第2話
「磯部くん。自分で動かして」
「え、無理」
「今、マニュアル見てたでしょ」
このスパルタ実践方式は、何とかならないものだろうか。
リードの取手のフリした、コントローラーの引き金を引く。
ドンッ! 突然、犬の口から何かが発射された。
「あんたバカなの? それは15式短SAMの……」
発射された小型改良型短距離地対空誘導弾は、目の前の山を一つ吹き飛ばした。
崩れ落ちた斜面から、分厚いコンクリートで作られた四角い建物の一部が姿を見せる。
いづみはチッと舌打ちした。
「こんな雑な仕事は初めてよ。行くわよ、竹内くん」
本当なら、外灯の足元から少し離れたところに隠されていた秘密の地下通路から侵入し、ラボに入る予定だったらしい。
それがいきなり覆い隠していた土のほとんどを吹き飛ばしてしまった。
「入り口はここね」
いづみは両手に、その手のひらに隠れるくらいの細長い機器を取り出した。
超高圧式空気圧縮発射装置だ。
取り込んだ空気を圧縮して吐き出すことで、人類はエアカッターという名の波動拳をいつの間にか体得していたらしい。
それを振りかざすだけで、あっという間に崩れた土砂を取り除いていく。
いづみの振りかざす腕の動きに合わせて作られる空気の壁が、巨大スコップのような役割を果たしていた。
「それ、俺にも使えるようになる?」
「練習すればね」
出てきた扉は取手を引くと簡単に開いた。
「鍵かけとかないなんて、なんて不用心なんだ」
「本当ならなかなか入れない扉が手前にあったんだと思うよ」
いづみはちらりと俺を見上げた。
「竹内くんは磯部くんのサポートよろしく。中を調べて」
「じゃ、その犬を動かしてみようか」
「嫌だ」
「俺が後ろで見ててやるから、いいから動かせ。初めて入る建物に侵入する時には、探知モードで有毒ガスと生命反応の有無を確かめる。自分の端末を出せ」
渋々と俺はポケットからそれを取り出す。
「スマホを操作してるフリして探知犬を操作するんだ。今のお前の画面に映っているのは、訓練用のダミーパネルだ。俺の許可した通りに正解を操作しないと、動かないようにさっき設定してやったから」
そう言っているそばから、いづみは一人で中に踏み込んで行く。
「あ、あれ? 勝手に入っていって、いいのか」
「あのな、実際はこんなにまごついてたら、やってらんないだろ。俺はこの眼鏡で、いづみは腕に埋め込んだ端末でやってんだよ」
俺の携帯電話型端末画面に、細かい文字がびっしりと浮き上がっている。
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