第14話 久しぶりの実家

 しばらく雑談をしていると、シネリキヨが酔っぱらってぐずってきた。

 どうやら、自分たちの酒にはアルコールが入っていたらしく、シネリキヨだけが悪酔いして愚痴ぐちを聞かされた。


「なー、聞いてくれよこもりん。このお墓よー、俺も入っているのによー、アマミチューの墓って名付けられたんだぜ。なんで、アマミンだけの墓みたいになってるんだよー」


「ああ……はあ……」


 困っていると、花香ねーねーが会話に入ってきた。


「でも、アマミキヨとシネリキヨ、お2人が暮らしたとされる、この島にあるガマ洞窟の名前はシルミチューと名付けられていたはずでは?」


 今度は、花香ねーねーに近づいて愚痴を続ける。


「あっちは、俺の名前を入れ忘れたから、同情で付けてもらったんだよ。多分……」


「……」


「それはいい……それはいいとして、琉球開闢かいびゃくは俺とアマミンの2人でやったんだよ。それなのに、アマミン1人が目立ちすぎと思わないか?」


「そっ、そうですね……開闢かいびゃくの神の話になればアマミキヨが目立ちますね……」


 それを聞いたアマミキヨがしかりつけるようにシネリキヨに言った。


「何回その話するの! そもそも、あーしが御嶽うたき創ってるときシネリンは今みたいに悪酔いしちゃって、何もしてなかったじゃん! あーしが創ったと言われる御嶽うたきなんて、シネリンが酔っぱらって働かないから、イライラしてセジ霊力めすぎただけの場所だからね」


「アマミン! それは言わないでくれよー……」


「いいえ。この際だからこの子たちに聞いてもらいたくなっちゃった! 御嶽うたきって女性しか入っちゃダメって場所があるじゃない? あれはね、あーしが働いてるのにその場にいなかったシネリンを不思議がった連中がいたのよ。一応は神様だし、旦那だから悪いイメージ持たせたくないじゃない? だから、あーし1人で創った場所は男性禁止ってことにして、シネリンのメンツを保ってあげたのよ」


 シネリキヨが来なかった理由を、女性しか入れない場所で男性が来ても意味ないからということにしたのだ。

 そんなことで御嶽のルールが決まったのかと俺たちが驚愕きょうがくしていると、アマミキヨが急に顔を赤らめてシネリキヨをなぐさめた。


「でもね、そんなことどーでもいいくらい、シネリンがだーいすきだかんね!」


「アマミンー! 俺もだよ!」


 それから、見ていられないくらいイチャイチャを始めたバカップルに、花香ねーねーがたまらず言い出した。


「すみません……もう帰らないといけないので……これで失礼してもよろしいですか?」


 1つの椅子に2人で座って見つめあっていたアマミキヨが振り向いた。


「ああ、ごめん、ごめん。あなたたちがいたこと忘れてたわ。ごめんね、時間取らせて。最後にあーしから注意しておくけど、1月前位にあっちの世界からナビーちゃん以外にこの世界に来た人がいるみたいなんだよね。しかも、多分為朝ためとも軍の奴だと思うけど……」


 ナビーが驚いて声を荒げた。


「そんなはずは! マジムンなら私が感知できるのに!」


「そうなのよねー。あーしらも感知できないのよ。感知できるっていっても、一か所に留まったヒンガーセジ汚れた霊力だけでしょ? もしかして、移動し続けているのかもしれなくてね……」


「でも、人のマジムンなら、流石に移動しても強すぎる気配で感知できると思うのですが……」


 花香ねーねーが補足をする。


「それに、移動を続けたとして、たくさんの人が倒れたとの話も出てきてないですので、人に攻撃をしてないことが気になりますね……」


 俺の中で印象に残っている戦いのことを話してみることにした。


「あの……一か月以内であったことといえば、アカショウビンマジムンが異様に強かったのがずっと気になっていたけど、関係あるのかな?」


 ナビーがうなずいた。


「そうだね、私もあれは何かおかしいと感じていたさー。おかしいと言えば、白虎のこともそうだけど……」


「あーしらは、ナビーちゃんの戦いを今まで見て来たけど、確かにあれは強すぎたわよね。それに、白虎ちゃんのことも今まで見たことない状態だったしね。まあ、これから何があるかわからないから、気を付けてちょうだいね」


 モヤモヤしたまま話が終わったので、なんだか気持ちが良くない。

 まだ、俺が見たことがない人のマジムン魔物というのはどのくらい強いのか?

 今まで、動物や虫などのマジムンとしか戦ってこなかったが、人のマジムンと戦うことになったら自分はそれと戦えるのか不安になった。


 帰ろうとした俺たちをシネリキヨが呼び止める。


「ちょっと待って! 最後に、子孫繁栄の神としても崇められている俺から、黄金くがに言葉を授けよう」


「黄金言葉ってなんですか?」


 花香ねーねーが説明してくれた。


「金のように価値がある言葉のことで、簡単に言えば沖縄版のことわざみたいなものよ」


「えー、シバ! 神様からじかに言葉を授けられることはありがたいから、ちゃんと聞いとけよ!」


 俺たちは真剣な気持ちでシネリキヨの言葉を待っていると、仁王立ちをしながら力強く言い放った。


「やっくゎんはあちらしてはならんどー!」


 俺には内容がわからないのでポカーンとしていたが、理解している女性2人はなぜか機嫌が悪くなり、先にこの場を離れていった。


「え!? どうしたんですか? 方言あまりわからないので、訳してくれませんか?」


睾丸こうがんは温めてはいけないよ、って言ったんだよ。妊娠する確率が下がるからね」


黄金クガニって、き〇たまのことじゃねーか!」



 アマミチューの墓を後にして、花香ねーねーは車、俺はバイク、ナビーは白虎に乗って帰ることになった。


 道中、実家の近くを通るので、寄っていくことにした。

 マジムン魔物退治生活が始まって、1回も帰っていなかったので気になっていたこともあったが、俺の中二病の証を取っておきたかったのだ。


 午後4時に実家に着くと、今日は日曜日だったので家族は家にいるはずだ。本当は会いたくなかったが、一応は安否確認ぐらいはさせてやろうと思った。


 ……ずっとここにいたはずなのに、敷居が高く感じるな。


 インターホンを押すと、母が玄関を開けた。


「あい! 子守、久しぶりだね。元気だったね?」


 家にいたときでさえ、面と向かって話をしてなかったので、本当に久しぶりに母の顔を見た気がする。

 女性の平均的な身長で普通体型のショートカットの母は、40代後半くらいだったはずだが、俺が持っていたイメージとは少し老けて見えた。


「あ、うん……」


「あ、こちらのお嬢さんは?」


ハイタイこんにちは! はじめまして。私は、子守と一緒に仕事をしているナビーといいます」


「あら! こんなかわいい子と仕事をしてるのね。子守がいつもお世話になってます」


「はい、お世話してますよ!」


「フフッ! まあ、なにももてなせないけど、どうぞお入りください」


 長話は嫌だったのですぐさま拒否をした。


「いいよ! 必要なものを取りに来ただけで、すぐ行くから……」


「そうなの……でも、お父さんには顔見せて行きなさい」


 正直、母より会いたくない。

 引きこもっていた時、目が合うたびに将来の話だったり、とにかく外に出ろだったりとガミガミ言われていたので、今あっても何を話していいのかわからない。


「いいよ……部屋にしか用がないから。すぐ戻るからナビーは待ってて」


 家に入ろうとした時、後ろから明るく元気な声が聞こえてきた。


「お客さん、こんにちは……って、にーにーがいる! 久しぶりー!」


 身長はナビーより少し大きいくらいで、髪型はショートボブ、体操着を着た俺の妹の柴引愛海しばひきあみが、買い物袋を両手に持って帰ってきた。


「おお! 愛海、久しぶりだな。買い物か?」


「そうだよ! にーにーはどうしたの? 服も独特だね」


「服のことは気にするな……ちょっと、取るものがあって寄っただけだよ」


「え! 久しぶりなんだからゆっくりしていってよ! ね!」


「でも……ちょっと……」


「いいでしょ、いいでしょ。お客さんもどうぞ入ってください!」


「あい! 入っていいの? じゃあ、失礼しようねー」


 妹に言われれば仕方ない。俺はなぜか妹には逆らえないのだ。


 みんなでリビングに行くと父がソファーに寝転がりテレビを見ていた。

 俺とナビーを見ると、不意を突かれたように飛び上がった。


「失礼してます。子守と仕事をしているナビーといいます」


「そうですか。私は子守の父です。ナビーとは、いまどき珍しいお名前ですね」


「そうかね? 私の世界ではたくさ……」


「ちょ! ナビー!」


 ナビーが変なことを言う前に言葉をさえぎった。

 頭おかしい人だと思われたらめんどくさくなりそうなので、気を付けないといけない。


 それより、俺を名付けたお前が、人の名前に口出しするなよと思っていると、妹が自己紹介をした。


「ナビーさんっていうんですね。私は、妹の愛海、15歳です。仕事してるってことは成人しているんですか?」


「私は20歳だよ」


「そうなんですか! あっ、ナビーさん。こっちに来てくつろいでください」


 妹がナビーをソファーに座らせたとき、父が近づいてきた。


「……子守、おかえり。元気してるか?」


 2人で立って並ぶのは、何年ぶりだろうか。いつの間にか俺は父の身長を超えていたようで、なんだか小さく感じた。母と同様、少し老けているように見えるし、白髪の混じり具合も増えている。


「……うん、一応、元気でやってるよ」


「そうか……」


「……」


 父も気まずそうにしている。それを察知したのか、妹が突然お願いしてきた。


「ねぇ、にーにー! 久しぶりに、にーにーの手料理食べたいなー!」


「でも、すぐ行くからな……」


 ナビーが話に入ってきて余計なことを言う。


「今日はもう何もないだろうから、料理くらい作ってあげればいいさ! 花香ねーねーの分も持って行ってあげれば、一石二鳥だしね」


「ナビーさんもこう言ってることだし、ね! お願いにーにー! あるものでできるやつでいいからさ。得意だったでしょ!」


「愛海に言われたらしょうがない……作ってやるよ」

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