第14話 久しぶりの実家
しばらく雑談をしていると、シネリキヨが酔っぱらってぐずってきた。
どうやら、自分たちの酒にはアルコールが入っていたらしく、シネリキヨだけが悪酔いして
「なー、聞いてくれよこもりん。このお墓よー、俺も入っているのによー、アマミチューの墓って名付けられたんだぜ。なんで、アマミンだけの墓みたいになってるんだよー」
「ああ……はあ……」
困っていると、花香ねーねーが会話に入ってきた。
「でも、アマミキヨとシネリキヨ、お2人が暮らしたとされる、この島にある
今度は、花香ねーねーに近づいて愚痴を続ける。
「あっちは、俺の名前を入れ忘れたから、同情で付けてもらったんだよ。多分……」
「……」
「それはいい……それはいいとして、琉球
「そっ、そうですね……
それを聞いたアマミキヨがしかりつけるようにシネリキヨに言った。
「何回その話するの! そもそも、あーしが
「アマミン! それは言わないでくれよー……」
「いいえ。この際だからこの子たちに聞いてもらいたくなっちゃった!
シネリキヨが来なかった理由を、女性しか入れない場所で男性が来ても意味ないからということにしたのだ。
そんなことで御嶽のルールが決まったのかと俺たちが
「でもね、そんなことどーでもいいくらい、シネリンがだーいすきだかんね!」
「アマミンー! 俺もだよ!」
それから、見ていられないくらいイチャイチャを始めたバカップルに、花香ねーねーが
「すみません……もう帰らないといけないので……これで失礼してもよろしいですか?」
1つの椅子に2人で座って見つめあっていたアマミキヨが振り向いた。
「ああ、ごめん、ごめん。あなたたちがいたこと忘れてたわ。ごめんね、時間取らせて。最後にあーしから注意しておくけど、1月前位にあっちの世界からナビーちゃん以外にこの世界に来た人がいるみたいなんだよね。しかも、多分
ナビーが驚いて声を荒げた。
「そんなはずは! マジムンなら私が感知できるのに!」
「そうなのよねー。あーしらも感知できないのよ。感知できるっていっても、一か所に留まった
「でも、人のマジムンなら、流石に移動しても強すぎる気配で感知できると思うのですが……」
花香ねーねーが補足をする。
「それに、移動を続けたとして、たくさんの人が倒れたとの話も出てきてないですので、人に攻撃をしてないことが気になりますね……」
俺の中で印象に残っている戦いのことを話してみることにした。
「あの……一か月以内であったことといえば、アカショウビンマジムンが異様に強かったのがずっと気になっていたけど、関係あるのかな?」
ナビーがうなずいた。
「そうだね、私もあれは何かおかしいと感じていたさー。おかしいと言えば、白虎のこともそうだけど……」
「あーしらは、ナビーちゃんの戦いを今まで見て来たけど、確かにあれは強すぎたわよね。それに、白虎ちゃんのことも今まで見たことない状態だったしね。まあ、これから何があるかわからないから、気を付けてちょうだいね」
モヤモヤしたまま話が終わったので、なんだか気持ちが良くない。
まだ、俺が見たことがない人の
今まで、動物や虫などのマジムンとしか戦ってこなかったが、人のマジムンと戦うことになったら自分はそれと戦えるのか不安になった。
帰ろうとした俺たちをシネリキヨが呼び止める。
「ちょっと待って! 最後に、子孫繁栄の神としても崇められている俺から、
「黄金言葉ってなんですか?」
花香ねーねーが説明してくれた。
「金のように価値がある言葉のことで、簡単に言えば沖縄版のことわざみたいなものよ」
「えー、シバ! 神様からじかに言葉を授けられることはありがたいから、ちゃんと聞いとけよ!」
俺たちは真剣な気持ちでシネリキヨの言葉を待っていると、仁王立ちをしながら力強く言い放った。
「やっくゎんはあちらしてはならんどー!」
俺には内容がわからないのでポカーンとしていたが、理解している女性2人はなぜか機嫌が悪くなり、先にこの場を離れていった。
「え!? どうしたんですか? 方言あまりわからないので、訳してくれませんか?」
「
「
アマミチューの墓を後にして、花香ねーねーは車、俺はバイク、ナビーは白虎に乗って帰ることになった。
道中、実家の近くを通るので、寄っていくことにした。
午後4時に実家に着くと、今日は日曜日だったので家族は家にいるはずだ。本当は会いたくなかったが、一応は安否確認ぐらいはさせてやろうと思った。
……ずっとここにいたはずなのに、敷居が高く感じるな。
インターホンを押すと、母が玄関を開けた。
「あい! 子守、久しぶりだね。元気だったね?」
家にいたときでさえ、面と向かって話をしてなかったので、本当に久しぶりに母の顔を見た気がする。
女性の平均的な身長で普通体型のショートカットの母は、40代後半くらいだったはずだが、俺が持っていたイメージとは少し老けて見えた。
「あ、うん……」
「あ、こちらのお嬢さんは?」
「
「あら! こんなかわいい子と仕事をしてるのね。子守がいつもお世話になってます」
「はい、お世話してますよ!」
「フフッ! まあ、なにももてなせないけど、どうぞお入りください」
長話は嫌だったのですぐさま拒否をした。
「いいよ! 必要なものを取りに来ただけで、すぐ行くから……」
「そうなの……でも、お父さんには顔見せて行きなさい」
正直、母より会いたくない。
引きこもっていた時、目が合うたびに将来の話だったり、とにかく外に出ろだったりとガミガミ言われていたので、今あっても何を話していいのかわからない。
「いいよ……部屋にしか用がないから。すぐ戻るからナビーは待ってて」
家に入ろうとした時、後ろから明るく元気な声が聞こえてきた。
「お客さん、こんにちは……って、にーにーがいる! 久しぶりー!」
身長はナビーより少し大きいくらいで、髪型はショートボブ、体操着を着た俺の妹の
「おお! 愛海、久しぶりだな。買い物か?」
「そうだよ! にーにーはどうしたの? 服も独特だね」
「服のことは気にするな……ちょっと、取るものがあって寄っただけだよ」
「え! 久しぶりなんだからゆっくりしていってよ! ね!」
「でも……ちょっと……」
「いいでしょ、いいでしょ。お客さんもどうぞ入ってください!」
「あい! 入っていいの? じゃあ、失礼しようねー」
妹に言われれば仕方ない。俺はなぜか妹には逆らえないのだ。
みんなでリビングに行くと父がソファーに寝転がりテレビを見ていた。
俺とナビーを見ると、不意を突かれたように飛び上がった。
「失礼してます。子守と仕事をしているナビーといいます」
「そうですか。私は子守の父です。ナビーとは、いまどき珍しいお名前ですね」
「そうかね? 私の世界ではたくさ……」
「ちょ! ナビー!」
ナビーが変なことを言う前に言葉を
頭おかしい人だと思われたらめんどくさくなりそうなので、気を付けないといけない。
それより、俺を名付けたお前が、人の名前に口出しするなよと思っていると、妹が自己紹介をした。
「ナビーさんっていうんですね。私は、妹の愛海、15歳です。仕事してるってことは成人しているんですか?」
「私は20歳だよ」
「そうなんですか! あっ、ナビーさん。こっちに来てくつろいでください」
妹がナビーをソファーに座らせたとき、父が近づいてきた。
「……子守、おかえり。元気してるか?」
2人で立って並ぶのは、何年ぶりだろうか。いつの間にか俺は父の身長を超えていたようで、なんだか小さく感じた。母と同様、少し老けているように見えるし、白髪の混じり具合も増えている。
「……うん、一応、元気でやってるよ」
「そうか……」
「……」
父も気まずそうにしている。それを察知したのか、妹が突然お願いしてきた。
「ねぇ、にーにー! 久しぶりに、にーにーの手料理食べたいなー!」
「でも、すぐ行くからな……」
ナビーが話に入ってきて余計なことを言う。
「今日はもう何もないだろうから、料理くらい作ってあげればいいさ! 花香ねーねーの分も持って行ってあげれば、一石二鳥だしね」
「ナビーさんもこう言ってることだし、ね! お願いにーにー! あるものでできるやつでいいからさ。得意だったでしょ!」
「愛海に言われたらしょうがない……作ってやるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます