第5話 錬金術師ベヒーモスを瞬殺する


 地下迷宮(ダンジョン)の地下第一層での出来事だった。

 薄暗いダンジョンの中。最初のモンスターが現れる。

 そのモンスターは何とスライムだった。可愛らしデフォルメチックなモンスターだった。


「すらー! すらー!」


 スライムは謎の奇声を放ち威嚇をするが怖さがゼロだった。


「可愛いです。ペットにしたいです」

「油断しちゃだめよ。リーネ」

「わかってます。てやっ!」


 リーネは持っている剣で攻撃をした。


「すらーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 スライムは可愛らしい断末魔をあげて絶命した。

「今のはスライムのLVは1だ。こいつに勝てないようでは冒険者としてスタートラインにも立てない」


 ラカンはそう言った。何となく、この時ラカンを除く四人は弛緩していたのかもしれない。今回のダンジョンクエストは普通のクエストだと思っていた。だが、第二階層へ降り立った時に予想を裏切る展開となった。

 第二階層に降り立った時に感じたのは死臭だった。そして血の匂いだ。


「妙だな……第二階層でこんな匂いを嗅ぐ事になるとは」


 ラカンは顔を顰めた。


「何かあったんですか?」

「匂いがするんだ。第六感ってやつだ。熟練の冒険者が感じる、独特のカンってやつだ」

 

 ラカンはそう伝える。慎重に五人は進む、その時、そのラカンの予感が的中していた事を感じる。

 そこには死肉を喰らう、一匹の獣がいた。牛とライオンを掛け合わせたような化け物。化け物が喰らっていたのは人間の肉だった。先ほどまで探索していたであろう、冒険者の肉だ。 グルルルルル! といううなり声から。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 猛烈な叫び声がダンジョン内に響いた。


「こ、こいつは! ……ベヒーモス!」


 ラカンは叫ぶ。


「なんですか。そのベヒーモスって?」


 リーネは呑気に聞く。先ほどスライムを倒した時の気分が抜けていなかった。

 

「ダンジョンの最下層じゃないと現れない強力なモンスターだ! モンスターのランクはSランク! Sランクの冒険者パーティーでないと太刀打ちできない、このダンジョンの主と言って良い化け物だ!」


 ラカンは叫ぶ。そして背負っていた双剣を抜いた。これはイレギュラークエストだった。

通常起こりえないモンスターとの遭遇。だがそれもまた冒険では稀にある事だった。

 初心者パーティーが強敵と遭遇する事も実際にあり得たのだ。


「に、逃げろ! 俺が時間を稼ぐ!」


 しかし、エルクは逃げなかった。それどころか、ラカンよりも前線に立つ。


「……おい! お前! 聞いていなかったのか! 俺が時間を稼ぐから逃げろって!」

「逃げませんよ。だって私達が逃げたらあなたは死んじゃうでしょう。命を捨てて仲間を逃がすのは恰好が良いかもしれないですが、そんな事したらあなたの人生はこの場で終わってしまいます!」

「何を言っているんだ! このままパーティーが全滅しちまうよりは余程いいだろうが!」

「もっと良い方法がありますよ」

 

 エルクは言う。


「あのベヒーモスを倒して皆がこのダンジョンから生還する事です」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 叫び声と共に、ベヒーモスが襲いかかってきた。エルクは悠然とそれを避ける。


「な! なんだ! あいつはただの錬金術師じゃなかったのか!」


 ラカンは叫ぶ。


「ただのじゃありません」

「え?」

「先生は世界で一番、すっごい錬金術師なんですっ!」


 リーネは胸を張る。


「やれやれ。本当は教え子達の活躍を後ろから見ていたかったのですが、そうも言ってはいられないようですね」

 

 エルクはマジックアイテムである、スキルブックを開く。これはエルクが錬金術で錬成したマジックアイテムだ。効果はその戦闘に限り、必要なスキルを一個習得する事が出来る。

 習得するスキルは『剣聖』スキルだ。剣聖スキルを得たものは世界でも最強の剣の使い手となる事が出来る。


「よし。これでスキルの習得は完了」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 ベヒーモスが再度襲いかかってくる。


「危ない! そいつを喰らったら」


 ラカンは叫ぶ。エルクは錬成石を手に取る。通常時間と設備が必要な錬金術の過程を圧縮するマジックアイテムだ。繰り出されるのは超高速より錬金術。エルクが錬成したのは王国アーガスに伝わる聖剣エクスカリバーである。


「なっ!?」

 

 ラカンは目を丸くした。剣聖スキルを習得し、剣の達人となったエルクは易々、ベヒーモスの爪を受け止める。


「終わりです」


 そして、反す刃でベヒーモスの首をエルクは刎ねた。ゴロリとベヒーモスの首が転がる。

 ベヒーモスは絶命した。


「な、なんなんだ! あんたは!」


 ラカンは目を丸くした。


「だからさっき言ったじゃないですか! 先生は世界最高の錬金術師で、すっごい錬金術師なんですっ! えっへん!」


 リーネは胸を張った。


「リーネ、先生の手柄。リーネ何もやってない」


 そうイシスは苦言を呈する。ラカンは絶句した。Sランクパーティーでやっと対抗できるSランクのモンスターベヒーモスを一瞬で絶命させた錬金術師。

 そんな存在、聞いた事もなかった。


「……すまない。助かった。おかげで命を救われたよ。ありがとう。エルクさんだったか? あなたの事をただの錬金術師だと思っていて侮っていたよ。あんたみたいな凄い錬金術師見たことがない」

「そうですか。私は宮廷にずっと暮らしていましたから他の錬金術師がどうだったかはわかりませんが。ラカンさん、あなたの命が無事だった事で何よりだ」

「ベヒーモスを討伐した事を冒険者ギルドに報告しよう。今日のクエストはもう終わりだ。とりあえずはギルドに戻るとしよう」

「はい! お疲れ様でした!」


 リーネは言う。こうして五人は冒険者ギルドへと戻っていったのだ。


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