第9話

「重人!」


全身に加速を感じる。


何かのボタンが色々とついている操縦桿を握りしめた。


ガタガタとした振動が脳を揺さぶる。


モニターには高速で移動するコンクリートの壁だけが映っている。


何度か回転し、やがて背を下にして倒れる。


スピードが落ちたかと思った瞬間、ガタンという衝撃と共に、移動は終わった。


「セットアップ完了、起動します」


微細な振動が全身を包む。


暗闇の世界に、一筋の光が差し込んだ。


「空だ」


この頭上を覆う地下シールドが全て放たれた時、俺たちは外に出るのだろう。


きっと驚きと歓声と共に、迎え入れられるに違いない。


そうすれば俺たち特殊部隊の存在は公のものとなり、『天命』の役割も知られることとなる。


大騒ぎになるだろうな。


「重人、操縦桿の根元、緊急停止ボタンだ!」


竹内が何かを言っている。


飯塚さんの望みとは、結局なんだったのだろう。


世界を変える? とか、言ってた?


「おい、何してる。さっさと押せ」


もしこのまま都庁がロボ化したら、俺もヒーローだな。


テレビの取材とかがいっぱい来て、コメンテーターの席に座って、先頭に立って、俺がこれまでの政府隠蔽を糾弾してやろうか。


都庁前にいたカメラマンの姿が浮かぶ。


「お前、まさか……」


そうだ、それが正義だ。


これこそが、正しい姿ってもんだろ。


指が動いた。

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