15.ナンバーワンキャバ嬢、江戸時代の花魁と体が入れ替わったので、江戸でもナンバーワンを目指してみる~歴女で元ヤンは無敵です~ 七沢ゆきのさん作

 さて、時刻は夜も更けて来た頃。いつもなら啓馬は休日前だろうとそろそろ帰る時間なのだが「今日泊めてくれよ」と言い出し、さりげなく泊まりのセットまで持ち込んでいたので俺は了承をせざるを得なくなった。飯まで奢って貰い、なおかつ明日の分の飯まで作って貰っているし、これはまぁ仕方がないと思うところも多い。


「はいじゃあ立て続けになるけど、これもレビューよろしくな」

「あっさり最後の作品を出してきたな」

 炬燵でアイスを食い終わった後、啓馬はスマホを見せてきた。そこに映っているのは長いタイトルだ。早速自分のスマホを開いて、その小説を検索し出す。

「ちなみに転移物っぽいけど今作は転移系というよりはタイムトラベル系に近い……かもな?」

 啓馬の説明を聞きながらページを開くと、評価がかなりいいようだ。

「へぇ……どんな作品だ?」

「カクヨム大賞作品で、なおかつ書籍化も決まってるぞ」

 つまりそれは人気作のレビューって事だ。色々と荒れそうな予感を察知してしまった。そもそも俺は口出しなんかできるほど実力がある訳ではない。不毛な争いと言葉の殴り合いの発展になるのはちょっと怖い。

「これ辛口レビューやったらブーイング来そう」

「止めとくか?」

 そう訊かれてもここまできて止めるのもなんだし。

「まぁ、俺はそこまで失うもんないから普通に感想書くわ。辛口気味だって注意書きも書いてたし」

「なんだその無敵発想」

 俺は啓馬の呆れたような顔と言葉を無視してページを開いた。


 最後の作品は、七沢ゆきのさん作、「ナンバーワンキャバ嬢、江戸時代の花魁と体が入れ替わったので、江戸でもナンバーワンを目指してみる~歴女で元ヤンは無敵です~」だ。

(ちなみに書籍化の方だと「江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる」ですが、そこまで入れるとタイトルが長すぎるので書籍化の方のタイトルは省略させて頂いてます。)



「で、感想は?」

 啓馬はしれっと二つ目のアイスを食べ始めていた。しかし先ほどと違って、自分だけ高級アイスじゃなくて先ほどの俺と同じ、100円くらいで買えるバニラアイスだった。

「読んでて楽しい作品ではある。目新しいものが沢山あって江戸の知識も入れることが出来て、知識欲が満たされていく楽しさ、テンポも良くも悪くもWEB小説らしいサクサク読める話とは思うぞ」

「おー、珍しく甘口な評価だなぁ」

「ただまぁ――」

「ありゃ、書籍化作品なのにやっぱりなんかあるんだ?」


「さっき言った知識が満たされていったり目新しいものを見た時の楽しさはあるものの、作品として完成されたものか?って言われると結構微妙に感じる点は多い。後は補足説明がどうしても多くなりがちで、知識を満たされる楽しさはあってもそれありきな中身に見えて内容的には少し微妙に感じたりする点もある」

「でも書籍化されるんだし、改稿するって書いてあるから……書籍作品になるとそこら辺も直してあるとは思うぞ?」

「ただそれを確かめる術が今はないから(※書籍化作品の発売は2021年らしいので)WEB版での感想にはなるんだけどな」


「まぁそれを抜きにしたって、10000字以内って『さぁこれから!』って部分でもあるしな」

「本編にもあるけど花魁で有名な話として小指斬り落とす話もあったように、そういった昔の知識が深まっていく楽しさを提供する分には成功してるんじゃないかな、とは思う。まぁ医療チート行為はツッコミどころあるけど……フィクションだし」

「そこはご愛敬部分はあるからか、突っ込まないのな」

「キリが無くなるし、全部突っ込めるほど詳しいかと聞かれると微妙だしな」

「なーるほどな。評判がいいならそれなりの理由はちゃんとあるって感じだな。発想の良さもあって、そこにある情報量で目を引いてるって感じか?」

「書籍化した時に説明文だらけになってテンポが落ちないかが少し心配だけどな。普通に見てて面白いと感じた所は多いぞ。先の展開も気になるし……でも後の方を見てると『どこ』を着地点にしてるのか、少し不安は感じる点はあるかもしれない」


「どこって?」

「最終回の締め方とかどうすんだろうなって意味だな。この手の作品って山は作れるけどオチを締めるのが難しかったりするし、俺の予想してる結末があるからその通りになると途端にどこかの作品が頭過ると思う」

「そこまで含めて、今後どうなるか……って感じなんだな」

「小説版になるとどうなるか分からないけどコミカライズも決まってるらしいし、漫画化すると化けそうだ。今作は転移物の要素はあるんだけど『江戸の時代の花魁になる』っていう、そのジャンルにはないあまり見ない目新しい要素はある。時代を遡る話なら多いんだけどな。ただ、前に別作品で似たような感想を書いたけどWEB版の文章自体は『脚本』や『原作』を見てる感じに近い気がして『小説』としての面白みがあるかって聞かれると微妙なんだよな。でもそれを差し引いても良い点は多いと思うぞ」



「俺としてはこれくらいかな」

「珍しく拓也が褒めてる方が多い……!」

 啓馬が驚いたような顔と言葉で俺の方を見ているが、その視線は些か……いやかなーり失礼じゃないかと言わざるを得ない。

「評価も納得できる所はあるなぁ、ってだけだぞ?」

「へぇ……じゃあレビューは今回で終了だな。お疲れ様、拓也」

「最終回に大賞作品のレビューってどうなんだ……?」

「締めに相応しいんじゃね?」

「どうかなぁ……」

 これまでの作品を振り返りつつ様々な作品があったと思いながらも、自分自身学ぶところが多かったようにも思える。

「小説書くってのは難しいし、自分なりのやり方が今と合ってるか不安になってくる点も多いんだよな。まぁ書いてて楽しいから書くんだけど」

「文字を打ち続けないと落ち着かないもんな」

「まだまだやりたい事が沢山あるしな」

 俺はそこまで言って笑って見せた。まだ書きたいし、まだやりたい。まだまだ楽しい事を表現し切れてない気がする。だからこそ俺はこうして人の作品を見たり自分の作品を書いたり、とにかく「面白さ」を探し続けてしまうんだろう。

 考え事をしている俺に対し、啓馬はうんうんと何やら頷いている。

「今後も更新頑張らないとなー、拓也」

「そうだな……」

「あ、じゃあ次に企画思い付いたら連絡するな」

「まだやるのかよ」

「さすがに年内はもうやらないよ、お前も更新優先したいだろうし」

 啓馬は悪びれる様子もなく笑って見せた。溜息を吐いたけどたぶん聞こえてないだろう。来年もまた、この気ままな友人に振り回されるんだろうか。

「まぁ、楽しみにしておくよ」


 来年はどうなるのだろうか。俺はそんな事を考えながら、自分の作品の続きを考え始めたのだった。

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