20.Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─ MSTさん作

「首痛めた」

『うわー、痛そうだなぁ』

 電話越しから啓馬の同情の声が聞こえる。だがその声は「うわー、明日雨かー」という落胆のような薄い声で、とても俺の痛みを分かってるようには思えない。

『でもどうせ寝すぎたとか、そんなだろ?』

「うるさいな……次の話書いてたら寝落ちしてたんだよ」

『変な体勢で寝るからそうなるんだぞー』

「って訳で、俺もう今日は湿布貼って寝とくから、レビューはもう書いたしメールしたし、後はよろしく」

『まだ寝るのか……まぁいいや、了解』

「んじゃ、おやすみ」


        *


 電話越しからは相変わらず平坦な声ではあったものの、最近、体をよく痛めているような気がした。熱中できる事があるのは良い事だ。何より自分の世界を作る楽しさやそれを認められる快感は中々手放せるものじゃないだろう。

 しかし、だ――

「大丈夫なのかね、あいつ」

 元々ノイローゼ気味な拓也の息抜きとして始めたものの、更新を頑張るやる気になっているのは良いが無茶をさせ過ぎたかもしれない。今日は第3回目のレビューラストだ、なるだけ早く書きたかったのもあるんだろうけど、首痛めても小説読んでるとはあいつらしい。

「まぁ本の虫だから出来る事だな、栄養ドリンクでも差し入れしてやろ」

 内心そんな事を考えながら、俺は拓也が送って来ただろうメールを探して開いた。ワードフォルダが添付されている。

「どれどれ……」


 今日のレビューは、MSTさん作の、「Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─」だ。


       *


 本作品は全体的に静かな独白文のような文章が続いていて、序盤は狭い場所に閉じ込められたような閉塞感がよく出ているとは思うが、逆を言えば10000字以内ではそんなに緩急はない。語り口調ではあるのに対し短い文字で一行だけの区切りが多く、それがプロローグにあったような物語を言い聞かせるというより、全体的に感情向くままの走り書きのような印象を抱かせた。

 文章自体は読み進められる一方、このミスマッチさは走ってる最中に石につまづくようにテンポをずらしてくるので、どうしても気になっていく。それも意図したものだとしたなら、このレビューは見当違いだとは思うが。


 もし意図したものでないとするなら、句点でぶつ切りにして置いていくのではなく、静かに語り続けるような繋げて書くような文体だと全体の〝谷〟や〝山〟も出来て縦に長い文章には出来なくなるし、語りの合間にあるような、いわゆる〝一呼吸〟を作れたんじゃないかと思う。普段は静かに長く語っておき、後で短くして感情の荒ぶりを表現するやり方の方が、もっとインパクトも作れそうだと感じた。

 

 特に――


 【登場人物名】。

 【その人物に対する思い出や紹介】。


 という区切りのやり方を――


 【登場人物名】……【その人物に対する思い出や紹介】。


 とした方が一行で済むし、キャラの「語ってる度」がアップしたんじゃないだろうか。俺としては語りなら「呼吸感」がもう少し欲しかったなぁ、と思う。これはあくまで俺の感じ方や好みの問題の可能性もあるので、「正しい」という訳ではないことを念頭に置いて欲しい。

 あと、これは10000字以内のレビューなので後半の盛り上がりどころがある場合は、あまり参考にならない。


 それも踏まえての感想だが、全体的に淡々とした文章が続いてるので出会った双子の兄妹に自分が責められているように感じているシーンや、戦闘シーンも他と同じで淡白なものに見える。他の兄に対する友人の態度や、それに対する兄の態度を見る時も同じで「語っているだけ」なので印象に残り難い部分が多かった。

 そのせいか全体を通して、自分には今一語り手のその時に感じていた切迫感や、野盗相手の兄の強者感があまり感じられず(最初の方も相まって兄の残忍さは伝わるが)状況は共感できても、主人公以外の登場人物の動きは伝わり難く見える点も少し残念。

 

 最後に、プロローグ~3話(合計9467字)まで読んだ感想としては、兄の虐待から始まり兄妹に出会うまでは、黙々と読み進められるタイプの小説といった印象だ。また破滅へと向かうのが前提の話なので文章全体が主人公の味わった息苦しさを再現するような言葉選びな事もあり、先ほど述べた点から全てが悪いとは思わない。「なぜこうなったのか」の謎をきっちりと置いているので先が気になる展開にもしていると思う。

 全体的に「惜しい」と思える部分が多く思えた。俺からは以上だ。


        *


「うーん、最後まで手厳しいやつ。卑屈な割には褒めてる方だろうけど」

 どちらにせよ、これが第3回目の最後のレビューになる訳だ。俺は早速アップロードしようとパソコンを開いた。

「この話、俺は3話まで読んだら、必要のないキャラクターが居ないと感じたんだけどなぁ。文体中心になるのは拓也らしいか……。よしっ、出来た」

 独り言を呟きながら作業しつつ、俺はアップロードを終わらせる。時間は夜の7時、夕飯時だ。伸びを1回やって、立ち上がる。今日は何の晩飯にしようか、御礼文はどうしようか、冷蔵庫を確認しながらそんな事を考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る