望んでいない結婚相手との一騎打ち

「てやあああああああああああああああああ!」

「ゴブ! ゴブーーーーーーーーーーーーー!」


 リーネは剣でゴブリンを攻撃した。ゴブリンは即死した。


「やりました!」

「……皆さん、お疲れ様でした。んっ?」


 平野でゴブリン討伐をしていた時の事だった。

 何やら遠方から馬車が近づいてきている。一人の少年が降りてきた。美少年だ。執事のような恰好をしている。


「お嬢様。お迎えにあがりました」

「誰ですか?」

「シオン……」

「え? イシスさんのお知り合いですか?」

「冒険者になるなどというお戯れはおよしください。あなたは魔道の名門の家系。家督を継ぐという使命があるのですよ」

「うるさい。シオン。私の勝手」

「お戻りください。父上であるベルク様からの命令です。もうすぐ婚約者との顔合わせが行われます」

「婚約者? イシスさん、結婚するんですか! 先生!」

「なんですか!?」

「イシスさんに負けじと私達も結婚するしかありません!」

「時々あなたの頭の中を覗き込んでみたい気分になりますよ」


 エルクはため息を吐いた。 


「褒められちゃいました」

「褒めてないと思う」


 リーシアは突っ込んだ。

 

「結婚なんて、私したいと思ってない!」

「ですがお嬢様。イプシウス家にとって家督を継がれているお父様の命令は絶対です。従って貰わねば困ります」

「そんな事知らない!」

「あ相手の家系も魔道の名門でございます! 顔合わせせずに袖にされれば家問に泥を塗られる事となります! お父様とお母様も大変な迷惑を被る事となるんですよ」

「……でも」


 イシスはちらりと仲間を見やる。どうすればいいのか悩んでいるようだ。自分が抜ければクエストの消化は手間取る事となる。

「いいでしょう。私達も一緒に行きましょう」

「え? でも先生、いいんですか?」

「仲間が困っているのです。それくらい構いませよ」

「ありがとうございます」


 あまり笑わないイシスは笑みを浮かべた。


「シオン、この方達も連れていきますが、構いませんね」

「え、ええ。構わないと思います。お父様もイシス様だけを連れてこいとはおっしゃってはいませんでしたから」


 こうして四人はイプシウス家まで同行する事となる。


 イシスの実家に着いた。豪華な屋敷だった。使用人がいるのだから当然ともいえた。その大広間に男性がいた。イシスの父親であろう。厳格そうな父親だった。


「久しいな、イシスよ。冒険者としての活動、父として心配ではあったが、お前の見聞を広めるという観点において決して無駄ではなかったと思うぞ」

「ありがとうございます。これもお父様のおかげです」

「そちらの方々は?」

「冒険者としての仲間です」

「おお。イシスの仲間ですか。これは娘がお世話になっております。今までお世話になりました」

「お世話になりました?」

「ええ。娘は魔道の名門の家系です。良い嫁ぎ先に嫁いで貰わねばなりません。ですので冒険者をこれ以上は続けられないのです」

「お父様! 私まだ結婚するつもりない! 魔導士として魔法を探究したいの!」

「それは男のやるべき勤めだ! 女のお前は嫁いでいればよい!」

「くっ……お父様に何を言っても無駄ね」

「もうすぐお前の婚約者が来る。もっとちゃんとした格好をしてこい。それから顔合わせをする事となる。客室なら沢山空いている。シオン、お客様を案内しろ」

「了解しました」


 シオンに案内をされる。


 それから顔合わせの為にイシスはドレスに着替えさせられた。青色の綺麗なドレス。エルク達は窓からその様子を覗き見ていた。


「覗き見はあまり趣味がいいとはいえません」

「でも先生! 気になるじゃないですか」

「まあ、否定はできませんが」


「こちらはお相手の婚約者。魔道の名家ハウゼル家のご子息。ヴァン・ハウゼル様です」


 対面の席に座っているのは金髪をしたイケメン風の男だ。ただ明らかにナルシストっぽい。


「はじめまして。ヴァンです。なんとお美しい! 魔道の名家の嫡男にしてハンサム! そして魔法の天才である僕に実に相応しい! これ以上ないという相手だ。あなたのような美しく、そして優秀な女性を妻として娶る事ができ、僕は大変幸運に思いますよ」

「…………」


 イシスは押し黙っていた。


「……どうしたのですか? イシス嬢。いえ! 僕の未来の花嫁よ! どこか体調が悪いのですか? ははん、僕の魅力の凄まじさに気恥ずかしくなったのですね。無理もありません! だって僕は超絶ハンサムなのですから! はっはっはっはっは!」

「私! あなたと結婚はしません!」

「ふぁい? ……なぜですか。僕のようにハンサムにして魔法の天才はこの世に一人として存在しないのですよ? この僕を除いては!」

「な! 何を言っているのだ! イシス!」


 父である――ベルクは慌てた。予期せぬ娘の行動に面を食らう。


「私、実はもう他に婚約している人がいるんです」

「こ、婚約? この僕以外とですか? オーノー! この僕よりハンサムで優秀な魔法の天才などこの世にいないというのに! 一体なぜそんな愚行を!」

「愚行ではありません。その方はあなたよりも優秀で素敵な方なんです!」

「ほう。誰ですか、それは」

「今日、一緒に連れてきた男性、エルクさんです」


「な、なにを言ってるんですか! せ、先生は私と結婚するのに! いつイシスさんと結婚する事になったんですか!」

「落ち着きなさい」

「んっ!ぐうっ!」


 エルクはリーネの口を塞ぐ。


「ほう? 僕より優秀ですと? いいでしょう! この僕よりも優秀な相手だというなら、大人しく身を引きましょうぞ! ですが僕が勝ったのなら、大人しく僕の妻になる事を約束しなさい。いいですね?」

「いいでしょう。その条件、お飲みします」


 イシスは答えた。



「ごめんなさい。先生。嘘をついてしまって」

「ええ。いいです。あの場はああいうしかなかったのでしょう。そうしなければあなたは不本意な結婚をしなければならなくなった。その為の方便だという事は理解しております」

「君が僕の婚約者を寝取ろうとしている不届き者か」


 ヴァンが姿を現す。


「ええ。そうです」

「身の程を知るが良い。僕よりも優秀な男が存在しない事をその身に刻みこんでやる」

「私も井の中の蛙だと思っていましたが、世の中には上には上がいるようですね」

「なんだと! この魔道の天才にしてハンサム! ヴァン・ハウゼルに対してなんだその口の利き方は!」

「もう少し広い場所に移動しましょうか。屋敷を壊して迷惑をかけそうです」

「そうだな。そうしよう」

 

 二人は移動をしていく、だだ広い平原に。こうしてイシスをかけた、もっともエルクはそうではないが、闘いが繰り広げられようとしていた。

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