第37話 再開
食事を済ませた俺はラージプートとまた街で合おうと約束し、月の雫がある湖を後にする。
途中、亀の甲羅を放置したままの湖へ寄るか迷ったけどヨッシーのスピードが更にあがったことからスルーすることにした。
ギンロウの首に荷物を括りつけ、持ち運んでもらうことにしたからティアマトの鱗も多少は持って帰って来ることができたんだ。
ロッソはリュックの中、スイは俺の肩なのは変わらずである。
ファイアバードは大きくなったので、リュックの上という定位置だとちょっときつくなってしまった。
なので彼は俺たちを追うように空からついてきている。
そんなわけで、食欲が無くなるヨッシーの移動で入口の目印である小屋にまで到達したのだった。
ど、どんだけ飛ばしてきたんだよ……。
確か徒歩で亀のいた湖まで三日くらいかかったような記憶だ。ヨッシーの場合、悪路をものともしないのが大きい。
何しろ、崖だろうが何だろうが真っ直ぐ進んでいくからな。うっぷ。
よろよろと竈の前で突っ伏し、リュックを脇に置く。
ロッソがリュックから顔を出し、ぺしんと舌で俺の頬を叩いた。
『そろそろ食事の時間ダ』
「そ、そうね。みんな適当に食べて、煮炊きが必要ならここで」
『フルーツ』
ロッソが心配そうにお座りして俺に向け舌を出すギンロウの背に乗る。
どうやらギンロウにフルーツの在りかまで連れて行ってもらうつもりらしい。
まだリュックの中にフルーツが入っていたと思うのだけど。
「ブドウならまだあるぞ」
『リンゴがいイ』
「ギンロウ、頼まれてくれるか?」
「わおん」
そういや、この近くにリンゴがあったんだった。
こういうことだけはしっかり覚えているんだよな。ロッソ。
『兄貴。自分も何かとってきます!』
「肉も多少はあるぞ」
『うっす。キノコも食べたいなと』
「山菜か。分かるのか?」
『うっす』
あ、止める間もなく行ってしまった。
まあ、ヨッシーに食べられるものを持ってくるんだろ。人間用になるかは俺が判断すればいい。
エンは小屋の上で羽休めをしていて、スイは椅子になる丸太の上にまたがって遊んでいる。
「俺は俺で、ちょっと休憩しよう」
丸太の後ろにある草むらにぐでえと倒れ込み、仰向けになった。
今日もいい天気だ。でも、雲の流れが速い。ひょっとしたら天気が急変するかも。
だけど、ここには小屋がある。雨が降っても快適に過ごすことができるのだ。
屋根のある場所って本当に有難い。
「少し寝るか」
目を閉じると、すぐにウトウトしてくる。
しかし、ドタドタとした足音が複数こちらに近づいてくるのが聞こえてきた。
せっかくいい気持ちで寝ようとしていたのに。このまま寝てやろうかと思ったけど、足音の主がどんな人たちなのか確認するまで、寝るわけにはいかないか。
むくりと起き上がり、近づいてくる人影を見やる。
あ、お知り合いだった。余り会いたくない部類の、だけど。
「ノエルさんじゃない!」
「やあ」
俺の気持ちとは裏腹に魔法使いらしきローブをまとった女の子が笑顔を見せた。
彼女の名は確かテレーゼ。ギンロウを捨てたアルトたちのパーティにいた人物だ。
今はもう彼女らに対し、何か思うことは無い。フェイスの件でアルトも考え方を改めてくれた……んじゃないかって思っている。
彼は憎まれ口を叩いていたものの、ドラゴニュートに対しギンロウのような扱いをしないはず。彼とドラゴニュートの間に従属の権利書はもうないのだから。
しっかし、テレーゼのローブはよいのだけど、なんでこうもスカートが短いのだろう。異世界の冒険者は、一部の女子高校生のスカートのように丈が短い。
不思議に思って、ミリアムに聞いてみたことがあるんだ。
すると彼女は氷のような目線を俺に向け、何も語らなかった。彼女もまたスカートが短い。
顔まで覆うのはやりすぎな気もするけど、ラージプートのように全身くまなく覆う方が冒険向けはなず。
舗装された道を歩くわけじゃないし、草や枝、棘なんかが引っかかることもママある。
「ノエルさんが来るってことは、悪くない依頼だったのかも」
「テレーゼたちはストライカーだったよな。何か討伐に?」
「ううん。今回は『調査』よ」
「そうなんだ」
あの血気盛んで猪突猛進なパーティだと思われていたテレーゼが所属するアルトパーティ。
フェイスの時とか、遭遇するモンスターは全て倒していた記憶だ。
それにしても、テレーゼはこんな柔らかな顔もするんだな。最初に会った時には思いもしなかった。
「どう?」
「どうって。縞々とはまた」
「ちょ! そっちじゃなくて。依頼書よ。依頼書」
「そっちか」
寝そべっていて顔をあげていただけの俺に無警戒にも近寄ってくるものだから、見ろとでも言っているものだとばかり。
遠慮せず見たわけだが……。彼女は慌てて両手でスカートを押さえる。
すると、掴んでいた依頼書がヒラヒラと宙を舞い。
そいつを掴もうと俺の顔をまたぐものだから。
「ワザとかワザとやってんのか」
「ち、違うわよ! やっぱりあなた、私の体を」
「違うわ! 相手をするならアルトの相手をすればいいだろ」
「……ありがと」
ようやく依頼書を拾って適切な距離を取ったテレーゼであったが、唐突にお礼を言われてしまった。
自分で言ってて恥ずかしいのか、ツンと顎をあげ目線を逸らす。心なしか頬も赤いような気がする。
「お礼を言われるようなことをしていないんだけど……」
「アルトのこと。彼ね。あれから口では相変わらずなんだけど、少し変わったような気がするの」
「ドラゴニュートのことで?」
「うん。今回の依頼は『ついで』なのよ。湖の主であるグランドタートルの調査が依頼なんだけど、その湖の水は鱗の調子を整える効果があるって」
「はは。アルトのことだ。言い方は逆なんだろ」
「その通りよ。あはは」
素直じゃないんだから。
でも、その話を聞いて安心した。アルトも獣魔を大切にするテイマーになろうとしているんだな。
「ミリアム。こんなところで油を売って、一体誰と……お前か」
「よお。アルト。ドラゴニュートの調子はどうだ?」
噂をすれば何とやらってやつか。
今度はアルトが姿を現した。
「アレキサンドライトは好調だ。あいつは俺に追いつくべく努力を怠っていない」
「名前を付けたんだな。いいことだ」
「……ッチ。テレーゼ。炊事の準備をするぞ」
「はあい」
テレーゼは俺に向け、片目をつぶりいたずらっぽくぺろっと舌を出す。
彼らは彼らでうまくやっているんだなあ。
俺はソロだから、団体行動に慣れていない。だけど、ああいう姿を見ていると、パーティもいいなあって思う。
『パネエッス!』
「わおん」
ヨッシーとギンロウの声が耳に届く。
お、もう帰ってきたのか。
そんじゃま、俺もそろそろ動くとするか。
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