第4話 剣キーホルダー

 古民家を改装して営業している沖縄そば屋を見つけたので入ってみることにした。

 昔はよく家族で外食していたが、最近は引きこもってばかりだったので、3、4年ぶりの沖縄そばに心おどらせている。


 ナビーは、俺と同じのが食べたいと言ったので、豚のスペアリブがのるソーキそばを2杯頼んだ。


「ナビーは沖縄そば好き?」


「食べたことないさー。それってまーさむんねー美味しいものなの?」


「はあ!? 2年もここにいて沖縄そば食べたことないって潜りかよ! って潜りみたいなもんだったな…… まあ、食べればわかるよ!」


 ナビーは今まで何を食べていたのか疑問に思ったのできいてみることにした。


「ナビーは、いつもの食事はどうしていたんだ?」


「花香ねーねーが買ってきた弁当を食べたり、出前を取ったりしてたさー。忙しくて、こんなものしか準備出来なくてゴメンって言ってたけど、なんで謝ってたのか分らんかったさー」


 花香ねーねーが俺に食事の管理を任せた理由がわかった。ナビーにろくなもの食べさせてなかったから、申し訳なかったのだろう。

 マジムン魔物退治は体力を消耗するので、これからはバランスよく栄養のあるものを食べさせてあげようと思った。


 ……花香ねーねーの健康も心配だ。


 しばらくすると、店員がそばを運んできた。


「ソーキそば2つです。うさがみそーれ召し上がれ!」


 切りたてを使っているのだろうか、強いねぎの香りがカツオと豚骨だしの香りとまじりあって、鼻を通り脳みそに届いた。

 どんぶりをはみ出しそうなほどのソーキに、小ねぎと紅ショウガが添えてある。ソーキは箸でつつくだけで骨から身が崩れるほど柔らかく煮込まれている。そこに、島トウガラシを泡盛で漬けたコーレーグースを入れるのが俺のベストだ。一般的には七味唐辛子を入れるが、俺はいれない派だ。


「コーレーグース、私も入れてみようかねー?」


「ナビーは初めてなんだからとりあえずそのまま食べて、後から入れてみたほうがいいと思うよ。じゃあ、いただきます!」


くわっちーさびらいただきます!」


 沖縄そばも、店によってアタリハズレがあるが、この店はアタリだったようだ。久しぶりに食べたことを除いても、とてもおいしく思えた。

 カツオベースと思いきや、しっかり豚骨のうまみを感じられるスープ。

 緩く縮れた麺がそのスープをまとわせて口に入っていく。

 ソーキを頬張ほおばると、上歯と下歯が当たる前に崩れる肉塊は、甘めに醤油で味付けされているが、スープのうまみを邪魔しない程度に抑えられている。

 ハズレの店は、ソーキに力を入れすぎてそれ単体では美味びみでも、そばと合わせる事によってどちらの味も変わってしまい味が落ちることが多々あるのだ。


 2人とも無言で麺をすすり、汁まで飲み干した。


くわっちーさびたんごちそうさまでした! ソーキそば、しにまーさんなーとてもおいしいね。あいやー、食べることに夢中で、コーレーグース入れるの忘れたさー」


「美味しかったから、また来ようよ! その時に入れればいいんじゃない」



 お腹が満たされたので花香マンションに帰り、リビングで休憩しながら先程の戦いの反省会をすることにした。


「そういえば、ハリガネマジムンの時に無我夢中でテダコ太陽の子ボールを放ったけど、俺のSPを考えたら数発しか出来ないはずじゃない?」


「ああ、シバがステータスを見たのがイサトゥーカマキリマジムンを倒す前だったからさー! イサトゥーカマキリマジムンを倒した後にレベルが上がって、SPが増えたわけよー。今のステータス見てみて! ハリガネマジムンを倒した経験分も加算されてるから」


柴引子守(しばひきこもり)


Lv.8  


HP 54/54  SP 40/40


攻撃力 93 守備力 85 セジ攻撃力 15 セジ守備力 8 素早さ 10


特殊能力 中二病  マージグクル(土心) 昼夜逆転  身代わり 


特技 テダコ太陽の子ボール Lv.3


「すごい! 今日戦った分だけでレベルが5も上がってる!」


「あのマジムン魔物強かったからなー。本当は、もっと弱いマジムンから倒して、徐々に強いのと戦って経験を積むんだけど、この世界にきて弱いマジムンがあまり現れないからよー」


「何で、弱いのが現れないんだ?」


「現れてはいるんだけど、そこら中にある石敢當いしがんとうのおかげで自動的に消滅してるわけよ。だから、だいぶ楽だったさー!」


 石敢當いしがんとうとは、丁字路、十字路、三叉路の突き当りなどに魔よけのために置いてある、沖縄ではホームセンターでも売っている石敢當と彫られた石碑である。

 まさか、本当にあの石敢當いしがんとうが魔よけに効果があったとは思いもしなかった。

 小学校低学年辺りの子供たちは、登下校の際に石敢當いしがんとうを10個さわったら願いが叶うという迷信を一度は試すものだ。


「じゃあ、俺たちが戦うのは石敢當いしがんとうにやられない強いマジムン魔物ってことなのか? それって、レベル上げが必須の俺からしたら危なくね!?」


なんくるないさーなんとかなるよ! 私が一緒だから大丈夫よー! 考えてみー。シバがRPGのゲームやってるとするさー。終盤になってパーティーメンバー変えたくなって変えたとするさー。そしたら、この低レベルの新メンバーを鍛えるときどうするねー?」


「あーっと……その場合は、残るメンバーで倒せる限界の強さのモンスターが出るダンジョンに行って、新メンバーに大量の経験値を与えるかな。そしたら、コツコツ弱いモンスター倒さずに、一気にレベルが上がるからな……あっ!」


 俺が気が付いた様子を見てナビーの右側の口角が上がった。


「ニヤリ、気づいたようだね、私がいれば大丈夫ってことに! シバは、後から短時間でレベル上げができる新メンバーと同じだわけよー!」


 こいつ、口でニヤリって言いやがった。

 この2年で、ゲームをやりこんでるナビーに驚きつつ、ハリガネマジムンに狼狽うろたえていたことをもう忘れたのかと少し呆れた。

 でも、たしかに今日マジムン魔物を数匹倒しただけで、こんなにレベルが上がると思わなかったので悪い気はしない。

 

テダコ太陽の子ボール以外のナビーの技って俺にもできるの?」


「攻撃の技なら頑張りしだいでできるよ! でも、回復系の技は女性のセジ霊力使いにしかできないから、シバには無理さー。もともと、私たちノロは男性の武士にセジ霊力を与えるのが役割で、直接戦ったりしない。女で私だけが直接戦えたから、この世界に来たわけよー」


 強い男性だけが来ても、セジ霊力を扱えないとマジムンは倒せないから、ナビーがこの世界に来た意味は分かる。

 俺が持たされている黄金勾玉クガニガーラダマを持っていたとしても、マブイグミなどの回復の技が使えないとこの世界を守るために来た意味がなくなるから、ナビーでないといけなかったのだ。


「それなら、俺がメインのアタッカー、ナビーはヒーラーとして戦っていったほうが良いんじゃない?」


 ナビーは、ヒーラーと聞いてすぐさま床に腹ばいになって手足をワサワサと動かした。


 ……もしかして、ヒーラーが嫌で駄々をこねているのか? と思ったが、違ったようだ。


「カサカサカサ……カサカサカサカサカサカサ……」


「……急に何してんだ!?」


「ヒーラーといえばゴキブリさー!」


 そういえば、うちなーぐち沖縄方言でゴキブリのことをトービラー、またはヒーラーということを思い出した。


 ……何、こいつ。まさかゴキブリの真似してたのか? ボケなのか? ツッコまないといけないのか? 俺はこの状況にどうすればいいというのだ?


 俺は、何も言わず履いていたスリッパでナビーのお尻を叩いた。


アガー痛い! ぬーそーがー何するか!?」


「この世界では、ゴキブリにはスリッパでツッコむと相場が決まってるんだよ!」


 ゴキブリの物まねをしたまま、リビングで動き回り始めてダジャレを放った。


「ゴキブリの動きぶり! なんちゃって!」


 俺は、もう一度スリッパでナビーのケツをしばいた。

 

アガー痛い! えー、シバ! 一応、私のほうがしーじゃー年上なんだからな! しかも、このダジャレ花香ねーねーに教えてもらったんだよ!」


「しょうもな……って、花香ねーねーはよくこんなこと言うのか?」


「思いついたら、つい言いたくなるみたいよ」


 そうだった。花香ねーねーはツッコミをすることは確認済みだった。ダジャレぐらい言ってもおかしくないはずだ。って本題からずれすぎた。


「ゴキブリはもういいから戦闘の話に戻るよ。俺がアタッカーでナビーがヒーラーでやっていくのに反論はある?」


「反論はないけど、シバの攻撃力がもうちょっと上がらないと、強いマジムンには歯が立たなくなるから敵の強さを見ながらにしようねー。まあ、修行もしてもらうから大丈夫よー」


「修行ってどんなことするの?」


「基本的には、ステータスに反映する筋力と体力のトレーニング。後は、セジを使う技のトレーニングだね。マジムン魔物が現れない時にちょくちょくやっていこうねー!」


 結構ハードそうな内容だが、努力がステータスとして目に見えて反映されるので頑張りがいがある。


 反省会が終わり、リビングのソファーに座ってテレビを見ながらくつろいでいた。ナビーはスマホでゲームをしている。

 あるCMが流れたとき、2人とも立ち上がってテレビを凝視した。


「琉球の国宝、3振りの宝刀展示会開催、ってこの前ナビーが言っていた、異世界琉球の敵が持ってたっていう刀じゃないのか?」


「うん、確かにあいつらが持っていた刀だった……」


「那覇市内の博物館だな。近いから行ってみる?」


「見られるのか?」


「まあ、入場料さえ払えば見られるよ」


「だったら行こう! 敵の武器を知っときたいからよー!」




 博物館に着いた。平日だからか他のお客は数えるほどだった。

 館内に入ると受付窓口の女性に呼び止められた。


「ご来館ありがとうございます。学生証はお持ちになりますでしょうか?」


「あっ……あの、高校通ってません……」


「ぶっ、もっ、申し訳ございませんでした。では、身分証明ができるものはございますか?」


 ……今、吹き出しそうにならなかったか?


「バイクの免許ならあります」


 免許証を渡すと、顔と写真を見比べた。


「18歳未満ですので、入館料は無料になります。彼女さんは身分証明書をお持ちでしょうか?」


 彼女じゃねーよ! と言いたかったがそれは飲み込んだ。俺は、近しい人以外とは必要以上に会話をしたくない人間なのだ。


「私、そんなの持ってないよ。20歳だから大人料金払おうねー」


 ナビーが俺に、大人料金を払うようにうながしたので財布を取り出した時、受付の女性が失笑して言った。


「ぷひっ! 学生証忘れたんだね。お嬢さんなら確認しなくても無料で大丈夫よ。でわ、お楽しみください」


 俺は無料でラッキーと思っていたが、ナビーは今にも受付の女性に飛び掛かりそうに見えたので、すぐにナビーの腕をつかみ目的の展示場に向かった。


 ……あいつ、相当失礼な奴だったな。


 特設展示場に着くと、ガラス張りの台にそれぞれの説明書きとともに3振りの刀が展示されていた。


 全長92.1cm、さやが金色に輝いており、長さのわりに片手打ち用に短めのの刀、千代金丸ちよがねまる


 全長53.8cm、大きめの脇差わきざしさや黒漆くろうるし塗りのつやが見事な刀、治金丸じがねまる


 全長46.5cmの短刀たんとう。金と黒のモザイクのようながらさやと、金色の鮫肌のような作りのの刀、北谷菜切ちゃたんナーチリー


 俺は只々、刀の美しさやかっこよさを楽しんで見ていたが、ナビーはガラスに張り付いて刀を食い入るように見たり、説明書きを読んだり、かなり真剣に情報収集をしていた。


「ナビー。この刀、異世界琉球で見た刀と同じだった?」


「うん、色合いといい長さといい全く同じものにしか見えんさー」


「で、何か収穫はあった?」


 ナビーは、北谷菜切ちゃたんナーチリーに指をさした。


「あの一番短い刀あるさー。あれ、振る真似だけで首を切れる妖刀らしいよー! それぐらいしか為になることなかったねー」


「まあ、戦う際には首に気を付けないといけないことが分かっただけでも良かったんじゃない?」


「そうだね。元の世界に帰った時のお土産になればいいかな!」


 ナビーが満足したようなので展示場を出る。

 展示場の出口正面に、小さな売店を見つけた。そこに売っていたのは、中二病患者が心をかれてしまうあのアイテムだった。


「す……すごい完成度だ! 展示されていた3振りの刀を忠実に再現している」


「これなんねー?」


「さっき見た刀をした、剣のキーホルダーだ……かっ、買いてー」


「こんなもん何に使うわけ? 無駄遣いさー!」


 分かる……無駄遣いだってことは分かっている。これを買ったとしてもキーホルダーとして何かにつけることはないかもしれない。

 だが、理屈じゃない。見てしまったらつい買いたくなってしまう……病気だ。

 無駄遣いと思っているナビーに、どう説得して購入まで至るかを考え、中二病にあこがれていることを利用させてもらうことにした。


「これを欲しがらないってことは、ナビーはまだ分かってないんだな……」


「はぁ? 何がよー?」


「中二病患者は100%、こんな感じのキーホルダーを持っている! 逆に言えば、これを持ってないと中二病ではないとまで言っておこう!」


 中学2年で行った修学旅行。全国のお土産屋さんになぜか不自然に、しかし、自然と売られている龍が巻き付いている剣のキーホルダー。もちろん、俺は買った。

 思い返せば、同級生で剣キーホルダーを買っていた奴のほとんどが、中二病臭い奴ばかりだった。


 ナビーはちょろかった。中二病になれるかもしれないという期待をしているのか、目が笑っていた。


「ほ、本当にこれで中二病の仲間入りできるのか? だったら、買わないという選択肢はないさー」


 3種類を1本ずつ買った。北谷菜切ちゃたんナーチリーをナビーに渡し、残り2本を自分の物にすることにした。

 1本多く取ったのは、俺がいやしいからではない。

 ナビーの服装にちょうど似合う髪飾りが売っていたので、買ってあげたくなったからだ。キーホルダー3つより高いので、2本もらったところでどうってことない。

 琉球舞踊ぶようで使う、真っ赤な花を模して作られる花笠はながさをモチーフにした髪飾りと、花香ねーねーのお土産に、青色や黄色でサンゴ柄に染めたヘアバンドを一緒に買ってだいぶ所持金を減らしてしまった。


 ……お土産品の値段って非常識すぎないか?


「ご来場ありがとうございました」


 博物館内から出ようとした時、あの受付の女が笑いを含ませた声であいさつしてきた。ナビーはまた飛び掛かりそうなくらい怒っている。

 

「あのいなぐ女性、完全に舐め腐っているな! このまま帰ったら気分悪くなりそうさー」


 ナビーは、受付の女性に向けて両手をかざした。テダコ太陽の子ボールのように火の玉が現れたが、その大きさが尋常ではなかった。

 軽自動車を1台丸ごと包めるほどの火の大玉を作っていた。


「おおおおおおおおおーい! やめーーーーーーい! な、何も殺すことはないだろ!?」


「はぁ? 何言ってる。大丈夫だから見とけー!」


 火の大玉を頭上に掲げ、両手を投げるように振り下ろした。


ティーダ太陽ボーーール!」


 ティーダ太陽ボールは受付の女性に飛んでいくと見事に直撃した……が、何も起こらなかった。


「あースッキリしたー!」


「何も起こらない? 何がどうなっているんだ?」


セジ霊力で攻撃できるのは、マジムン魔物のようにヒンガーセジ汚れた霊力を持っている生き物だけだから、いくら大技当てても何も起こらないから大丈夫よー」


「それならそうと前もって言ってくれよ……殺人犯の知り合いになると思ったわ!」


 受付の女性は何を勘違いしたのか、ナビーが手を挙げて動かしている様子を見て、笑いながら自分も頭上で両手をおどらせていた。それを見て、俺とナビーは同時に叫んだ。


『カチャーシーじゃねーよ!』


 博物館を出た後、近所のスーパーマーケットに寄り、晩ご飯の食材などを買った。


 帰りのバイクでふと疑問が浮かびナビーにきいてみる。


「さっき、ヒンガーセジ汚れた霊力を持ってる生き物だけが、セジで攻撃できるって言ったよな?」


「そうだけど、それがどうしたの?」


「アカマターマジムンの時、ナビーの攻撃食らってダメージ受けたんだけど?」


「ああ! あれは、私の攻撃でアカマターの口が強く閉じて、その中にいたシバにダメージを与えたわけよー。大丈夫! シバはヒンガーセジ汚れた霊力持ってないよ!」


「そうか。大丈夫だったのか……って大丈夫じゃねーよ! 明らかにあれは、戦略ミスだろ!」

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