第2回目 (全5作品)
11.化け物バックパッカー オロボ46さん作
――クリスマスなんてクソである。
11月も後半、後少しで12月、いよいよ1年の終わりだ。だからなのか、外を歩けば「ケーキの予約まだまだ受付中」だの「チキンセット当日取り置きもOK!」だの気の早いクリスマスムードが漂い始めていた。
俺の名前は
当然、世で言う充実したクリスマスなんて過ごせない負け犬な自分にとってはこれほど惨めな季節もない。昔、友人とクリスマスにカップルの間をあえて通ってやろうか……と根暗過ぎる計画を立てた事もあった。大学生の時の話だ。大学生にもなって嫉妬の仕方が子供臭すぎたのは黒歴史に葬っておこう。
この日の予定も当然ない。ケーキも無ければチキンも無い。寂しいとも思わない。精々たっぷりと寝て過ごしてやろうと画策していると、携帯が震える音がした。鞄から取り出す。とは言え、俺に何か用事があると言えば親か、数少ない友人くらい――
『レビュー企画、募集終わったからすっぞ!』
よく分からないヒーローがガッツポーズしているスタンプが見えて、うんざりしてきた。
*
「人の予定がない前提で連絡してくんなよ」
「予定ないだろ?」
「ないけどさ」
「じゃあ良いじゃん」
よくねぇよ、と言い返したかったがその手にある手土産の山……もっとハッキリ書くなら体に悪そうなジャンクフードの袋がぶら下がっていて、俺は言葉を引っ込めた。他人の金で食う飯は何よりの御馳走だ。
やって来た男の名前は
炬燵に入るジャンクフードを食べ終えて、スマホを開いた。正直腹が一杯だし今すぐにも寝てしまいたいが、それは止めておこう。歯もまだ磨いていないし、風呂も入ってない。何より炬燵で眠るのは風邪フラグだ。
さて最初の作品は、オロボ46さんの『化け物バックパッカー』だ。
「で、感想は?」
冬の寒さも厳しくなってきてるというのに、シェイクを
「うーん……世界観は良いと思うんだけど、描写があっさりし過ぎて後味がそんなにないような印象を受けた」
「ありゃ、しょっぱなから手厳しいなぁ」
「恐怖感を持たせる変異体って設定も最初に出てきて、モブがビビってたけど後は変異体見ても平気な人たちが続くせいか、この設定も少し薄いんだよな。差別的な描写が強く残ってる訳でもない」
「でも世界観は良いんだろ? 疑似的な地球って舞台も新しいしさ。キャラクターも魅力がない訳じゃないし」
「それに反してちょっと描写があっさりし過ぎてる気もするんだよな……必要最低限な所だけ見せて話が終わるし、話の展開に山や谷があるかって
「求め過ぎな気がするけど……お前にとっては地味過ぎたって事か?」
「別作品出して申し訳ないけど、俺にとって旅してる小説って『キノの旅』だからなぁ……」
「あれは剣も魔法もないけどファンタジーじゃないか? 現代日本と比べたら駄目じゃね?」
「いや分かる。比べたら駄目なんだが……新しい舞台に来たら、もう少し描写が欲しかったかな、って思った」
「なるほどなぁ」
「ちなみにお前、文体とか気にするけど今回は?」
「えーと……まず効果音はあんまり使わない方が良いかもしれない。とは言っても、これは好みだろうな。物語を軽くしたいか重くしたいかで使い分けた方がいいと思う」
「軽いか重いかって?」
「誰にでも分かり易くか、もしくは『文章』を目指してるのか、って感じかな。どっちが悪いとはあんまり言えないんだよな、これは一長一短だし。前者は誰でもサクサク見れる代わりにライトな仕上がりになるし、後者は文章としては引き締まってるけど見難さも出て来るんじゃないかな」
「柔らかい文章にしたいか、固い文章にしたいかって感じか?」
「そんな感じ。もし使う場合はダッシュ(もしくはダーシ)を使って『――ドンッ』とかこういう感じにした方が綺麗には見えそう……じゃないかな。俺も効果音は今そんなに使わないようにしてるから、適切な事は言えないんだが……俺からは以上かな」
「俺としては後半に行くほど面白いってレビューも出てるから、前半部分の静かな部分を過ぎたら盛り上がっていくのかもなーって思ったぞ。さすがにそこまで読むと他の企画参加の人と平等じゃなくなるから、そこまで見てレビューは出来ないんだけどな」
「10000字はさぁこれから!とか一話完結型なら世界観の説明が終わった辺りだからな」
「それじゃあ、今回はこんなもんかな」
「そうだな」
啓馬はスマホを取り出すと早速レビューを打ち込み始めた。俺はその間、窓の外を眺めたが雪が降る気配はやはりない。
「そういえば昔、この辺で久しぶりに大雪が降って水道とか凍った事あったよなー」
アップロードが終わったらしい啓馬がどこか懐かしそうにそう言った。
「あぁ……あの時は仕事にならなかったよ」
「雪見るとテンション上がるけど、いざ雪の中歩くと次の日は足が痛くなってさぁ……あの時は歳を痛感したね」
「子供か」
「子供心は持ってて損ないぞ、何やっても楽しくなれる」
「……まぁ、確かに」
俺はそんな心とっくに無くなってるがね。なんて言葉はいつも上機嫌な男の目の前で言うのは止めておいた。そんな事、今言うのは無粋だろうというのは分かり切っている。
「あっ、そういえばチキンパック予約しといたから、お前に1つやるな!」
「ありがたいけど、いいのか?」
「いいって、いいって。そこで働いてる奴がさ、クリスマスにある程度売らないと駄目なんだって言ってさぁ。俺5パックくらい買っちゃった」
「……クリスマスに働いてる奴はノルマやら納期やらチラついてて大変だよな」
「社会って甘くないもんだな」
「だな」
なんてぼやきながら昔を思い出す。家族で雪だるまを作りながら過ごして、両親がよくカメラを持って写真を撮っていた頃だ。何かにつけて写真を撮るのが好きな人たちだった。
「あれからもう、そんなに経つんだな……」
「拓也?」
「なんでもない」
再び外を見ると、雪の代わりに雨が降り始めていた。
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