第35話:お情け
俺は本当に不甲斐なく破廉恥な人間だ。
自分の弱さに負けて、最低最悪の行いをしてしまった。
人間のくせに、神だと偽って信仰心を利用した。
神から貸し与えられた神通力を使って異世界の人に恩を売って、弱さを見せて恩着せがましく奉仕を求めたのだ。
しかも相手の奉仕を恥知らずにも受けてしまった。
俺が悪夢にうなされだして三日目、ライラは俺の布団の中に入って来た。
氏子衆が相談して、苦しむ俺を慰めるように生贄に差し出したのだろう。
俺は厚顔無恥にもそれを受けてしまった。
本能に任せて己の劣情を満たしてしまった。
悪夢から逃れるために、繰り返し繰り返し獣欲を解放してしまった。
俺は、恥知らずで卑怯で下劣だ。
命を助けた代償に人間の尊厳を平気で踏みつけにする糞野郎だ。
「お情けを賜り光栄でございます」
ライラからこんな言葉をかけられると、腹を掻っ捌いて死にたくなる。
そんな勇気、いや、根性などないのに、気持ちだけはそう思ってしまう。
卑怯な心が、自分が楽になるために、そう思っていると自分自身を欺瞞しているのかもしれない。
怒りと情けなさに叫びだしたくなるが、真剣な表情のライラがまだ畳の上で正座しているので、そんな事をするわけにはいかない。
「うむ、大儀であったライラ、そなたの行いは巫女として正しい。
今日からそなたは神の妻を名乗るがよい」
悩み苦しむ俺を差し置いて、石姫皇女がとんでもない事を言い出した。
いや、それ以前に、俺の破廉恥な行為を見ていたのか。
恥ずかしさと情けなさで走って逃げ出したくなったが、そんな事をしたらライラが大恥をかくくらいは、俺のような恥知らずにも分かる。
それくらいの理性は残っているから、必死でその場に踏みとどまる。
「今から神同士の話があるから、巫女衆は全員社務所から出て行け」
「「「「「はい」」」」」
俺はよほど気が動転していたのか、社務所の控室にライラ以外の巫女衆が詰めていた事に、今初めて気がついた。
俺は、多くの巫女衆が聞き耳を立てている所で、あんな恥知らずな行為を何度も繰り返していたのか。
恥ずかしさと惨めさで顔色が変わるのが、自分でもわかる。
また激しい吐き気に襲われるが、必死で抑える。
ここで吐いてしまったら、ライラの好意が無駄になってしまう。
「お前は馬鹿か、広志。
それとも何も知らない箱入り娘か。
江戸時代の公家や武家の娘の方がもっと強かで奔放だったぞ。
たかだか情交くらいでなにを思い悩んでおる。
もっと性を愉しみ相手の欲も認めてやれ。
何も流行りの不倫や乱交をしろと言っているわけではない。
ライラが広志と愛し合いたかった、それを認めよ」
そんな事を言われても、俺は愛を大事にしてきたんだよ。
急に今までの価値観を変えろと言われても無理だ。
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