第3話
「まずは自動操作モードから手動モードに切り替えて。それから「初期探査基礎セット」の起動」
俺の背後で、竹内はじっとスマホの画面をにらんでいる。
言われるがままに自分の端末を動かした。
「後は画面の指示と自分の頭で考えて動け」
だからどうしてこんなに雑なんだろう。
画面を切り替え、言われた通りにメニューをタッチしていく。
柴犬ロボの目がカッと赤く光った。
「お、正解」
そのまま大きな口を開け、首を左右に振っている。
「こんなもんでいいのか?」
「いいわけないだろう。新人教育用スターターキット『わんこ』だ。まずはこれを使いこなせ」
「わんこ」
「たったいま俺が名付けたんだ。文句あるか」
激しく首を横に振る。
建物の中には、明らかにサーバー本体と思われる機器が数十台並んでいた。
比較的大規模な基地局だ。
いづみはその配線を調べている。
「電源はどこから来ているのかしら。あぁ、外灯の明かりがついていたわね。電線は見当たらないから、地下ケーブルか」
端末画面に「検査終了」の文字が浮かんだ。
わんこは機嫌良く尻尾を左右に振っている。
次の操作指示は出ていない。
「で、どうするんだ?」
「過去の調査報告書と重大インシデント、ケーススタディは熟読したか?」
「……まだだ」
「基本行動指針表だ。とりあえずその通りに動け」
フローチャート式に示されたそれの、最初のメニューをタップする。
「監視システムが作動してるわ。サーバーが初期化される」
いづみはエアカッター発生装置を振る。
天井の隅に設置されていたカメラのレンズが、パリンと音を立てて割れた。
「先に強制停止させましょう」
殺風景な部屋に、一つだけ机と椅子が置かれてあった。
そこで小さなノートPCが何かを動かしている。
いづみはUSBを差し込んだ。
ふいに俺の端末は振動し、緊急回避のアラートを発する。
『熱源探知、左右後方上』
竹内の手が俺の襟を背後からつかんだ。
一歩右後ろに引きずられる。
その足元に、レーザー銃らしきものから発せられた焼け跡は、ジュッと音を立てた。
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