死ななければ、出逢えない。

総督琉

死ななければ、出逢えない。

 天候が悪い真夜中の街路樹通りを歩き、人通りの少ないトンネル付近を歩く一人の彼女。だが、彼女の足は雷鳴によって照らされたその光景を見て足が止まった。

 雷鳴によって彼女の瞳に映し出されたのは、一人の少年が男の首を握って持ち上げているところであった。

 少年は気配に気づき、女性の方へと振り向いた。


「やっと……逢えた…………」


 そう言った少年の瞳からは、一滴の涙がこぼれた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 私は近所の高校に通う高校生だ。

 学力は平均的であり、スポーツはギリギリ賞を獲れる程度の実力を持っている。

 平凡?ノンノン。

 私は誰よりも欲深く、そして誰よりも優れているのである。

 そう、私こそが、世界をいずれ支配する神なのである。


 と、私は中二病である。

 安心してくれ。私は中二病と自覚している中二病である。だからこそ、たまにノリで中二病的なことをしてしまうことがある。それがあとで布団に潜って嘆くほどに悲しいことであった。

 だがしかし、私は学んだ。

 そうだ。真夜中誰もいない場所に行って中二病発言をして発散すれば良いのだと。

 と、まあ変なことを考えていると、教室へ先生が入ってきた。


「皆さん座ってください。今日は転校生が来てますよ」


 マジか!

 確かこういうのは白馬の王子様のような太陽のように明るい男が来るというのが流行りであるが……。

 女子の期待の眼差しが扉へ向けられる中、入ってきた男は少し陰気そうだが顔はまあまあのレベルの男。


「自己紹介をして」

「初めまして。僕は六道ろくどう神千代かみちよ。よろしくっす」


 何だこの軽い挨拶は。

 皆そう思った。

 とは言っても、これはクールと分類されるタイプなのではないか?

 そう抱きつつある女性がちらほらといたのは確かであった。

 休み時間が終わると、クラスの女子たちはこそこそと転校生を観ながら話している。それもかなり盛り上がっていた。


「六道神千代。よろしくな。俺は……」


 クラスで一番の陽キャが彼に話しかけようとするも、陽キャの手を弾いて席を立った。


 おいおい。さすがにこれは少し癖の強い転校生だな。

 とまあお伽噺の絵本でも読んでいるかのような視線を向けていることに気づいたのか、六道という男は私を凝視している。


「見つけた」


 六道は私の手を掴み、教室の外へと無理矢理足を運ばせる。


「おい……。何をしている。速く離せ……」

「お前には聞かなくてはならないことがある。だから大人しくついてこい」


 力ない女の腕を、六道は容赦なく引っ張って屋上へと運んだ。


「何をする」


 私は鞘から剣を抜くように六道の手を弾いた。


「暴れるようだから単刀直入に聞こう。昨日の夜、お前はどこで何を見ていた?」


 私は自ずと進めていた足を止め、恐る恐る振り返った。


「そんなこと聞いて、何になるの?」

「念のためだ。もしお前が昨日の夜何かを見たのならば、殺そうと思っていたのだがな」


 六道の腕には青い霧とともに、一本の槍が彼の手には創製された。


「ここで君を殺しても構わないかい?」

「能力を見せた時点で、私が昨日人を殺しているのを見たというのを確信しているだろ」

「ああ。実際お前があの場にいたと確信している」

「殺すのか?」

「いいや。最初からお前を殺すつもりはない。ただ君には手伝ってほしい。黒霊こくりょうと呼ばれしバケモノと戦うために」

「黒霊?」


 まるでどこかのファンタジーのモンスターのような存在だろうか?


「そして昨日、生き残っていた黒霊の二体の内、ようやく一体を殺り、あとは一体」

「それは、オレノことかい?」


 まるで落雷でもしたかのような閃光と緊迫感が周辺へと漂っているのを感じた。背後には全身を漆黒で包んだ人型の何かが地面を粉砕してそこにいた。

 それは人とはほど遠く、目の前にいるだけで殺気でつ潰されそうになるほどだ。恐ろしく立っているだけで吐き気がするその脅威に、私の体は悲鳴を挙げている。


「あれが最後の黒霊、そして黒霊の大王。名をーーウィザーネ=デスデストピア。今まで戦ってきた黒霊とは何もかもが桁外れの強さを誇る、黒霊界の支配者だ」


 暗黒に身を包んだ何かは、私と六道を紅の眼孔で睨み付けている。すさまじいまでの殺気に身を震わせ、思わず足を後退させる。

 ーー勝てるはずがない。

 直感がそう言っていた。

 勝つ?私は何を考えているんだ?


「下がっていろ。この黒霊の相手は僕が努める」


 六道は手に創製した槍を構え、黒い何かへと向ける。

 私は扉を開けて逃げようとするも、既に扉は瓦礫の下に埋まり、この屋上には逃げ場などどこにもなくなった。


「はははっ。逃がすわけないだろ。二人まとめて喰わせてもらう」


 黒い何かは六道へと進むーーだが、六道の槍の一振りで漆黒の何かしらは黒煙を吐き出してふらつく足で壁へと体をもたれかかせた。


「終わりだな」


 六道はとどめとばかりに槍を黒い何かへと差し込む。が、黒い何かの体はまるで霧のようになって実体を捉えることができなくなり、黒い霧がそのまま空気中へと飛散し、そして消えていった。


「逃げられた」


 六道は周囲を見渡すも、どこにも黒い霧は見当たらない。既に逃げられ、六道は冷や汗を流す。

 目を右往左往させ、驚きを隠せない。

 だがすぐに冷静さを取り戻したのか、ポケットから水晶を取り出してその水晶を覗きながら何者かと話していた。


「父上。黒霊の王を逃がしてしまいました。申し訳ございません」

「そうか。それは災難だったな」

「黒霊は次どこへ出現しますか?」

「既に黒霊は移動先で被害を出している。今すぐ言う場所にすぐに向かえ」

「はい。解りました。では今すぐ向かいます」


 六道は水晶をポケットにしまうと、私の腕を無理矢理引っ張ってそのままどこかへと連れていく。さすがに抵抗するも、既に六道は一枚の札を取り出していた。


「転移門。展開」


 青い炎が私たち二人の周囲を囲み、そしてその火が消えるとともに、私たちはいつの間にか知らない場所にいた。

 ここはどこだろうと周囲を見渡していると、高層ビルが次々に破壊されていく。


「まずいな……。このままでは…………」


 六道は震えていた。

 さすがに状況あ状況と察しているのか、六道は槍を構えて黒霊に備えていた。市民が次々と黒霊に殺される中、六道は黒いとなった黒霊へと飛び込んだ。


「断ち切れ。無情の矛よ」


 六道が握る槍には、青い炎が纏わりつく。その炎を纏わせたまま、六道は黒い霧へと駆け抜ける。


「青炎閃矛」


 黒い霧を貫いた六道の槍。だがしかし、黒い霧は槍に纏わりつき、すると炎が消えていく。黒い霧はそのまま六道へと絡み付き、纏わりつかれた六道はまるで全身に切り傷を与えられたかのように倒れた。

 血まみれになった六道は、地に体を寝転がした。


「六道ぉぉぉおおお」


 ーーああ。そういえば私も、かつては黒霊と戦っていたんだ。


 私が駆け寄ったのを見て、六道は私へと顔を向ける。


「無道霧葉」

「あれ?私名乗ったっけ?」

「言ったろ。僕は君を探していた。僕である君を。君である僕を」

「何を言っている?」


 さすがに意味の解らないことを言われ、能は既にパンク状態。

 一体彼は何者なのだ?


「やはり君には……逢えないらしい。それでも僕は……君に逢いたい……」


 六が私の手を掴んだ瞬間、純白の光が周囲を埋め尽くし、まるで私の体から何かが消えたように、私は自分を取り戻した。


 ーー思い出した。私はあの日、黒霊にとりつかれた。六道が殺していた男は黒霊であり、その黒霊が私にとりついた。だからその、私が戻ることはできないということだ。


「戻ってきたよ。神千代」

「霧葉。当たり前でしょ。やっと私は、戻ってきたんだ」


 私は全てを思い出した。


「表と裏の万里を暴き、世界の理を一から崩す。聖天堕譚」


 私の両手には光の粒子が舞い踊る。その両手をかざし、私は光を黒い霧へと放った。


「さようなら。黒霊の大王、ウィザーネ=デスデストピア」


 黒い霧は光に飲まれ、そして消えていく。



「あーあ。死んでしまった。結局何もできぬまま、死んでゆくのか……」

 そう寂しく呟いた者。

 そんな者の前に、光が舞い散る。

「ねえ。光は好き?」

 何を求めていたのか?そんなことを問われれば、その者はたった一つの答えしか出ないであろう。













「やっと逢えたーー」

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死ななければ、出逢えない。 総督琉 @soutokuryu

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