベットに座ったので、俺は床に座って琉美が話し始めるのを待った。
「ねぇ、シバはナビーが帰ることをどう思っている?」
「どうって、しょうがないとしか……」
「うん、私も帰ることはしょうがないと思っている。だけどね、離れ離れになることには納得してないの」
「どういうこと?」
琉美は両手を自分の胸に当てて目をとじて深呼吸をした。
「私は不意を突いて、ナビーと一緒に異世界琉球についていこうと思うの」
「えええええええええ!? マジで行ってるのか?」
「しー! 聞こえちゃうでしょ……私はもう覚悟を決めている。で、シバはこの話にのるの? のらないの?」
衝撃的な提案をしてきた琉美の目は、冗談を言っているようには思えなかった。
正直、自分が異世界琉球に行くことなんて考えたこともなかったので、思考がぐちゃぐちゃになっている。
「さっきナビーが、大切な人たちが戦っているのに、違う世界で1人だけ楽しむことなんてできませんって言ってたじゃない? そのとき、シバも納得したでしょ? それなのに、ナビーが異世界で戦っているのに、この世界でのうのうと暮らせるわけないでしょ!」
琉美が言いたいのは、ナビーは大切な人たちが戦っているから帰ると言ったのに、自分達は
色々な言い訳が頭をよぎっていく。
家族や花香ねーねーを悲しませるのではないか?
神たちの意向に背くのではないか?
行ったところで帰ることはできるのだろうか?
この世界の生活を知っている俺たちが、異世界の生活水準に耐えられるのか?
次から次にあふれてきて黙ってしまった。
「私だって、お母さんや夏生と別れたくないから悩んだよ。だけどね、私はこれからもナビーと戦っていきたい気持ちが強いの。もちろんシバもいてほしい。こんな気持ちになってしまう人間になったのは、シバのせいなんだから責任取ってよね!」
「何で俺のせいなんだよ?」
「今の私は、俺にくれ……から始まったから」
琉美の飛び降りを助けた時に言ってしまった言葉。今思い出しても恥ずかしい。
ベットの上に立った琉美は、人差し指を俺に向けて上から目線で言い放った。
「私の命を助けたのだから、最後まで助け切りなさい!」
心のモヤモヤをすべて払うような清々しさに、思わず合意してしまう。
「はい……あ、言ってしまった」
「
「わ、わかってる……俺も、覚悟を決めたよ!」
琉美は胸をなでおろしながらベットから降りると、急にムチを出して怖い顔で叩いてきた。
「ていうかさ、何で悩んじゃってるわけ? どうせこの世界に残っても、また引きこもるくせによぉ! 一丁前に悩んでんじゃねーよ!」
「ちょっと琉美さん、ドSが前面に現れていますけど、どうしたんですか?」
「あっ!」
ムチを消して今度は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。
「シバがウジウジしてたから、イライラしてしまったんだよ。今のは忘れてちょうだい……」
「別に本性隠さなくてもいいのに」
「うるさい! そんなことより、花香ねーねーとか家族とか友達に、手紙を書いておいたほうが良いかもね。自分の意志で行くこととか今までの感謝とかを書いて、机の引き出しにでも入れておこうよ」
「そうだな。忘れるといけないから、早めに書いておくことにしようかな」
俺は自室に戻り、手紙を残す相手を決めることにした。
……花香ねーねーはもちろんとして、両親と妹の
友達がいなかったことにへこんだが、逆に未練が少なくて済むとポジティブに考えることにした。
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