第51話:肉食女神
石姫皇女は完全な肉食女子で、普段から貪るように肉を食べている。
一時はブランド牛の食べ比べに嵌り、次にブランド豚を食べ比べをして、最近ようやくブランド鶏の食べ比べにも飽きてきたようだった。
だからといって、決して野菜や米が嫌いなわけではない。
金ができた事で、野菜や米も高級品を求めるようになっていた。
だがただ単に高い食材が美味しいわけではなく、農家の人が愛する子供や可愛い孫に食べさせるために、出荷用とは別に丹精込めて作ったモノを食べたがったのだ。
はっきり言って、そんなモノは農家に日参しなければ分けてもらえない。
いや、単に日参するだけでは駄目で、仲良くならなければ分けてくれないのだ。
そんな事をさせられる俺はたまったものではない。
それでなくても戦いと虐殺の日々で心が病んでいるのだ。
ネット購入や農家通いだけではない。
もう済んだ事だが、奴隷希望者の掘っ立て小屋を建てたり、古着や寝具を買い与えたりする間に、お節料理の食べ比べをすると言いだしたのだ。
ネットで買えるお節料理だけを食べて比べてくれるのなら、それほど手間ではないのだが、変な知恵がついたのか、直接老舗料亭に行って買って来いと言う。
だが忙しい年末年始に、一見さん相手にお節料理を作ってくれる、本当の老舗や名店なんかないのだ。
老舗や名店を名乗ってはいても、長年のお得意さんに見放されている店しか、ネットや店舗でお節料理を売ったりはしない。
本当の老舗や名店は、長年のお得意さんに作るので精一杯なのだ。
「仕方がないのう、今年は許してやるから、来年のために老舗や名店に通うのじゃ」
「いあ、そんな事を言われても、そもそもそんな老舗や名店を紹介してくれる人間を俺は知らないから、普段から通う事すら無理だから」
「そんな心配はいらぬ、わらわにはそれほどの力はないが、配祀神の中には莫大な数の氏子を持っておる神がおる。
その者に氏子を紹介させるから、それを伝手に常連になるがいい」
なんと身勝手なんだ、神という奴は。
確かに熊野権現なら多くの氏子がいるだろうが、その氏子を操って紹介させるなんて、普通は神がする事ではないぞ。
結局俺は京都や大阪、伊勢や名古屋の老舗名店に行かなければいけなくなった。
そんな事をすれば、億単位の金だって直ぐになくなってしまう。
日に日に減っていく貯金に心身が消耗してしまうかと思ったが、意外と石姫皇女は老舗名店の料理を好まなかった。
特に表だけ丁寧を装い、内心俺を馬鹿にするような接客をする店には、二度と行こうとしなかった。
俺だって形だけとはいえ神なのだから、石姫皇女は神を敬わない人間が嫌いなのかもしれない。
少しだけ見直したのだが、正月に二十数個のお節料理を並べて貪り喰う姿を見てしまうと、神の威厳も何もあったモノではない。
それと口にあわないお節料理を全部俺に下げ渡そうとするのには閉口した。
俺だって美味い不味いくらいは分かるのだ。
見た目だけを取り繕った、味が濃いだけのお節料理なんか喰いたくない。
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