第10話 4日間の修行
花香マンションの屋上は、金網で囲われただけの特に目立つものは何もないので、修行にはもってこいの場所だった。
「昨日の疲れが取れてないと思うから、シバの体力が減らないような修行をしようね」
「それはありがたいけど、どんなことするんだ?」
「白虎に理解させたいから……よし、今から私がやって見せようねー! 白虎、よーく見といてよ……ヒンプンシールド」
ナビーは、5mほど離れた所にヒンプンシールドを設置した。
急に現れたヒンプンに驚いた白虎は、ワンワンと吠えだした。
「やっぱり、白虎は見えているんだな……大丈夫だから静かにね!」
落ち着かすように撫でてやると、吠えるのをやめてナビーを見た。
ナビーは白虎が見ていることを確認すると、四足歩行をする体勢になってヒンプンに向かって犬のように走っていく。
ヒンプンにタックルをする瞬間、頭部にセジを
……女の子が恥ずかしげもなく何やってんだよ。
「シバがヒンプンシールドを出して、白虎がそれを壊す。私は、白虎に
「白虎は攻撃力と守備力を同時に鍛えられて、俺はヒンプンシールドのレベルアップができるってわけか! よく考えられている修行だな」
「異世界琉球で私が飼っていたシーサーの鍛え方さー。やらせすぎてなついてくれなかったけど……」
「はい? 今サラッと言ったけど、飼っているシーサーってなんだそれ! 野生のシーサーがいるとは聞いていたけど、飼ってたんかい!」
「戦わせたり、乗って移動したり、
何か思いついたようだが、その時が来ればわかるとだけ言って、何度聞いても何も教えてくれなかった。
俺がヒンプンシールドを設置すると、白虎は理解したのか俺の方を見据えた。
ナビーが白虎を静止させながら
そして、野に放つように手を離した。
「よし、行けー!」
勢いよく走り出した白虎は、こちらに向かってきた……そう、こちらに。
「ちがーーーーーーーーーう!」
ヒンプンを右からよけ、その後ろにいた俺をめがけてタックルしてきた。
飛び込んできた白虎をそのまま抱え込むと、1mほど後方に体をもってかれた。
「おお! 私がこの世界にきたころ、お昼のテレビ番組でよくやってたタックルに似ていたな」
「何でそんなの見てたんだよ。それより白虎! 俺じゃなくてヒンプンを壊すんだよ!」
「わぅーん……」
白虎を地面におろしてやると、何事もなかったようにヒンプンに向かって体当たりをし始めた。
「おい……もしかしてこいつ、わざとだったのか?」
「ふふっ! そうみたいだねー」
最初に俺にタックルすることが恒例になりそうで、嫌な予感がした。
それ以降白虎は、言われた通りに何度もヒンプンにぶつかる修行をする。
白虎のタックルは強力だが、ヒンプンシールドを壊せるほどではなかった。
ナビーのカタサンの効果だけでは、体が少し硬くなっただけなので、攻撃としてはまだまだなのだ。
自分のセジを使って攻撃しないと、マジムンとは戦わせられない。
白虎がぶつかっている間、俺はひたすらステータス確認の練習をする。
理想は、まばたきでHPとSPを確認できるまでになれとナビーは言うが、今はまだできる気がしない。
お昼休憩を終え、修行を再開して1時間がたった。
白虎はまだヒンプンを1枚も壊せていなかったので、俺のヒンプンシールドの修行は全然できていない状況だ。
白虎は突然ぶつかるのをやめ、壁の前で頭を下げたまま立ち尽くしている。
「壊せなくて落ち込んでしまったのか? ……白虎、大丈夫かな?」
「白虎がこのくらいで落ち込むわけないさー! 覚悟しておかないとね、これから忙しくなるから」
白虎は顔を上げ、火の鳥マジムンにしたようにヒンプンに向かって
「おお! アカショウビンの時にやっていた攻撃ができるのか!?」
「自分のセジを使う感覚を覚えさせたいから、ジャンジャンやっていこうね」
俺が設置したヒンプンを次々と壊していく白虎は、セジの使い方がわかってきたようだった。
始めのころは
ナビーがもう一度手本を見せると、数分でコツをつかんだ白虎はすぐにナビーと同じようにヒンプンを破壊した。
ぶつかる瞬間にだけセジを一点に集中し、威力を上げつつセジの無駄遣いを防ぐやり方だ。
ヒンプンをハンマーで壊したときにつかんだコツに似ていたので、セジを使うときも考え方は同じなのだと感じた。
白虎がヒンプンを簡単に壊せるようになると、俺のSPが無くなる時間が早くなり、休憩の回数が多くなる。
2日目の最後のころには、
3日目。
2日間の休憩多めの修行のおかげで、疲れはだいぶ取れていた。
朝食を食べて屋上に上り、今日から新しい修行が始まる。
「昨日までは白虎が攻撃、シバが防御強化だったけど、今日からはシバが攻撃、白虎は回避の修行しようねー」
「白虎にはヒンプンシールド教えないの?」
ナビーが呆れた顔をして言った。
「えー!
「わかった! 気を付けるよ。だから、できるだけ回避させようってことなのか……で、どんな修行するんだ?」
「よし! また、白虎に理解させるためのお手本になるよ。白虎! 見ててよ」
ナビーは地面に手をついて犬の真似をしている。
「シバ、3発くらい私に当てるつもりで
「オッケー! じゃあいくよ。テダコボール、テダコボール、テダコボール」
しかし、ナビーは犬の真似をしながら俺に向かって走ると、右に左に上にとすべてよけて、俺の足にタッチをした。
「今見せたように、攻撃をよけながら近づいて、シバにタッチするまでを繰り返すのが今日の修行だね」
「これならすぐにできそうだな。アカショウビンの攻撃をよけてたくらいだし」
俺と白虎は30mくらい離れて向かい合う。白虎を静止させているナビーが掛け声をだした。
「行け、白虎!」
「ワフッ!」
まっすぐ走り出した白虎に向かってテダコボールを放つと、紙一重で左によけて、またこちらに向かって走り出した。
……修行のやり方を理解しているみたいだな。
続けて2発連続で放つと、1発目を上に飛んでよけたが着地した瞬間に2発目を浴びてしまう。
驚いて身構えた白虎は、何事もなかったので当たっても大丈夫だと知ると、残り半分の距離から向かってきた。
しかし、明らかに前半よりペースが落ちていて、よけることに集中している様だった。
当たっても大丈夫だからと、よけずに来られるより全然ましだ。修行内容を完全に理解している証拠になったので安心した。
次の攻撃のために狙いを定めようとした時、最初は一直線にこちらに向かっていた白虎は、右側から回り込むように迫ってくる。
慌てて連続で2発放ちよけられると、あと5mまで近づいていた。
最後の1発を直撃のタイミングで放とうと、手をかざし叫ぶ。
「
手の前でシュッと煙だけが上がった。SP切れのようだ。
白虎は残りの距離を一気に詰めて走ってくると、タッチではなくもちろんタックルをしてきた。
大体予想はしていたので、直撃を避けるように体をずらし、しっかりと抱きかかえた。
「おおっと、危ない危ない! よしよし! それにしても、白虎は頭がいいな。こっちの意図を理解してくれるし、対応力も半端じゃないし、これなら戦いに加えても問題ないな」
「
「はい、身に沁みました……」
修行中でももちろん
これから白虎もマジムン退治に加わると、バイクでは無理なので移動手段を考えなければいけない。
小型犬なら、かごに入れたりリュックに入れて背負ったりできただろうが、中型犬になると車じゃないと厳しいだろう。
こういうことは、後ほど花香ねーねーに相談してみることにする。
次の日の午前中まで、何度も繰り返し白虎に向かってテダコボールを放ち続けた。
午後からは秘密の特訓をするからと、ナビーは白虎を連れて近所の公園に行ってしまい、俺は置いてけぼりにされた。
正直、一緒に戦うのに秘密にする意味が解らないが、多分、俺を驚かせたいだけだろうから何があっても驚かないことにしようと決めた。全く意味のない反抗だが。
実は、俺も試したい技があったので、1人になれたのは都合がよかった。
試したい技は、俺が覚えた技で修行メニューに入ってなかった、セジ
4時間後、自分でヒンプンシールドを設置し、セジ
……よし! この調子なら、マジムン相手にも通用するだろう。
この後、ナビーと白虎が帰ってくるまでヒンプン壊しをひたすらやり続けて、4日間の修行が終わった。
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