迷宮都市最強戦士との決闘

 迷宮都市ラピスラズリの冒険者ギルドに戻ってきた事だった。


「……信じられねぇぜ。あのベヒーモスを一撃でなんて」

「信じる信じないはそっち次第だ」

「なにやら騒がしいですね」


 騒がしかった。以前ダンジョンクエストに同行して貰ったSランク冒険者、ダンジョンマスターの異名を持つ男、ラカンと数名の冒険者達が会話をしていた。


「それも錬金術師が。眉唾物だわ」

「……きたきた。あいつだ。あの男だ」

「私がどうかしたのですか?」


 エルクはぽかんとした様子で聞く。


「あなた、ベヒーモスを倒したそうね」

「そもそも、あなた達は誰ですか? いきなりなんです?」

「私達を知らない? 私達はこの迷宮都市で最強と言われるSランク冒険者パーティー『四聖竜』よ」


 魔法使い風の女が言う。明らかに高位の魔法使いといった風格だ。年齢は20代といったところだが、艶のある美女だった。


「……はぁ」


 明らかに名前負けしてると思った。強そうなパーティー名だった。


「あなた達はなんて名前の冒険者パーティーなの?」

「最近Eランクの冒険者パーティーに昇格したばかりの、ラブリーラビットです!」

「ラブリーラビット?」

「はい! ラブリーラビットです!」

「なに? そのパーティー名? 舐めてるの?」


 女は微笑を浮かべる。


「舐めてません。うさぎさんはとっても可愛いラブリーな生き物なんです!」

「そう。それはよかったわね」

「あっ、この人もう私を頭がおかしい子だと思って、相手をしたくないと思いました!」

「よくわかったじゃない。その通りよ」

「それより、嘘だろう? ベヒーモスを一撃で倒したとか。早く名を売りたいからとんでもないオオボラを吹いて、それをラカンが真に受けた。そんなところだろう?」


 男も微笑を浮かべる。黒い鎧に身を纏った男だ。あれは黒竜の鎧と言い、限られた素材からしか作られないSランク相当の鎧である。Sランクのモンスターとして恐れられているドラゴンの素材を使用している。その為強度は恐ろしく高いが、入手難易度も恐ろしく高い。


「その問いに何の意味があるのですか。あなた達は嘘だろうという前提で話をしています。私達が本当に倒しましたと言って、それを信じますか?」

「まあ、信じないだろうな。よくわかってるじゃないか」

「それより、何か私達に用ですか?」

「名乗り遅れたな。俺の名はゼネガル。セネガル・ロードメリア。戦士をやっている。自分で言うのもなんだが、この迷宮都市で最強の戦士と言われている冒険者だ」

「そうですか。私はエルクと申します。しがない錬金術師で、ずっと引き籠もっていた為世情には疎いのです。その為あなた達の事も存じ上げませんでした」

「……そうか。どおりで。他の三人の女も新米(ルーキー)なんだろう? 雰囲気が新米(ルーキー)って感じを醸し出しているぜ」

「そうです。この方達は私が冒険者学校で教えていた教え子達です。つい最近卒業したばかりの駆け出しです」

「そうか。あんたは先生だったのか」

「臨時ですが教師であったという事に関しては本当の事です」

「だったら学校の先生が生徒に嘘を教えちゃいけないだろ? 生徒の前で恰好をつけたかったのか? 高々錬金術師がベヒーモスを倒せるわけないだろ」

「くすくす……だめよ。図星をついたら。可哀想よ」

「な! 何を言ってるんですか! あなた達は! 先生の凄さも知らないで! 失礼にも程があります!」

「……リーネ怒りすぎ。でも気持ちはわかる。Sランクかなんだか知らないけど、この人達は人を見下しすぎ」

「人を馬鹿にするのもいい加減にしてください!」

「人を嘘つき呼ばわりして挑発するのもいい加減にしてください。自制心がある方とは自負しておりますが、私にも限界があるんですよ」

「なんだ? 怒ったのか。錬金術師。だったら見せてみろよ。ベヒーモスを倒したっていうその実力を」

「何をするつもりですか?」

「決まってるだろ。俺と戦うんだよ、錬金術師の先生」

「戦う?」

「ギルドを出てからしばらく行ったところに闘技場(コロセウム)がある。そこで俺と決闘(デュエル)をしようぜ」

「決闘(デュエル)ですか」

「どうだ? 逃げるっていうならベヒーモスを倒したのはただの嘘だと認めるんだな。そうすれば逃がしてやる」

「いいでしょう。その決闘(デュエル)お受けします」

「へっ。いいぜ。そうこなくっちゃな」

「ただし、ひとつだけお願いがあります」

「なんだ? 手加減してくれって事か」

「いえ。逆です。死んでも私を恨まないでください」


 その時のエルクの眼光は鋭く、一瞬の事ではあるがSランクの冒険者であるゼネガルは気圧されていた。


「ず、随分と吹くじゃねぇか。そうこなくっちゃ面白くねぇ」


 ゼネガルは言い放つ。


「さっさと行きましょうか。私達もそれほど暇をしているわけではないのです」

「そうだな。さっさと行って白黒付けるか」


 一同は闘技場(コロセウム)に向かった。

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