チャンプルーファンタジー

マーナリ

火の鳥マジムン編

第1話 いきなりマジムン

 2019年2月18日。


 正午を知らせる鐘がなる。

 日付が変わったころからぶっ通しで2クール分のアニメを見終わり、満たされた気持ちのままベッドに倒れこんだ。


 すると、部屋の吐き出し窓がゴンゴンゴン! と鳴り出した。

 この部屋は2階でベランダはあるが、外から上がることができる階段はない。


 ……泥棒か!? いや、だとしたらこんな目立つことはしないか。


 どうすればいいのか悩んでいるうちに、ゴンゴンゴン! がより激しくなったので、とりあえずカーテンだけを開けてみることにする。


 そこには、俺の身長が170㎝でその肩下ぐらいだから150㎝満たない、12、13歳位の黒髪ショートの女の子が立っていた。

 丈の短い鮮やかな黄色い紅型びんがたの着物が似合っているが、そんなことは今はどうでもいい。


「早く開けなさい! ひきこもりー!」


 ……うぐっ。一番言われたくないことをサラッと言いやがって。まあ、小柄で可愛いし、危険はないだろう。


 部屋に入れてあげるためにカギを外すと、女の子にすぐさま窓を開けられて、切迫した表情で書類を見ながら問い詰めてきた。


はいたいこんにちは! いゃーお前柴引子守しばひきこもり、17歳、引きこもりのニートで間違いないねー?」


「きっ、急になんだよ! まぁそうだけど。それより君は誰で、何が目的で、何で俺の名前を知っているんだ?」


「それは後で話すから、とりあえず私の質問に答えなさいねー」


 女の子は少し焦りながら、俺が触れてほしくないことを次々と質問してきた。


「これから学校などで勉強する気はあるねー?」


「はぁ? あるわけないだろ」


「なら、働く気はあるねー?」


「もちろん、ない!」


「夢はあるねー? 友達はいるねー? 恋人はいるねー? ……」


 次々に繰り出される攻撃に打ちのめされそうになり、たまらず言葉が出てきた。


「全部ないよ! そろそろ心が持たないからやめてくれ!」


 俺の心を打ち砕いた女の子は、なぜか喜びながら最後に問いかけた。


いゃーお前は私が探し求めてた、まさにその人さー! 私と一緒に沖縄を守ってくれないねー?」


 話が急すぎて頭が回らないでいると、女の子が続けて言った。


「じゃあ、言い方を変える。勇者になってみたくないねー?」


「勇者ってアニメとかゲームの主人公のことか? それならもちろんなってみたいけど……何言ってんだ。頭、大丈夫か?」


「えー! 頭、大丈夫かだと!?」


 キレている様子の女の子は、懐に隠れていたネックレスになっているゴルフボール大の2つの金色勾玉まがたまのうち、1つを俺の首にかけてきた。


「なんだこの金の玉は?」


「そう、これは男の股にぶら下がっているって、何を言わせようとしているか! この変態や!」


 自分が勝手に乗ってきたのに変態扱いはひどいだろ、と思いながら金の勾玉の説明を待っていると、赤面気味の女の子は何事もなかったかのように説明を始めた。


「これは黄金勾玉クガニガーラダマといって、この世界でもセジという霊力を使えたり、マジムンという魔物を認識できるアイテムみたいなものさー。うり、外を見てみなさい。あそこに私が足止めしているマジムンが見えるでしょ?」


 黄金勾玉を首にかけたままベランダに出て、女の子が指す方向を見てみると、いつもは何もない広い空き地で、この世のものとは思えない生き物が目に映っていた。


 赤・黒・黄の褐色かっしょくが横縞に入った長さ6mくらいで、普通体型成人男性の胴体位の太さの蛇と、赤土色の2匹の小型犬みたいな生き物がいがみ合っているように見えた。


「なっ、なんだあの生き物は!? 沖縄に野生であんなでかい蛇いないだろ!? しかも、あの犬みたいなのは、なじみのあるシーサーに見えるんだけど?」


「あれは、アカマターのマジムンさー。アカマターにヒンガーセジ汚れた霊力が入り込んでマジムン化しているわけよー。んでっ、あの2匹は柴引しばひき家の門にあったシーサーに私がセジをめて戦わしているわけさー」


 勝手に人の家のシーサーを使ったことはどうでもいい。それより、目の前で起こっていることが信じられずにいる。

 昔から霊や占いなど、非科学的なものを疑いに疑ってきた。

 霊感もなく、そのようなものとは縁遠かったから、何かのトリックがあるのではないかと疑ってしまう。


「一度、勾玉を外してみなさい。信じるしかなくなるさー」


 恐る恐る勾玉を首から外すと、目の前がいつものなんてことない空き地に戻っている。

 そして、もう一度首にかけてみると、ちょうど1匹のシーサーがアカマターの頭部に噛みついて揺す振られていた。


 これは現実なんだと確信したとき、体の芯から高揚感がふつふつと湧き上がってきた。

 非科学的なことを疑う理由が、誰よりも非科学的なことが本当にあってほしいと願っていたからで、この異常が現実に起きていることはとても喜ばしいことだった。

 よくテレビでやっていたインチキスピリチュアルの類ではないのだ。


「でっ……俺はどうすればいい?」


「おっ! 引き受けてくれるのか? 怖気つかないとは大したものさー。決断が速いのはじょうとー良い事だねー! じゃあ、チュートリアルということで、あのアカマターを一緒に倒そうねー!」


「はぁ? チュートリアルってゲームかよ!」


いちゅんどー行くよ!」


 そう言って、そのまま2階のベランダから下に飛び降りた女の子が、格好つけて着地をし、早く降りて来いと急かしてきた。


 急いで普通に玄関に向かうために部屋を出ようとした時、ドア横のタンスに足の小指をぶつけた。


「アッガーーー! オッ、オッ、折れたかもしれん……」


 誰もいない家に響き渡る叫び声。

 部屋内だけでできる自重筋トレ以外の運動を長いことしていないのに、急に動いてしまったので、足の運びがうまくいかなかったのだ。

 転がりながら足を抑え、しばらくもがいて痛みになれてきた。


「何してんだ俺……」


 痛みを我慢して足を引きずりながら玄関から外に出ると、女の子が苛立いらだたし気に立っていた。


「えー! ここでうちなー沖縄タイムさんけーやるなよ!」


「ちっ、ちがうって! 小指ぶつけて折れたかもしれないんだよ……」


「はぁ? 勇者の第一歩が小指骨折って聞いたことがないさー。かっこよく2階から飛び降りた私の演出がパーになったやっしー! まあ、ちょうどいいか。だー、見せてみー。治そうねー」


 女の子が、折れた足の小指に手を当てがいグスイと唱えると、青白の淡い発光とともに痛みが完全に消えていた。


「すげえ! 治った。全然痛くない。回復魔法もあるなら、俺でも余裕で戦えるかもしれないな」


「まあ、RPGのMPマジックポイントみたいなもので、無限ではないから気を付けないといけないさー。魔力じゃなくてセジを使うからSPセジポイントと覚えといてよ」


「考えて使わないといけないってことか……」


「それより早く戦うよ。まずステータス確認しようねー。目を閉じて、適当にステータス表示を思い浮かべてみてごらん」


 言われた通り目を閉じ、何となくロールプレイングゲームをイメージしてみると、暗闇の中に白い文字が浮かんできた。




柴引子守(しばひきこもり)


Lv.1   


HP 30/30  SP 20/20


攻撃力 86 守備力 77 セジ攻撃力 5 セジ守備力 5 素早さ 3


特殊能力 中二病   マージグクル土心 昼夜逆転  


特技 なし



「えっ……これじゃ勝てなくね?」


 初期値にしても、攻撃力と守備力以外ごみのようなステータス。特殊能力も意味が分からないものだけだし、特技に至っては何もないという悲しい結果だった。


 目を開けると、女の子が笑いをこらえながらこっちを見ている。たぶん、能力透視とうしでのぞいたのだろう。

 笑っているけど自分自身で俺を選んだのを忘れてるのか、と思っていると女の子が口を開いた。


いゃーお前は、どぅー自分が最初から強いとでも思っていたわけ? これは、現実の世界でわかりやすいように、ゲームみたいにしてるだけだからね。修行なしで強くなるわけないさー」


 言われてみればそうだ。ゲームでさえ最初は弱い。最初から強いのは俺TUEEE系くらいである。

 最近はまりすぎて、感覚がマヒしていたのかもしれない。先程まで見ていたのも俺TUEEE系だった。


「でも、頑張った分野のステータスはちゃんと反映されていくからねー。だから、攻撃力と守備力がそこそこ高いわけよ」


 そうだ! 俺は引きこもりながらも、何かあった時のため筋トレをしていたのを思い出した。引きこもりの筋トレほど、無駄なことはないと思いながらも、やっててよかったと思った。


「よし! これから色んなこと頑張って強くなるよ。だから、とりあえずあのアカマターの倒し方を教えてくれ。というか、あのシーサーでは倒せないのか?」


 やる気になったのが嬉しかったのか、女の子はニコッと笑った。そして、シーサーのことを説明し始めた。


「あのシーサーは、あまり良いシーサーではないから倒せないさー。セジ霊力がこもった職人のシーサーならでーじとても強いけど、あれみたいな量産品のシーサーでは、足止めが限界だから自分達で倒すしかないねー。しかも、セジめはSPの消費が激しいから多用ができんわけよ」


「やっぱり簡単にはいかないんだな。でっ、どうする?」


「蛇の攻撃は、噛みつくのと巻き付いて絞めつけるくらいなものさーね。で、弱点は頭。だから、相手の攻撃を封じて、頭に強い一撃をくらわすのが作戦だねー。よし、行くぞー!」


「よし、行くぞーって具体的に教えてくれないとわからねーよ!」


 なぜかニタニタ顔の女の子は、俺の背中に手を当て、回復の時みたいにカタサン硬化! と唱えると、そのまま思いっきりアカマターめがけて押しやがった。

 急に押されたので何もできずにいると、案の定、体を飲み込まれんばかりに噛みつかれてしまう。


「アガッ、痛い痛い痛いって、あれ、あんまり痛くない? あっ、でも少し痛い」


カタサン硬化は防御力をあげるから、ある程度は大丈夫よー! すぐ終わらすから我慢してちょうだい!」


 すると、女の子は足元に転がっている石を右手に取り、セジを籠めたようだ。

 赤く発光した右拳が、握っていた石の形のままサッカーボール大になった。

 そして、こっちに向かって飛び掛かってくる。


「くらえー! イシ・ゲンノ石ハンマーーー!」


 技名? を叫びながら、俺に噛みついているアカマターの脳天めがけて、大きなが降りおろされた。

 もちろん、俺は噛まれたままなので、その衝撃をもろにくらった。

 いくら防御力をあげたといっても、ものすごく痛い。


 多分、この子はいかれている。


 攻撃をもろに受けたアカマターは、トカゲの切れたしっぽのように動いた後、普通のアカマターの大きさに戻って、草むらに消えていった。

 アカマターから放出された黒い霧のようなものが、黄金勾玉クガニガーラダマに吸収された。


「なんか入ってきたんだけど、大丈夫なのか?」


「黄金勾玉は、ヒンガーセジ汚れた霊力を浄化して蓄える役目もあるから大丈夫さー」


 女の子はアカマターを見届けて、持っていた石をその辺に放り投げて満足げな顔をしている。


「うん、ちびらーさんすばらしい!」


「うん、ちびらーさん、じゃねーよ! 殺す気だっただろ!」


「殺す気ならカタサン硬化なんて使わんよー。それに、そこまでHP減ってないはずよー」


 そう言われたので、ステータスを見てみる。


柴引子守(しばひきこもり)


Lv.3   


HP 5/34  SP 20/22


攻撃力 88 守備力 80 セジ攻撃力 6 セジ守備力 6 素早さ 4


特殊能力 中二病  マージグクル土心 昼夜逆転  身代わり 


特技 なし




「HPゴッソリ持ってかれてるだろーが! 早く回復してくれー!」


あいえーなーしまった! わっさいびーんごめんなさい! 私、もうSP切れてるさー。やしがだけど、少し休めば回復するから大丈夫よ!」


「あの……俺、これからお前とやっていける気がしないのだけど。辞退って出来ませんか?」


「なぁーに冗談言ってるか! これからが楽しくなるってのに!」


 冗談ではなかったが、もう言い返す気力が残ってない。


 女の子は、だらけている俺を部屋まで運んで、ベッドに寝かしてくれた。

 寝転がったとたん睡魔が襲ってきてウトウトしていると、女の子はその下で自分も眠ろうとしたが、急に立ち上がって話しかけてきた。


「そういえば、まだ名前教えてなかったさー。私の名前はナビー。これから大変だと思うけど、ゆたしくよろしくうにげーさびらお願いします!」


「ああ……よろしくナビー……とりあえず、今は休ませてくれ」


「そうだね、ゆくいみそーれひと休みして。私もゆくろうね休もうね


 意識が薄れかかったとき「あっ、シーサー、シーサー」と言って駆け出したと思いきや、直ぐにゴトンと音がして「アッガーーー!」の叫び声が聞こえた。


 ……タンスの位置、変えないとな。

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