公爵令嬢は身分違いでも幼馴染の守護騎士と結婚したくて婚約破棄を画策する。
克全
第1話:政略結婚は嫌です
最初にはっきりさせておきますが、私は転生者です。
当然ですが前世の記憶と知識、常識が頭と心に刻みつけられています。
だから転生先の風俗や常識の中には、どうしても馴染めないモノがあります。
特に許せないモノ、我慢できないモノが男尊女卑と政略結婚です。
前世にいた権利屋のように身勝手なことは言いませんが、好きでもない相手と損得勘定で結婚させられるのは絶対に嫌です。
「父上、私は絶対にチャールズ王太子殿下とは結婚しませんからね!」
「そんな事を言っても、チャールズ王太子殿下との結婚は生まれた時から決まっていた事で、今更解消なんて絶対にできないよ」
私に財政を握られている父のオーガスタスは、オロオロとするだけで何の役にも立たない、本当に情けない男です。
馬鹿がつくほどのお人好しで、借用書もなしに親戚友人知人に金を貸し、その全てを踏み倒されて名門チャーチル公爵家を没落させかけた愚か者です。
あまりの情けなさに我慢ができず、七歳の私があの手この手を使って貸金を回収したので、何とか公爵家を没落させずにすみました。
「取立て令嬢と陰で呼ばれるほど気の強い私が、離婚歴のあるベネット女子爵に入れあげて、密かに結婚の約束をしているチャールズとの結婚を認める訳がないでしょ。
あんなだらしのない男と結婚するくらいなら、父上だけを見捨てて皇国に亡命しますが、それでもいいのですね!」
「そんな、私を見捨てないでくれ、ラニージャ」
気の弱い父のオロオロに拍車がかかりました。
父が表向き人の好さを見せるのは、気の弱さを隠すための偽装です。
頼まれごとを断る勇気もなく、誰かに断ってもらっても、その後で社交界に流れる、不人情という損得計算ずくの悪意ある噂に耐えられないのです。
気の弱い人間から金を借りて踏み倒す悪質な人間は、普段から色々な噂を流して、気の弱い人間が借金の申し込みを断れないようにしておくのです。
「だったら公爵家の当主として、毅然とした態度でチャールズに婚約解消を申し入れてください、父上」
「そんな、そんな事をしたら国王陛下に睨まれてしまうよ」
「父上は私に睨まれるのと陛下に睨まれるのと、どちらが怖いのですか。
グズグズ言われるのでしたら、心臓が止まるほど睨んで差し上げますよ。
それとも舞踏会から帰ってきたら屋敷に誰もいなくなっているほうがいいですか。
必要なら多額の借用書も残して行ってあげますよ」
「許してくれ、そんな薄情な事はしないでくれ。
だが私にそんな大それたことができないのは、ラニージャが一番よく知っているじゃないか。
なんなら私は公爵家の当主を降りるから、女公爵になったラニージャが直接メイトランド国王陛下やチャールズ王太子殿下に婚約解消を申し入れてくれ」
確かに父に過度な期待をする方が無理な話ですね。
では仕方ありません、弟のクリスティアンに負担をかける訳にも行きませんから、一時的に私が女公爵になって婚約解消を言い放ちましょう。
婚約解消が成立したら、クリスティアンに当主の座を譲ればいい事です。
「姉上、お願いがあるのですが……」
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