国王戻ってこいと懇願するが断られる

「……ところで聞いてもよろしいでしょうか?」


「は、はい。何でしょうか?」


「あなた達が冒険者になった目的ですよ。それぞれ違う事でしょう?」


「は、はい。私の目的はお父様のような立派な冒険者になる事です」

「……抽象的ですね。それでは私の方で手助けできませんよ」

「そうですね。だったらとりあえずはSランクの冒険者になりたいです」

「そうですね。それでしたら」

「私は古代魔法を研究する為にそれに関する魔導書が欲しいです」イシスは答える。

「私は……」


 リーシアは言葉を上手く発せれない様子だった。


「どうかしたのですか? 何か問題でもありましたか?」

「い、いえ。何でもありません。わ、私の目的はより高位な回復魔法を覚えて、妹の病気を治す事です」

「より高位な回復魔法ですか」

「そ、そうです。妹は重病を抱えていて、普通の回復魔法で癒せないんです。それで私、妹を治してあげたいのです」

「……そうですか。それは立派な心掛けですね。ひとつ聞いてもいいでしょうか?」

「は、はい。なんでしょうか?」

「妹さんを治すのはあなたでなければならないのですか? それとも妹さんが治ればそれでリーシアさんは満足なのでしょうか?」

「そ、それは勿論、妹が治ればそれでいいです。誰が治しても妹が幸せになるのですから同じです」

「だったら冒険の目的地をとりあえずはそこに変えましょう。私でよろしければ力になれるかもしれません」

「……え? け、けど。先生の手を煩わせるわけには」

「よろしいでしょうか? お二人は。とりあえず、リーシアさんの目的を達成しに行っても」

「はい。問題ありません」

「意義なし」

「だそうです。とりあえずはリーシアさんの妹様のところへ行きましょうか」

「み、皆さん、本当によろしいのでしょうか?」

「問題ありません! だって私達は同じ冒険者学校を卒業した、仲間じゃないですか」

「ありがとうございます! 皆さん!」


 リーシアは涙を流した。


「……ん?」

「どうしましたか、先生」

「どうやら何者かが私達を見ているようですね」


 エルクは答えた。


 一方その頃、エルクを見つけたのは王国の捜索部隊であった。


「い、いたぞ! 間違いない、あのエルクだ」

「国王陛下に報告だ。マジックアイテムで連絡しろ!」

「わ、わかった!」


 エルクを見つけた捜索部隊はあわただしく国王に連絡した。


「引き続き見失なわないように尾行を続けるんだ」

「あ、ああ」


 王国の部隊はそう言った。



 それから数日後の事だった。エルク達はリーシアの実家へと向かう。その道中だった。馬車がエルク達の方へ向かってきた。


「……あれは王国の馬車」


 馬車から国王、及び統括大臣が降りてくる。


「国王陛下ではないですか。それに統括大臣」


 エルクは神妙な表情になる。


「王様ですか。それに大臣さんまで、一体、何の用でしょうか?」

「国王陛下、わかっているのですか。あくまでも下手に出てですね」

「わ、わかっておるわ! こほんっ!」

 

 国王は咳払いをした。


「どうしたのですか。国王陛下。今更私の何の用です」

「エルク殿。どうか我が王国アーガスに戻ってきてはくれぬか? 給金は今までの10倍程出す! この通りだ!」


 国王は頭を下げた。


「……先生」


 リーネは心配そうな顔をする。


「いかがされたのですか? あれほど錬金術に無頓着ではなかったですか? 何かあったのでしょう?」

「実は王国に疫病が流行ってな。それだけではない。色々な者がエルク殿のアイテムを求めていてな。今更ながらエルク殿が王国に必要不可欠な存在だとわかったのじゃ」

「そうですか」

「だからこの通り、王国の錬金術師に戻ってくれ! この通りだ!」


 国王は頭を下げる。


「残念ながら国王のお願いは聞けません」

「な、なんじゃと! わしが頭を下げて頼んでいるのだぞ! その頼みを聞けないというのか!」

「こ、国王! そんな高圧的な態度を取ってはなりませぬ!」

「ぐ、ぐぬぬ。そうだったな。すまない、取り乱した。なぜ王国に戻ってくれぬのだ? 待遇は改善する。もうエルク殿をわしは馬鹿にしたりせぬ。それでも戻ってはくれぬのか?」

「私は見ての通り一介の冒険者となりました。そして一緒に冒険を共にしたい仲間もいるのです。今更王国に戻る事などできません。零れたコップの水は元には戻らないんですよ」

「ぐ、ぐぬぬっ! ぐっ! そうかっ。今日のところは一旦引き下がろう」

「ええ。何度来ても同じ事ですが」


 国王たちは馬車に乗り引き下がっていった。


「いいんですか? 先生。王国に戻らなくても」

「途方に暮れていた私に夢を与えてくれたのはあなた達です。あなた達を裏切る事など私にはできません」

「やっぱり先生です! 大好きです!」


 リーネが抱き着いてきた。


「ちょ、ちょっとやめなさい。誰か見ているかもしれないのに」

「ずるいリーネ。私も先生に抱き着きたい!」

「わ、私もです」

「は、離しなさい。三人に抱き着かれたら少々息苦しいです」


 羨ましい状況ではあるがエルクは悲鳴をあげた。

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