7.予言ノート 成田梓乃さん作
「ポワ、ポワ~レ、レレレレのレ♪」
なんじゃその歌、と突っ込むのもだるい冬の午後。俺は炬燵に寝そべっていた。仕事が上手く行っているらしい啓馬は「忙しくなってさぁ、ここ会社に近いししばらく泊めてくんない?」と俺の所にあろう事か泊まり一式を持って、布団までちゃっかり入れて来た。
若干やつれ気味だった事もあって渋々OKしたのだが、5日もすればすっかり奴の顔色は良くなっていた。他の部署と話し合い、上司に納期の打ち合わせをしたところ、取引先の好意で来月の中頃まで待って貰える事になったそうだ。
「働き方改革万々歳だなぁ~」
「関係あるのかそれ? 俺は恩恵を受けてないから今一分からんけど……元々無茶な納期で吹っ掛けたの、取引先だろ?」
「引き受けたのはうちの社長と新人営業だからなぁ」
そんな事を言いながら運んできたフライパンを鍋敷きに置いて、フランスパンが俺の皿に3切れ、啓馬の皿には5切れ。フライパンの中身はトマト3個分を皮がしわしわになるまでオリーブオイルで煮込み、生卵を2つ落としたポワレだ。塩コショウとあらびき黒コショウで味付けがしてある。中々お手頃料理である。
「というかお前の方がパンが多いじゃないか」
「そんなに食べないだろ、拓也」
「お前は食い過ぎだろ……ストレスか?」
「いーや? 仕事はスッキリしたし、新人もデカイ山を越えられそうで今んとこ大丈夫」
食べ方は卵の黄身を潰しつつ混ぜ、パンに付けながら食べる。取り皿にスープを入れながら、パンに浸して食べると酸っぱさと卵のとろとろ具合がなんとも言えない。フランスパンが卵を吸えばふわりとするの、結構好きだったりする。
「で、レビューの話なんだけど」
自分だけ先に食べ終わったらしく、啓馬が話しかけてきた。
「いきなりだな……」
「今回はエグめのホラーだぞ」
「いきなりな上にエグめと来たか。いいけどさ、食べ終わってからでいいだろ?」
「おう、いいぞ。俺はその間にヨーグルト食べるから」
「俺のじゃねぇかそれ」
「後で奢ってやるから勘弁してくれ、仕事の帰りに買うの忘れたんだよ」
了承得る前に冷蔵庫へと向かう啓馬に呆れながら、俺はスマホをタップした。
今日見るのは成田梓乃さん作、『予言ノート』だ。
「で、感想は?」
空になったヨーグルトのカップを2つ並べて、啓馬がそう訊いて来た。今朝食べたので今冷蔵庫にあるヨーグルトはゼロだ。その文句は後で言うとして、今はレビューだ、レビュー。
「まぁ、ハッキリ言っちゃうとデ〇〇ートにホラーと胸糞要素足したって感じだな……内容としてはエグみも残ってて好きなんだが、ちょっと薄味感ある。なんだっけか、俺としては小〇館にある学園ホラー物って感じがしたな」
「漫画版地獄〇女とか?」
「深夜アニメなのに漫画はなぜか『なか〇し』掲載だったやつな。読んだことあるけど、割とアレは後味良かった気がする。親友と一緒に復讐した話とか」
「話がズレてる気がするんだが、要するにそういう系って事か?」
「そうだな、第一印象は『学生向けにある、短編ホラー』だな。文体も割とさっくり目だからそう思うんだろうが。でもまぁ、こういうホラーって大体異次元に連れて行かれた系だから、通り魔が出てきて殺すオチはあんま見てないな」
「後味悪い系って割と読む人が多いよなー」
「学生には長い間人気ジャンルなのが凄いよな、ホラーと後味悪いやつ」
「刺激が欲しいとか……?」
「フリゲでの人気もあるとは思うぞ。小説化作品も多いしな」
「だからなのか、被害者が復讐するけどやり過ぎて……って因果応報系の作品も実は結構知ってるのもあってな。これはたぶん俺がそういう作品を割と読んでたせいだからなのか、俺としては『悪くもないんだが、いたって普通の作品』という感想になってしまうんだよな。でも、ホラーをあまり見ない人には衝撃的な作品に見えるんじゃないか?」
「悪くはないんだよな?」
「悪くはないんだが……突飛している点がないなとも思った。これはまぁ、次が書く予定あるなら『どこの層を狙うか』『どういう題材にするか』で変わってくるんじゃないかとは思うんだがな……俺からはこんなとこだ」
「結構辛くなったなぁ、俺としてはエグみが残ってるのが良いと思うんだが」
「けどホラーは大体エグいしな」
「うーん、オチの付け方も色々って事だな……」
「ただ、上げて落とすやり方はホラー作品の王道展開だ。基礎もちゃんと抑えてるとは思うぞ? もっと上げてたら最後のインパクトも強まったかもな。転落系は落差が大事だ」
「なるほどな」
啓馬は携帯を取り出すと早速打ち込みを始めた。
その間に、俺は冷蔵庫まで行くと一番奥に隠していたプリンを取り出……そうとしたんだが、無かった。
「……お前もしかして、俺のプリン」
「あ、悪い。一番最初に食べたわ」
食べ物の恨みは恐ろしい……それをこいつは知らないようだ。
俺は明日啓馬に何を奢らせようかという思案を始めたのだった。
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