恋するアンドロイド

水谷一志

第1話 一~三

アルコール度数の高い酒は、よく燃えるらしい。

……そう言えば酒に火を移す料理番組、俺も見たことがあるな。

ただ俺の今の心の炎に比べたら、そんな火なんて大したことはないだろう。

 そう、俺の心は今嫉妬の炎に燃えている。


遡ること数週間前。

「ねえボブ、今日はどこ行くの?」

「それは着いてからのお楽しみさ」

アフター5。俺とガールフレンドのエリカを乗せながら、自動運転のマイカーがアリゾナのハイウェイを走る。

 ちなみに俺は正確に言うと人間ではない。俺は最新型のアンドロイド。西暦20××年、この時代になって生まれた新しい人種である。

「もう~もったいぶってないで教えてよ」

対するエリカは地元アリゾナの普通の人間。ただ絶世の美女だと俺は思っている。……しかしよく俺はこの女と付き合えたものだ。これは神に感謝するしかない……のか?

「まあまあ。お、もうすぐ着くみたいだな」

そう俺は言いながら彼女のおでこにキスをする。アンドロイドの俺だが、好きな女には積極的にアプローチしてきた方だ。そうやって俺はエリカを手に入れた。

「はいはい。あ、お酒は大丈夫なの?」

 やっぱアリゾナはメキシコにも近いし、今日はテキーラだな。そう、俺の燃料は酒。俺は酒がないと動けないタイプのアンドロイドだ。


「さあ、そろそろ着く頃かな」

今日はドライブインシアターに彼女を誘っている。さすがここは広大な北米大陸。とにかくシアターのスクリーンも、周りに停まっているクルマのスケールもデカい。そんな所にいると俺たち人間は何てちっぽけなんだろう……、と言うような気分にもなってしまいそうだ。おっと、俺は人間ではなかったな。

「わあ、この映画見たかったの!ありがとうボブ!」

そう言ってエリカは鋼の俺の首に手を回す。その後のハグ。その彼女の熱が、直に俺の金属の心に触れる気がする。それは人間という生き物の温もり。ああ、生命って悪くねえなあ~!俺はそんなバカバカしい思考を一瞬でデリートして彼女と向き合う。

 ちなみに今回の映画のチョイスは完全にエリカ目線だ。それは日本を舞台にしたラブロマンス。俺は普段はハリウッドのアクション物、それもバンバン戦うヤツが好きだ。そんな派手なアクションに、生ビールはうってつけ。俺は一人の時には、ホームシアターでそのビールを飲みながらアクションを鑑賞し、敵を倒した気分になって酔いしれる。

 しかし今日は遠い太平洋の彼方の島国のラブストーリー。俺たちの国と違って、何か甘酸っぱさが際立つ作品だ、俺は映画の予告を見てそう思った。そんな時の俺の燃料、そして彼女のたしなみは……、カルーアミルクと言った所か?とにかく緩い酒を今夜は飲みたい気分だ。

 そして映画が始まり、俺たちは片方は手を繋いで、もう片方は酒のグラスを持ってそれを鑑賞した。こういう映画のことを、向こうの言葉では「キュンキュンする」と言うのだろうか?俺は使い慣れないジャパニーズを、頭の中で反芻する。

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