第48話 思い出作り終了

 2019年7月20日。

 遊びに行きたいところを言い合うことになったので、俺は全力で海水浴をリクエストしたが、女性陣全員に却下されてしまう。

 それなのに具体的な場所をなかなか思いつかなかったので、インターネットで沖縄観光と検索をして、おすすめで必ず出てくる美ら海水族館に行くことにした。


 もう戦う必要がないので、いつもの服装ではなく琉美がコーディネートした、普通の服を着ている。


でーじなってるさーすごいことになっている! あのマンタとジンベエザメ、しにまぎーとても大きいだな! あい! あいつはガーラ大きいアジだな。美味しそうだね!」


 ナビーは、視界のすべてを埋め尽くす瑠璃るり色の世界を、無邪気にはしゃぐ子供のように目を輝かせて見ていた。

 水族館を知っているこの世界の俺たちをも魅了するのだから、ナビーの感動は想像をはるかに超えているのだろう。


 しばらくその場から離れそうにないナビーを待つため、近くのベンチで腰かけて待つことにする。

 すると、花香ねーねーと琉美も隣に座ってきた。


「あの様子だと、もう少しかかりそうね……シバ、琉美、ちょっといい? こんな時になんだけど、1か月後にナビーが帰るじゃない? そのあと、あなた達はどうしたいのか考えているかしら?」


 俺と琉美はたくらみがあるので体がビクッとなったが、アイコンタクトではぐらかす意志を共有した。


「すみません。まだ、何も考えていません。それに、今はまだ考えられる気がしないというか……」


「私も、まさか3か月でこの生活が終わると思ってなかったから、心の整理ができてないんですよね」


「特に琉美は専門学校に合格までしてたのよね……2人とも、やりたいことがあったらひとまず私に相談してちょうだい。どんなことでも、最大限に手助けするつもりだから」


 琉美と一緒にわざと神妙な面持ちになり、下を向いて答える。


「俺たちのこと真剣に考えてくれてありがとうございます。甘い考えなのかもしれないけど、今はナビーとの思い出作りに全力を注ぎたいから、その話はナビーが帰ってからでいいですか?」


「そうね……そうしましょうか。でも、いつでも相談に乗るから遠慮しないでね!」


「すみません。ありがとうございます」


 その時、巨大水槽を満喫したナビーがこちらに向かって歩いてきた。


「2人とも暗い顔してるけど、なんかあったのか?」


 ……やべ。ちょっと表情つくりすぎたか?


 ナビーには俺たちの将来のことまで気にかけてほしくないので、悟られないようにごまかすことにする。


「何でもないよ。うす暗いから眠くなっただけ」


「そうねー? じゃあ、次行くよ!」


 水槽のほかにもサメなどの骨格標本をみて、休憩がてら売店でアイスを買って食べる。

 最後にウミガメ、イルカ、マナティーを見学して、海の生き物を思う存分堪能した。


「ナビー。次どこ行きたいか決めているのか?」


「ここから近いし、前は落ち着いて見られなかったから、備瀬びせのフクギ並木に行きたいねー。それに、ハーメー老婆マジムンにあいさつしないとさーねー」


「キジムナー達もいればいいんだけど。マジムンたちにはお世話になったから、お礼言わないとな」



 花香ねーねーの車に乗るため白虎のシーサー化を解こうとした時、急にものすごい嫌な感覚に襲われた。

 体中のセジが無意識に流れ始め、体外からは見えない何かに圧迫されているみたいで息苦しく感じている。

 琉美と花香ねーねーも同じ感覚になっているらしく、急に顔色が悪くなっていた。


「なんだよ、この感覚は!?」


「みんなも感知できたんだね。これがいつも私が感知しているマジムンの気配さー。少ししたら慣れるから落ち着いてね。やしがだけど、この気配は強すぎるさー……」


「何でマジムンの反応がするんだよ? ヒンガーホールはもうないはずじゃ?」


今帰仁城跡なきじんじょうあとのは完全に消滅したのを確認したし、消費したセジが元に戻るまでまだ時間がかかる。そう考えると、別の場所にできたってことになるねー」


 その時、頭の中にキジムナーの声が聞こえた。


「みんな、この気配に気が付いているよな? かなりヤバいやつが現れたみたいだぞ!」


 ナビーが慌て気味にキジムナーに尋ねる。


「はい、こちらも全員が感知しているさー。キジムナーはどこで発生したかわかるねー?」


「オラが感知したのは読谷よみたんあたりだ。前にまるばいいなぐ裸の女がいた海岸近くに、ものすごいやつの反応がみーち3つあるぞ。ミシゲーしゃもじたちは邪魔になるから、オラは1人で向かっている。オラだけで対処できそうにないから、みんなも急いできてくれ」


「わかった。キジムナーに言うのもなんだけど、気を付けて」


 キジムナーとの通信が途切れると、すぐにこれからの行動を確認した。


「直ぐに向かいたいけど、今日は戦うすがい服装じゃないからな……いったん帰らないといけないさー」


 もう戦うことはないと思っていたので、いつもの防御力が上がるジャージや着物を着ていなかった。

 しょうがないので家に戻らなければと思っていると、花香ねーねーが得意げに言い放つ。


「実はね、今日みんなで写真を撮りに行こうと思ってたから、いつもの服を持ってきているわよ!」


「おお! 流石、花香ねーねー! はい、みんな急いで着替えるよ。それと、念のために、花香ねーねーは私のヒヤー火矢を取ってきてちょうだい」


「わかったわ。みんな、気を付けて頑張ってね!」


 急いで着替えて白虎に乗り、読谷よみたん村の海岸を目指した。

 白虎に乗って走っている時、疑問に思っていることをナビーにきいてみた。


「俺や琉美でも感知できているってことは、舜天しゅんてん舜馬しゅんばより強いやつなのか?」


「近づくにつれてわかったんだけど、3つの気配の1つは舜天みたいだね。それに、舜天より強いやつもいるみたいさー……」


「はあ!? 3将軍の舜天より強い奴っているのか? 舜馬順熙しゅんばじゅんきは倒したとして、あとは義本ぎほんだったっけ? まさか、また別の3将軍が来てるってことか?」


「3将軍で一番強いのは舜天だから、義本ではない……」


 琉美が最悪な答えに気が付いたようで、震える手で俺の服の袖をつかんできた。


「ねえ、シバ……もう1人、一番最悪な敵を忘れてるよ……」


 俺も感づいてしまったが、確認するまで認めたくはなかった。


 そろそろ到着の時、もう一度、頭の中にキジムナーの声が聞こえる。先程より息が上がって慌てている様だ。


「オラはこの2人を引き付けておくから、シバたちはまぎー大きいシーサーを先に何とかしてくれ。住宅街に行ったら手遅れになるぞ!」


「キジムナー! キジムナー!」


 話している余裕がなかったのか、こちらからの返答はできなかった。

 琉美は、まぎー大きいシーサーに心当たりがあるそうだ。


まぎー大きいシーサーって残波岬ざんぱみさきの近くにある、世界で一番大きなシーサーのことかも。子供のころ見に行ったことあるの」


「そのあたりに気配があるから間違いなさそうだね。そろそろ到着するから、準備しておいて」


 今のうちにステータスを確認しておく。



Lv.58  


HP 710/710  SP 600/600


攻撃力 620 守備力 850 セジ攻撃力 470 セジ守備力 760 素早さ 640


特殊能力  中二病  マージグクル土心  昼夜逆転  


      身代わり  ティーアンダー手油

 

特技 テダコ太陽の子ボール Lv.10    ティーダ太陽ボール Lv.8


   イシ・ゲンノー石ハンマー Lv.7   セジ刀 Lv.9


   ヒンプンシールド Lv.10   セジオーラ Lv.8



「すげえ! 石垣ゴーレム、キジムナー、舜馬と立て続けに強い敵と戦ったから、思った以上にレベルが上がっているぞ!」


 琉美もステータスを確認すると、驚きながら喜んでいる。


「本当だ! 私はレベル21から一気にレベル39になっているよ! それに、ドSPが……やっぱり何でもない」


「そんないい方したら気になるだろ! 戦いに関わるかもしれないから教えてくれよ」


 琉美は苦笑いをして、自分の異常さのパラメーターを発表した。


「ドSPが2000を超えていました……」


「おめでとう。これであなたも女王様だね」


「真顔! それに、その呼び方やめてちょうだい!」


 ナビーだけは純粋に感動している。


でーじやっさーすごいな! 琉美は、ノロの頂点の佐司笠さすかさ様以上のSPになっているかもね。これからもばんないたくさんシバを叩けばいいさー」


「いいわけねーだろ!」

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