3.死の博物館 koumotoさん作

 企画を開始してから2日目、啓馬が今日もやって来た。全部10作品だから今日の分を含めれば残り7作品。中々長い道のりに思えてくる。


「次は?」

「SFホラー作品、結構評価は高いぞ」


 また上手い人の感想を書かなきゃならんのか、と若干気持ちは沈んだものの。純粋に評価が高いと聞くとすごく気になる。そこはやっぱり俺も作家の卵、どんなのが人気なのかとか皆が夢中になってるものは素直に気になる。


 という事で、早速読んでみる。俺はスマホをスライドしていく。


 三作目の作品はkoumotoさん作『死の博物館』だ。




「さて、感想は……ってなんだよその顔」

 スマホから顔を上げた俺を見て、啓馬は驚いたような顔をしていた。


読めない漢字が多いふりがながほしい……」

「開幕から馬鹿丸出しな感想が出て来たなぁ……」

 啓馬が今度こそ心底呆れ返った顔をしていた。いや確かに頭は悪いけど。いやいや待ってくれ、これには俺も反論したい。


「いやホラー系ってジャンルは元から中々難しい漢字が多いんだぞ。商業小説でも、一見すると『字潰れてね? 何これ?』って漢字があってだな……ゲームとかでもそう、ホラーは読むのが難しいんだ。これは雰囲気作りのために必然的にそうなる傾向があるし、軽い文章だとどうしてもホラー感は出ないし、対象年齢が高めだから仕方がないんだが」

「お前も結構〝高め〟に入りそうなの、俺の気のせいか?」

 確かに俺も啓馬も大体の対象年齢はもはや片足で跳び越えられるほどの歳だった。なんも言えねぇ。


「……とりあえず難しそうな漢字にはふりがなを振っといて貰えると、俺的にはありがたいです、先生。俺と作者の知識の差が追い付いてないって部分もデカイかもしれないけど」

「まぁ、俺も読んだけど漢字は多めだよなー。でも読めない漢字が多くても、何となく言葉の意味は分かるくらいに描写自体はしっかりしてると思うぜ。ホラー独特の静かな博物館のイメージ、現実味はあるのに、『死が展示物になってる』っていうSFとしての現実離れな設定もキチンとしてるの、俺はかなり好き」

「それは俺もかなり好き。始めに『若者の個体』って書いてあって疑問に感じてたら、この世界の人間は体持ってる奴が少ないって説明も入るし」


 雰囲気が独特で作者自身の世界観もある。短編ホラーSF集とかをオムニバス形式でまとめて見れたりすると良いんじゃないか、とか考えるくらいにはキチンと自分の中で世界観を持ってる印象を覚えた。


「元々こういうの拓也は大好きだもんなぁ」

「正直テンション上がるくらいには……だからなぁ、もう特に言う事がない」

「はやっ」

「だってなぁ……ホラーのオチってさ、若干ぞっとして、ちょっともやっとする終わり方が基本なんだよ。後味が悪いのもあるけど、この場合はしこりが残るっていうか。なんかこう……奥歯になんか詰まってるの言うの? とにかく、それは普通なんだ。小説だとな。漫画やゲームのホラーはラストが感動させるものがあるけど、小説のホラーはこうなんだよ。この作品はテーマが『死』に一貫してて、ラストもそれにきちんと沿ってる形だからぶっちゃけ突っ込むとこはない」

「はえー……拓也がここに来てのベタ褒めなんてなぁ」


 啓馬はなんだか驚いた顔と不思議そうな顔を混ぜたような、そんな表情で俺を見ていた。かなり失礼な事を言われているが、そんなのは今更なので無視する。


「死の博物館なのに読んだ感じの館内は水族館のイメージを思い浮かべるのも、生き物を展示してる水族館と真逆な印象で良いと思うし。文体も、館内をゆっくり案内されてるような静かな雰囲気作りが出来てる。だから突っ込むべき点がマジでない。強いて言うとWEB小説向けにするなら行間が気になるけど、そもそも短編なら無理に空けなくていいし、これだって商業小説基準で考えたら詰めてあるのが普通だからなぁ」

「うわぁ、マジでベタ褒めじゃないか。本当にお前拓也か? 人の欠点に嫌ってほど気が付く拓也なのか?」


 啓馬が少しだけ声を張り、中々失礼な事を言って退けた。今更ではあるから、もう突っ込む事はしないが昨日といい、なんでこう平気で心に刺さる事を言えるんだ。


「……俺は素直に感想を言ってるだけだぞ、尊敬できる人には素直に凄いという。褒める時は褒める、指摘する部分は指摘する」

「じゃあ今回の作品、マイナスポイントは漢字のふりがなくらいって事か?」

「そうだな、ほんの少し手を加えるだけで目を止めずにサクサク読めるようになるし、もっといい作品になれると思う。これも強いて言うならだけど」

「ふむふむ」


 啓馬が再びスマホに文章を打ち込んでいく。しばらくタップした時の軽い音が何回か続いて、アップロードし終わったのか「よしっ」と満足気にスマホをしまった。


「それにしても上手い人の文章ってどこからこういう文体が出て来るんだろうな?」

 スマホをしまい啓馬はしばらく考えこんでから、そんな言葉を口にした。

「出て来るっていうと?」

「どこで研究してんのかなーって話。商業小説をいくら読みまくっても参考にしても上達しないし成果が出ないの、お前見てたら分かるんだけどさ」

「おい」

 ほんと失礼だなお前、と言うのを二文字に乗せてやったというのに、啓馬は無視して話を進めて行った。

「言い回しがパッと思い付くというか、悩んで書き終わったとしてもよ? 同じ言い回しが来ないような作り込み出来る人はどう考えてやってるんだろうなーって」

「うーん、あんまり似た表現を使い過ぎても『あーまたこの表現かーくどいなー』って感じる人だって居そうだし……俺のも、同じ言い回しをかなり使い回してるから手直ししたいとこ沢山あるけどな」

「そう言いつつしないよな」

「それより新作書きたいって気持ちの方がデカいし、あの量直すならリライト版を出した方が早い。どうせ見る人が少ないし、読む人は読むし、読まない人は読まない。でも見難いのは事実だし、どうしようかなと」

「……難しい漢字を使わなくてもこんだけ悩む事があるんだもんなぁ」

「小説作りはそんだけ難しい作業ってこったな。前も言ったけど、問題集に取り組むようなもんだよ」


「……とりあえず、お前の場合は目下の課題って誤字と脱字を少なくして、書き上げてすぐアップロードするし……落ち着くとこから入った方が良いんじゃないか?」

「誤字脱字は上げてから気が付くのが普通だから! 俺以外もやってるからそういうもんなんだよ!」

「後、難しい漢字を読めるようになった方がいい」

「……はい」

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