第48話:新氏子衆とサラダ油と大豆油

 雪が降りだしたのと噂が広がった事で、村に逃げ込んでくる人間が増えた。

 それと、この異世界の人間は信心深いのか、それとも噂に尾鰭がついてとんでもない化け物になっているのか、石姫皇女を心から信じる人間が極端に増えていた。

 完全防御されている境内に入れる奴隷希望者がたくさんいたのだ。

 つまり大量の新氏子衆が現れたことになる。


 そんな新たな氏子衆を村外に住ませるわけにはいかなかった。

 だが、濠と土塁と柵に護られた本来の村の広さには限りがある。

 ずっと住んでいる氏子衆の家に間借りさせるわけにもいかない。

 だからといって新しい小屋を建てるための空き地にも限りがある。

 そして何より、石姫皇女が氏子として認めた人間を奴隷扱いにする事はできない。


 村に一番近くて少しでも安全な場所、一度元氏子衆に与えた本来の村に近い家を明け渡させるのは、騒動に原因になりかねないので不可能だった。

 最悪の場合は、村外集落に一番近い場所にある掘っ立て小屋に新氏子衆を住ませるしかないが、できるだけ元の村の場所、これからは氏子村と呼ぶ場所に家を建てた。

 しかし緊急事態なので、掘っ立て小屋で我慢してもらうことにした。

 その代わりというには貧弱過ぎるモノだが、女性氏子衆が選んだのと同じ数の古着とリサイクルウエスを、新氏子衆に優先的に選んでもらった。

 

「ありがとうございます、女神様、配祀神。

 毎日卵と鶏を食べられるなんて思ってもいませんでした」


 新氏子衆が毎日配給される鶏卵や廃鶏に喜んでくれるが、これは奴隷希望者も同じ待遇で、それほど感謝されると逆に心苦しいのだ。

 確かに量は新氏子衆の方が奴隷希望者よりも多いが、廃鶏が破格に安いので今の俺には大した負担ではないんだ。

 だからというわけではないが、奴隷希望者よりもいい暖房具を買い与えた。


 奴隷希望者達に与えた暖房具は、無料か格安で集めた一斗缶だった。

 最初に俺が一斗缶を改造して一斗缶ストーブを作って見せ、それと同じ物を作らせていたのだが、新氏子衆には完成している薪ストーブを買い与えたのだ。

 例え自作の一斗缶ストーブでも、上に百均の網を乗せれば、網の上に鍋釜を乗せて煮炊きができる優れモノなのだ。


 その時に思いがけずサラダ油や大豆油も高価に売れる事が分かった。

 もちろんオリーブオイルが一番好まれて高価なのだが、オリーブオイルが採れるのは南の温かい国だけらしい。

 だから寒いこの国では、サラダ油や大豆油もとても貴重なようだった。

 おおよそ塩の40倍、一斗缶は16・5kgだから食糧難のいまなら純金13・2gになるそうだった。


 一斗缶入りのサラダ油を100個売れば純金1320グラムになる。

 一斗缶入りのサラダ油で4085円で購入できる。

 少し高い一斗缶入りの大豆油でも5892円で購入できる。


 火事は怖いが、廃鶏の唐揚げはとても美味しいのだ。

 廃鶏は下手なブロイラーなど足元にも及ばないくらい美味しいのだ。

 異世界の草花や果実や虫を食べさせた廃鶏、いや親鶏は隠し包丁で筋切りしたら、丁度いい歯応えの抜群の食材になる。

 石姫皇女はカレー粉で揚げた親鶏の唐揚げに嵌って、しばらくネットで食材を購入する金額が少なくなった。

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