魔物王を聖剣で瞬殺する

 かつての王室に入った時に感じたのは醜悪な負のオーラだった。それから生臭い匂いだ。


「ひどい匂いです」


 リーネ達も表情を歪めた。


「恐らくはこの部屋の中に大本となった魔物がいるはずです。それは恐らく――」


 ギイイイイ!

 エルク達は扉を開け、かつては王室だった部屋へと入って行く。


「クックックックック! クックックックック! よく来たの。冒険者達よ。そして久しいな。わしが追い出した元宮廷錬金術師エルクよ」

「アーガス国王……やはりあなただったのですね」


 目の前にいる男はかつてと同じ風貌をしていた。太った腹。脂ぎった顔。醜悪な見た目はかつてと変わってはいない。だが、そのうちからあふれ出てきている魔のオーラは以前にはなかったものだ。

 器は同じではあるが、中に入っているものは異なってしまっている。かつての国王でない事は明らかだった。


「まさか、貴様を追放した事でこんな事になるとはかつてのわしは思ってもみなかっただろうな。だがよい。わしはこうして力を手に入れた。そして貴様を殺し、わしの判断が間違っていなかった事を証明しよう。そう、貴様のような穀潰しはやはり我が王国には不要だったのだと、わし自らの手で証明してやろう」

「危険です。あの国王はもはや以前の国王ではない。魔に取りつかれてしまっている」

「「「はい! 先生!」」」

「エルクさん、ここはまず俺達にやらせてもらえないか?」 そうゼネガルが聞いてきた。

「いいんですか?」

「勿論、俺達で倒せるとは思ってもねぇ。俺達は捨て駒だ。敵の実力が未知数な以上、試しにに打って出てみないとならなぇ。そうじゃないですか?」

「そうですか。ではそうしましょうか。危なくなったら退いてください。あなた達も命まで賭ける必要性はないのですから」

「わかってますよ! いくぜ! 野郎ども」

「私は女だけどね! ライトニングボルト!」


 リーゼは雷の魔法を放った。


「……ぬっ! ぐううううううううっ!」


 雷が元国王を貫く。


「はあああああああああああああああああああああああああああ!」


 ゼネガルは元国王を貫いた。


「ぐっ、ぐほっ!」


 剣が心臓を貫く。口から血を吐いた。



「へっ。なんだっ! 案外脆いじゃねぇか!」

「ゼネガル! 油断しないで!」


 瞬間、ゾクリとするような負のオーラを感じた。魔の力が室内に満ちていく。


「どいつもこいつもわしを馬鹿にしおって! この虫ケラがあああああああああああああああああああああああああ!」


 元国王は人の形を完全に失った。それは化け物だった。原型をとどめていない。巨人族のような大きな身体。しかしその身はグロテスクな化け物のようだった。

 強いて言うならばゾンビなどのアンデッドに近い。完全なる魔物となっていた。


「殺してやる! 人間ども! あの憎き錬金術師め! わしの判断は間違ってなかった! 貴様のような無能、わし自らの手で葬りさってやろう!」

「くそっ! この化け物! やっぱり本性を現したか」

「四聖竜の皆さん、おさがりください。これからは私達が相手をします」

「けどエルクさん、俺達も」

「あまり厳しい事を言いたくないですが、善意が必ずしも戦局に利するとは限りません。自分達が何かをしたいという気持ちを持つのは当然の事かもしれません。ですが何もしない事が最善の場合も往々にしてよくある事なんです」

「へへっ……そうだな。俺達は足手まといって事だな」

「悔しいけどそのようね。邪魔になるくらいなら、遠くで観させて貰うわ」

 

 四聖竜の面々は引いた。


「とはいえ、私達も役には立てそうにないんです」

「私もそうです」

「リーシアさんは回復魔法とか使えるからいいんです。私の攻撃は通用しそうにないから猶更意味がないんです」

「見ているだけというのもつらいですよね」

「ええ。だから強くならないといけないんです。言葉だけでは世界は変えられない。救えないんです」

「さて、ではイシスさん、行きますか」

「はい! 先生!」


 二人は元国王へと向かう。今は魔物の王だから、魔物王としておくか。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ! くらえ! ポイズンブレス!」


 いきなり放ってきたのは不意打ちの毒霧だった。


「きゃっ!」


 イシスは毒霧をまともに食らう。ステータスが毒状態になった。段々とHPが減っていくのだ。


「イシスさん、これを」


 エルクは毒消し薬を渡す。


「ありがとうございます。先生」

「グッハッハッハッハッハ! そんな間を与えるか! 食らえ! わしが魔王より授かりし力! サモンクリーチャー!」


 続いて魔物王は手下となる魔物を呼び出した。道中倒してきたような魔物である。


「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」」


 魔物達が一斉に襲い掛かってくる。エルクとイシスが魔物に飲み込まれていった。


「「先生!」」

「グッハッハッハッハッハッハッハ! 見たか! 魔王より力を授かったわしの力を! グッハッハッハッハッハッハッハ!」


 魔物王の哄笑が響く。しかし瞬間、光が放たれた。


「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」


 魔物達はその眩いまでの光により、一瞬で消失していった。


「なんだと! なぜじゃ! なぜそうなる!」


 エルクは一振りの剣を持っていた。眩いまでの光を放つ剣。


「貴様! それは聖剣ではないか! 我々の王国に代々伝わってきた聖剣!」

「ええ。聖剣です。ですが王国に伝わっていた聖剣は本物ではありませんでした。偽物を掴まされたか、あるいは長い歴史の中で偽物にすり替えられたのでしょう。

学のないあなたに最後にこの剣について詳しく教えてあげるとしましょうか」


 エルクは剣を構える。


「この剣の名は『聖剣エクスカリバー』2000年前にいたとされるアーサー王の所持していた剣です。そのランクは『EX』伝説の武器の中のひとつとして数えられます。そして伝説の武器には大抵、特別な効果が秘められているものです。この聖剣エクスカリバーの効果は」


 エルクカリバーから放たれる圧倒的なまでの聖なる光は天高く昇って行った。


「『闇属性に対する特効効果』があります。魔物や魔人など、闇の存在に取り分けよく効くんですよ。この剣は」

「くそっ! バカなっ! 一介の錬金術師に本物の聖剣が作れるはずがない! 偽物だ! それはでたらめだっ!」

「そう思いたいたらそう思っていればいいです。思い込みを抱いたまま消えなさい。国王!」

「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! バカなあああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 元国王現魔物王は断末魔のような悲鳴をあげた。降り注がれる聖なる光により、消滅していったのである。


「やった! 先生!」

「やりました! 先生!」

「すげぇ。エルクさん、あの化け物を一撃で」

「すごいわ……まさか、一撃でだなんて」


 その時だった。地震のような揺れがした。


「うわっ! なんですかっ!」

「恐らくは大本となる存在を絶った事で存在を維持できなくなったのでしょう。この国はもはや魔に犯されてしまっていましたから」


 城が崩れ落ちる。


「きゃっ! 先生」


 足元を崩したリーネがエルクに抱き着く。城が崩壊していった。

 リーネは意識を失っていった。


「リーネさん 起きてください、起きてください」

「先生……ここは天国ですか?」

「違いますよ。普通に現世です」

「……でも、どうして」

「先生がアイテムで私達を助けてくれたの。転移結晶っていう移動用のアイテムらしくて」

「……そうだったんですか。ありがとうございます先生! 大好きです」


 リーネが抱き着いてきた。


「事あるごとに抱き着かないでください。私の理性だって限界があるんですよ」

「早くその限界を迎えてくださいーーーーーー!」

「痛いです! 胸! アーマーですから! 柔らかくもなんともないです!」


 リーネは剣士職であり、胸には軽量のアーマーが仕込まれている。だから抱き着いてきてもご褒美にはならないのだ。


「あっ、そうだった! じゃあ、先生。むちゅーーーーーーーーーーーー!」


 リーネは唇を突き出す。


「なんですか? それは」

「生還した事を祝って、喜びのキッスです」

「はぁ……」


 リーネは瞼を閉じた。唇が迫ってくる。 


「むちゅーーーーーーーーー! 先生の唇、随分と堅いですね。なんか本のよう! っていうか! これは本じゃないですか!」


 エルクは持っていたスキルブックでリーネの唇を防いだ。


「大人をからかうのもいい加減にしてください」

「エルクさん、助かったぜ! まさか俺達までアイテムで助けてくれるなんてな」

「ええ。ありがとう! エルクさん!」

「ありがとうございます!」

「ありがとう! エルクさん!」


 四聖竜の面々もそう礼を言ってきた。


「礼には及びません。あそこであなた達に死なれたら後味が悪いじゃないですか」

「いや、礼を言わないわけにもいかねぇよ。エルクさんは俺達の恩人だからな」

「本当よ。あなたがいなければどうなっていたか。あの魔物も倒せなかっただろうし」

「……さてと、じゃあ私達も行きますか」

「これからどうするんですか? エルクさん」

「王国アーガスに巣くっていた魔物は討伐できました。ですが事態は何も解決していない」


 まだ魔王の四天王は四人が健在である。そして残る魔王の宝玉は二つ。その進行を防がなければならない。もしかしたら防ぎ切る事はできないかもしれない。

 魔王は大分力を取り戻しつつある。今後目の前に完全な状態で現れる事もあるかもしれない。

 2000年前世界を恐怖のどん底に突き落とした魔王。

 だからそうなったとしても倒せるだけの強さが必要だった。エルクはリーネとリーシアに目をやる。

 この子たちが鍵だった。強くなってもらわねば困る。いずれ来るであろう闘いに勝利する為に。

 だが今は、少しばかり自分達に褒美をあげてもいい事だろう。勝利を祝いハメを外しても、一時であるならば許されるはずだ。


「どこかおいしいところで食事でもしましょうか。勝利を祝って」

「やったーーーーーーーー! どこに行きますか?」

「どこに行きましょう。何を食べたいですか? リーネさん」

「お子様ランチです!」

「リーネ、流石にその年でお子様ランチはちょっと」

「えええーーーーーーーーっ! お子様ランチって、おいしくて、侮れないんですよっ!」

「けどリーネらしいかも」


 一時の休息を経て、四人はまた冒険の旅を続けるのであった。四人の冒険はこれからもまだまだ続きそうであった。

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