第34話 どんな時デもフルーツダ
オルトロスのクレインは未だ上空から二首ドラゴンと対峙している。
「クレインって飛べるの?」
「いや、私の魔法で落下速度を調整している。私の魔力では彼を飛ばすことはできない」
口惜しそうなラージプートであったが、あれだけの巨体を支えるって相当な魔力が必要なんじゃないのか?
よく観察してみると、確かにオルトロスは徐々にではあるが落下していっている。
最初に彼らを見た時は目に見えて明らかに落ちてきていたんだけど、今はよく見ないと分からないほどだった。
飛んでいると俺が勘違いしても不思議ではないほどに。
『ノエル。動くカ?』
「クレインがどう判断するか次第だけど」
ロッソがぎょろりとした目をこちらに向け問いかけてくる。
そこへラージプートが口を挟んできた。
「クレインのことは私が責任をもって指示を出している」
「ん? 全部指示通りに動いてもらっているのか?」
「力不足甚だしい身ではあるが、できうる限り最善を」
的確に指示を出し、獣魔を生かすことはテイマーに求められる重要な能力の一つであることは確かだ。
だけど、俺はそれだけじゃあないと思っている。これはスタンスの違いなのだけど、俺は獣魔であるというより仲間であるという意識で接しているんだ。
だから、ロッソやエンがどうしたいのか、何を求めているのかを重視している。
……丸投げじゃねえなという突っ込みは聞かないんだからな!
ロッソやエンにお願いする時はちゃんとしているつもりだし……。
「指示を守り、あの場で二首ドラゴンにあたっているってわけなのか」
「高い位置に陣取った方が対処しやすいと踏んで。しかし、私がしくじってしまった……」
真面目過ぎるのも考えものだな。俺くらい適当なのもそれはそれで問題だけど。
なかなか良いバランスってのも難しいもんだ。
「まずい!」
思わず叫んでしまったが、間に合うか微妙だ。
エンが二首ドラゴン……認めたくないけど種族名ティアマトの緑のブレスを。オルトロスが赤のブレスを相殺したまではいい。
オルトロスが三度吐きだしたブレスをティアマトがかき消し、お互いに次の行動を準備していた。
オルトロスは指示されていたのか不明だけど、右の首だけに炎のブレスを溜めている。
一方でティアマトは二首の両方に赤と緑のブレスを。更に胸の辺りに魔力が集中し青色の塊が生じていた。
奴の攻撃対象はオルトロスのみ。
「ロッソ。頼む」
創造を形にし、ロッソから白い煙があがった。
だけど、その時には既にティアマトから三つの攻撃が全てオルトロスに向け放たれていたのだ!
一つ。赤いブレスはオルトロスのブレスで相殺できた。
「くああ」
気の抜けた鳴き声がした瞬間に暴風が吹き荒れ、緑のブレスをかきけす。
残像が映るほどの速度でティアマトとオルトロスの間に割り込んだエン。
次の瞬間、彼の体に青色の閃光が直撃した。
その時眩いばかりの赤い光が俺の目を焼き、思わず目を閉じる。
「エン!」
「くああ」
見えないながらも叫ぶとエンのいつもの鳴き声が返ってきた。
ホッと胸を撫でおろし、目を閉じたままロッソが転じたブーメランを握りしめる。
このブーメランは特別性なんだぜ。
体をねじり、足先から腰、腕に向けて体全体の力を使いブーメランを投擲する。
そこでようやく、目を開くことができた。
オルトロスの前でホバリングするエン。
くるくると回転しながらティアマトの左の首に向かっていくブーメランの姿もハッキリと確認できた。
見えもしない状態で投擲したにも関わらず、ブーメランは一直線に狙った箇所へ向かっている。
ティアマトまで残り一メートルのところで、ブーメランの形はそのままに木から鋭い両刃に変質した。
ズバアアアアン!
『グギャアアアアア』
ティアマトの絶叫が響き渡る。
見事、ティアマトの左の首にヒットしたブーメランは勢いそのままに首を真っ二つに切り裂き、方向を変え俺の手元に戻って来る。
俺が握る直前に両刃は元の木製に転じた。
「よっし」
『フルーツ』
元の姿に戻ったロッソは開口一番、自分の欲望を口にする。
二首のうち一つを落としたものの、まだティアマトは健在だ。
それでもどくどくと溢れる血と、次のブレスの動作に入らないことから相当ダメージを受けていることはうかがい知れる。
しかし、手負いの獣ほど警戒すべき相手はいない。
できればロッソにもう一発いってもらいたいところだけど、どうやら彼は閉店の様子である。
のろのろとした動きで、リュックの中に入ってしまった。
そして、タイミングの悪いことにアルティメットの効果も切れたようで……エンの姿が元に戻る。
ひょっとしてピンチ?
いやいや、まだオルトロスがいるじゃないか。後は彼に何とかしてもらいたい。
「ノエル。見事だ」
「感想は後で、で。俺の方はこれで打ち止めだ。クレインはまだ行けそうか?」
「もちろんさ。君とフェニックスの助力に本当に感謝している。後で何かお礼をさせて欲しい」
「分かった。分かったから。ティアマトが動き出す前に」
「承知した」
「一つだけ言っておくけど、ブレスで攻撃は控えてくれ。万が一、傷が焼かれでもしたら」
「……もちろんだとも」
この微妙な間は、「ブレスで止め」だとか考えていたのかもしれない。
すぐにラージプートが動く。
彼がピューと口笛を鳴らすと、オルトロスがドシンと地面に降り立ち俺たちの前まで駆けてきた。
なるほど。これが最も安全な戦い方だと感心する。
ティアマトはこのまま放置しているだけで衰弱していく。もし奴が俺たちのうち誰かを道ずれにしようとしたら?
狙うはオルトロスやエンではなく、俺とラージプートで間違いない。
オルトロスに向けブレスを吐きだしたところで、彼のブレスで相殺されてしまうから。エンはエンで空を飛び逃げ去ってしまうだろう。
となると、動きが鈍い俺たちを狙う以外の選択肢は無い。
オルトロスがこの位置にいれば、狙いが一つに絞ることができ、かつ俺たちにブレスが直撃することもないというわけだ。
だけど、このままではオルトロスの攻撃がティアマトには届かない。
さて、どう出る? ラージプート。
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