口だけのナルシストを一瞬で倒し婚約者として認められる

「改めて自己紹介をしよう! 僕の名はヴァン・ハウゼル。魔道の名門ハウゼル家の嫡男にして魔法の天才。そしてご覧の通り、超絶ハンサムだ」


 キラリとヴァンの歯が光る。


「君の名も聞いておこうか! 僕の記憶の一ページ、その隅っこの方にでも記録しておいてやろう」

「私の名はエルク。エルク・バンディッド。しがない錬金術師です」

「そうか。では名もなき錬金術師よ。我が至高の魔法によりその身を焼かれるがよい! ああっ! 美しい僕の超高度な魔法で!」

「いちいち口数の多い男ですね。珍しく喋っていてむかつきを覚えますよ」

「全くです。温厚な先生がそう言うなんてよっぽどですよね」

「私もなんか苦手です」

「ふっ。淑女(レディ)達よ。僕の魔法の実力を見ればその評価は一変するよ。まずはこいつだ。基本にして王道。王道にして至高の魔法。炎系魔法。そして現代魔法でも最強と目されている最強火力の魔法! 僕のとっておきの切り札さ。この煉獄の炎が名もなき錬金術師、確かエルク君だったか、まあいい。エルク君! 君の身を燃やし尽くすよ!」

「呪文の詠唱でもないのに随分と喋りますね」

「さあ! 行くよ! 美しい僕の天才的な魔法を! 炎系最上級魔法煉獄炎(ヘルフレイム)!はあああああああああああああああああ! はああああああああああああああああああああ!」

「先生!」

 

 ヴァンは魔法を放った。煉獄炎(ヘルフレイム)。現代魔法では最強と目されている炎系魔法だ。ヴァンは凄まじい火炎を放つ。


「ああっ! 決まった! 決まってしまった! 美しい僕の最強炎! 美しい炎が名もなき錬金術師の身を焼いていく。すまない、名もなき錬金術師。既にその名も忘れてしまったよ」

「いちいち口数の多い男ですね。全く」

「なっ!?」


 エルクは盾のようなもので防いだ。白い神聖な力を感じる盾だ。盾で守るというよりもそれより前に見えない光の壁が出現し、炎を防いでいった。


「……なんだ。それは。き、聞いてないぞ。なぜ、僕の煉獄炎(ヘルフレイム)を防げるんだ!」

「これはアイギスの盾といい、魔法に対する完全耐性を持っているんです」

「ア、アイギスの盾だと! なぜそんなものが! 伝説とすら言って良い一品だぞ! ランクはSどころではない。EXの超レア装備だ。なぜ貴様がそんなもを持っている!」

「簡単です。創ったんです」

「創っただと! こんな一瞬で! くそっ! 聞いていないぞこんなの!」

「……まだやりますか? こちらとしては降参する事をおすすめしますが」

「ふふっ。僕を魔法だけの男だと思うかい? 魔法使いが魔法を封じられたらただの雑魚だと! モンスターの中には魔法への強い耐性を持ったものも存在する! そういう相手の為に僕は日々格闘術の鍛錬も怠ってはいなかったんだ! たああああああああああああああああああ! 名もなき錬金術師! 僕の素晴らしい格闘術の前にひれ伏すがいい!」

「はぁ、懲りない人ですね」


 溜息を吐くエルク。エルクはスキルブックを開く。スキルをインストールする。スキル『格闘王』。モンク(格闘家)を極めし者が辿り着く最上のスキルだ。


「ぐはっ! な、なんだとっ!」


 襲いかかるヴァンの鳩尾にカウンターの膝が入る。


「か、格闘術でも僕が敵わないのか! くっ! まさかこの僕が無様に崩れ落ちるなんて! ぐはぁっ!」


 ばたっ。ヴァンは倒れた。ピクりとも動かなくなる。気絶したようだ。


「まったく、口ほどにもありませんね」

「せ、先生!」

「先生! やりました! 流石私の! 私達の先生です!」

「先生!」

「なんと! あのヴァン殿がこうも一瞬で。一体、エルク殿。あなた様は一体何ものなのですか」

「しがない錬金術師。そしてこの娘達の元教師、今は一緒に冒険をする仲間です」

「……仲間」

「エルク殿!」

「え?」


 涙ながらにイシスの父ベルクはエルクの手を握ってきた。


「む、娘を、娘をよろしくお願いしますぞ」


 そうだったのだ。イシスはエルクが婚約者であると騙った。ベルクはそれを信じているのだ。


「あなたのような素晴らしい方なら安心して娘を任せられます。イプシウス家の家督もあなたなら安心して譲る事ができます。私の目は腐っていた。危うくあのような魔道の名門に生まれたというだけで自惚れていた青二才に娘をくれてやるところでした。是非うちの娘とよろしくしてやってください」

「な! 何を言っているんですか! 先生は私と結婚するんです! イシスさんとはーーんっ! んぐっ!」

「少し黙っていなさい」


 エルクはリーネの口に喋れないように拘束具をはめる。


「んっ! んぐっーーーーーーーーーーー!」 

「お父様。家督を大事にされるあなた様のお気持ちはよくわかります。立場故そうとしか言えない事もあるでしょう。ですがあなたの娘さんは人形ではなく人間です。彼女の意思も少しは尊重してやってはくれませんか?」

「それは、そうかもしれん」

「お父様! 私はまだこの人達と冒険者をしていたい。冒険をしていたいの。どうか私の我が儘を許して」

「うむ……そうだな。よし。ゆくゆくはエルク殿と夫婦となると約束するならばしばらく許そう。どうだ? それで問題はないだろう?」

「うん。約束する」


 ベルクは笑う。イシスも笑った。


「んんーーーーっ! んんんーーーーーーーーーーーーっ! んんんーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 拘束具をハメられたリーネは何か言いたそうであった。


「ごめんなさい。先生。成り行き上とはいえあんな事をさせちゃって」

「いえ気にしていません。これも仲間の為です」

「私は魔道士として魔法を探求したい。その気持ちが今は強いんです。けど先生とならいつか。然るべき時がきたら」


 イシスは魔道士である。しかしその前にやはり女だ。女としては好きな人と一緒になりたいという気持ちは当然のようにあった。あんなキザ野郎ではなく、もっと身近にいる素敵な人。リーネのように感情を素直に表現する事はできないが。それでもイシスも抑えられない気持ちを抱えていた。 


「私を貰ってくれたら嬉しいです」


 イシスは顔を真っ赤にする。


「え? 今なんと。上手く聞き取れませんでした」

「な、何でもありません!」

「あっ! 今なんかすっごい聞き捨てならない事を言っていた気がします!」

「だからリーネ! 何でもないと言いました!」

「話は変わりますがイシスさん、その持っている本はなんですか?」

「え? あ、はい」


 イシスは古びた一冊の本を手に持っていた。


「別れる前に父がくれたんです。何でも我が家に伝わる秘宝である魔導書らしいです」

「魔導書ですか」

「はい」

「詳しくはもう少し落ち着いてから見ましょうか」

「はい。わかりました。皆、今日はどうもありがとうございます。私のせいで無駄なお手間をおかけしてしまって」

「何を言っているのですか。仲間のピンチを助けるのも仲間の役目です」

「先生……」

「では行きましょうか。私達は他にやるべき事があります」

「「「はい」」」

 

 三人は次の目的を果たすべく歩き始めた。

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