君が主人公で僕は保護者で~RPGの女主人公を絶対に幸せにする物語~

蒼静寺

君の冒険が始まる前に、実は僕も色々あったんです

第1章1話 ドーピングアイテムって偉大

 自分が人の上に立つ人間だとは思えないが、形式上はチームの上に立つ事になり、早五年が経過していた。

 どうも。まともにマクロも組めないプランナー志望の平社員だったのに、気が付いたらチームのリーダーになっていたゲームデザイナー(とされている人間)です。


「じゃあ俺は少し部長に呼ばれてるから、たぶん三〇分くらい抜けてくる」

「了解しました。そういえば、畑山さんが今日の正午くらいに同じく部長に呼ばれてから戻って来てないんですけど、スマホも置いていってしまったみたいなので、もしまだいたら一度戻るように伝えてくれますか?」


 部下にそう告げられ、俺は本社部長に呼ばれたミーティングルームへと向かった。

 ……別に会社を立ち上げたメンバーの一人じゃないけど、出来立てほやほやのここに入社してから、今ではゲーム一つ制作するチームのリーダーに選ばれた俺は、今日はどんな理由で叱咤されるのかと軽く憂鬱な気分になりながらエレベーターに乗る。


「第二部の完成は再来年予定だよな……畑山さんにストーリー部分について相談もしたいな……」


 畑山さんは、俺と同時に入社した元作家で、ゲームのストーリーを担当してくれていた。

 今ウケそうな内容を、低すぎず高すぎない、無理のないクオリティでゲームにする、という、なんとも志が低くも高くもない理念の元、自分達が遊びたいゲームを作るという心で一致団結してきた俺達チームなのだが、その分シナリオはかなり重視してきたと言える。

 かく言う俺も、既に発売している序章『レイディアントマジェスティー ~最初の分かれ道~』のストーリーの続きがどうなるのか、チームリーダーだというのに先が気になり、ついつい話を早く教えてくれと聞いてしまうような、大人げない行動をしてしまっていた。


「さてと……何言われるんかねぇ……」


 そして俺は……部長に言われた言葉を飲み込む事も出来ず、気が付くと駅のホームに立っていたのだった――








「……そりゃ……畑山さんだっていなくなるだろ……なんて言えばいいんだよ……皆に」


 どうやって帰ったのか。電車にどんな風に乗っていたのか、それすら思い出せないまま、俺はいつのまにか無人駅の一つ、終着駅であるその場所に立っていた。

 消灯時間が訪れ暗闇に包まれたホームで、ベンチに座り込みスマートホンを開く。


「圏外……まだこんな場所あるんだな……」


 ふざけるなよ、何が上場のチャンスだよ! 利益度外視しろとは言わないが、だからって――


「ソシャゲが儲かる事くらい俺も知ってる……でもそんなの博打だろうが……時代が変わりつつあるんだぞ……!」


『レイディアントマジェスティーシリーズの開発を無期限停止することにした。シナリオ担当の畑山君には既に知らせ、新たなシナリオを考えて貰う事にした。なに、据え置きに比べたらまだ作業も減るという話だ、悪い話じゃないだろ? 幸い、レイディアントのキャラクターとコラボしたいという他社からの話もあり――』


 頭の中を反芻するのは、部長が俺に語った言葉。

 ゆっくり、じっくりと成長していく会社に業を煮やし、一発逆転の可能性に掛けたのだ。

 ソシャゲは否定しない。だが、俺達はなんの為に今日までやって来た。

 突然チームが解体されて開発を委託するだと!? どうなってるんだよ、俺達が生み出そうとしていた世界は、物語はどこへいく!

 待ち望んでいるユーザーはどうだ! 少しは知名度だって上がって来ていたのに……!


「……明日、皆に伝えないと……畑山さんも今頃どこかで飲んでるのかな……クソ、俺も飲みたいな……本当に……」


 雪の降らない都市。けれども確かにコートの中まで冷える極寒の夜、俺はそのまま眠りにつき、それで――








「え?」


 まただ、また記憶が飛んだ。さっきまで俺は駅にいて、それで……え? さすがにおかしい。

 ショックで記憶が飛んだとかそういう次元じゃないんだが? は? え?

 俺はどうして、知らない畑の真ん中に突っ立っているんだ?

 ていうか昼? いつの間に夜が明けた!? 始発は!?

 その時、背後から大きな男の声が聞こえてきた。


「“ケイア”! 何突っ立ってんだ、早く終わらせるぞ!」

「え!? え、えなに!?」

「なんだケイア、暑さで頭でもやられたか? もういい、そっち座ってろ」


 男性。恐らく俺と同い年か、もう少し上くらいの人物が、俺をそう呼ぶ。

 ケイア? なに、それキラキラネーム? 俺の年代でそんな名前の人間なんているか?

 っていうか今の人明らかに日本人じゃないが。日本語うまいから帰化して長いとか?

 ていうか俺、なんで……。


「なんだ……どうなってるんだ!?」




 木陰に座り周囲を見渡し、思案した結果。

 どうやらここは〇〇県でもなければ日本でもない可能性が出てきた。

 予想通り畑と思われた場所で作業する他の人間も皆、どこか西洋を思わせる彫りの深い顔立ちに、茶髪も多く、その瞳も緑や青と、どう見ても、少なくともアジア系ではない。

 そして何よりも――


「これ……俺だよな」


 近くの池を覗き込み、そこに写る自分の顔が、知らない少年の物になっていたのだ。

 えー……子役かよってくらい綺麗な顔立ちしてんなこの子……これが俺みたいだけど。

 年齢は……見立て一〇かそこらだろうか? 顔はともかく、身体はだいぶしっかりしてきているし。


「そして何よりも……この子の記憶もある……か?」


 不思議な感覚だった。まるで、生まれてから今日まで、この子と一緒にいたかのような、そんな感覚。

 そして直前まで思っていた事まで全て、手に取るように分かるのだ。

 ……まるで、この子が突然、俺の記憶、存在を思い出したかのように。

 だが俺の記憶は、あの駅のホームで眠りに落ちたところまでしか残っていない。

 ……死んだ? それでこれは転生? んなアホな、いやそういう作品は資料として大量に読んできたけれど。


「ケイア……ノースガル地方オプスの里出身……ギムスとヘレナの息子……分かる、普通に“俺”のプロフィールを思い出せる……やっぱり俺……死んだのか……?」


 これが夢じゃないことは分かる。さすがに夢と現実の区別くらい、これくらい長く考えていれば分かる。

 で、俺はどこかの国で生まれ育った。日本語のように聞こえるのは、生まれてからずっと母国語として聞いて育ったから、意識が“俺”になっても変わらず理解出来るからだろうか。

 なら……日本と連絡はつくのか? もしも本当に死んでいるなら、未練はほとんどない。

 ゲームがどうなったのか、両親はどうしているのか。それを少しでも確認出来たらそれでいい。だが……思い出せるプロフィールが圧倒的に少なさすぎるのだ。というか記憶をたどっても、ここがクッソド田舎だって事しか分からんのである。

 えー……なんだよ『今日はリュクスフリューゲンから行商人が来るから早く畑仕事終わらせないと』って。さっぱり分からんぞ、行商人ってあれか、訪問販売か? 田舎の辺境だとあるって聞いた事があるけれど。


「どうだ、少しは気分も良くなったかケイア。行商人が珍しいからと飯も食わずに働いていたらこうなるんだ、まったく」

「あ……うん、そうだね“父さん”」


 話しかけにきた『父』にそう当たり障りなく答える。

 自分がどう振る舞っていたのかは分かる。本当に……まるで日本にいた時の事を『思い出した』かのような感覚だ。まったくの別人になったという感覚がまるでない。


「今日はもういい、家に戻れ。行商人が来る、行くといい」

「あ、うん。じゃあ……行ってくる」


 少しでも情報を得る為、俺はその場をはなれ、里の中を見て回るのだった。




 ――――えー……結論から言うとですね、俺この国知らないっすわ。

 いや、知ってるんだけど知らない。聞いた事も見た事もあるけど、知らない。

 何故なら――


「俄然夢の可能性が出てきたんだが……『ミスティア王国』だと……んなアホな」


 判明した名前は、俺もよく知っているが『あくまでフィクションとして知っている物』だった。

 だが、誰に聞いてもそのありえない話をされ、そして……今俺がいる場所に、どことない既視感を覚える事が、さらに俺の思考をかき乱していた。

 この身体、今の身体としての記憶のせいじゃない。日本にいた頃の記憶に、この里の情報があるのだ。

 リアルさも繊細さも、詳細も比べるまでもないが、確かに里の道や周囲の地形、そして里にある商店や畑、川といった立地が……俺のチームが手掛けていた『レイディアントマジェスティー』に登場する、最初の村と同じなのだ。

 だが、その村に名前なんてない。ただの『始まりの村』としか名前がつけられていなく、主人公である『少女』の生まれ故郷、というバックストーリーしか存在しない場所。

 だが、確かにその『始まりの村』だと分かってしまうのだ。


「夢か……そんな訳ないか……どういう事だよ……ゲームの世界? いや、なんだこれは」


 異世界? 異世界が偶然俺達の作ったゲームと酷似している? んなアホな。だったらこれが長い夢で、今頃俺が病院のベッドで昏睡状態に陥っている、って説明の方がまだ説得力がある。

 そもそも“ケイア”って誰だよ。そんなキャラ知らん。モブに名前があったとしても……いや、分からん。これは……もう少し様子見をした方がいいかもしれないな……もしかしたらここがとんでもないド田舎で、奇跡的にゲームと似通った場所って線もあるのだから――








 拝啓、チームの皆、それにくそったれな我が社の上司の皆さま。

 俺がこの謎な世界に迷い込んでから、五年の月日が経ちました。

 相変わらず目は覚めない。というかもうここが異世界だともう認めている。

 ここは、間違いなく俺達の作っていた『レイディアントマジェスティー』の世界だ。

 しかもそれだけじゃない。『過去の世界』だ。それを決定づけた理由は――


「ケイア君悪いわねぇ……お出かけする途中だったのに“リヴァ”の子守りをお願いしちゃって。もうすぐあの人が畑から戻って来るから、もう少しお願いね」

「ええ、大丈夫ですよ。今は収穫祭で皆さん忙しいですからね、いくらでも手伝える事ならお手伝いしますよ」

「……本当、ケイア君ったらこんなに立派になって……お父さんもお母さんも鼻が高いでしょうねぇ……」

「いえいえ、まだまだ世界を知らない若輩者ですよ」

「そう言える一五歳がこの里に何人いるのかしらね……」


 今、俺がゆりかごを軽くゆすりながらあやしている“リヴァ”と呼ばれた赤子。

 本名“リヴァルス”紛れもない……『レイディアントマジェスティー』の主人公だった。

 ……間違いない。まだうっすらとしか生えていない濃い藍の髪と、同じ色の瞳は、間違いなく将来、深窓のお嬢様ならぬ『深蒼』のお嬢様となる人物だ。

 そして……作品の売りである数多の分岐、道、いわゆるルート次第では、タイトル通り『輝ける女帝』へと至るとされている人物。

 だが残念ながら、あの作品は序盤で終わっている。終わらされている。

 だから……この子がどんな道を選び、そこへ至るのかは知らない。


「あーぶ……きーあー」

「んー、どうしたんだいリヴァ?」

「きーあー!」

「はいはい、きーあだよー」

「ふふ、本当にうちの子はケイア君が大好きねぇ。あの人ったら『パパよりも先に呼ぶなんてあんまりだ』なんて嘆いていたわよ?」

「はは……すみません」

「ふふ、いいのよ。あら、噂をすればなんとやらね、戻って来たみたい」


 そして、戻って来た微妙に嫉妬心を抱いている彼女のお父さんと二三言葉を交わした後、俺は日課である『里の裏手にある森の奥深く』へと向かうのだった。




「よしよし、今日もあるな」


 森の奥。不自然に鎮座する大岩の窪みに身を滑り込ませると、何故か辿り着いてしまう開けた場所に、五本の木が生えている。

 森に生えている木とは明らかに違う種類の見知らぬ木、この木なんの木気きになる木は確かに存在していた。

 そして俺は、その五本の木から、今日も一つだけ実っている『小さな木の実』をそれぞれ回収する。


「今日で丁度五年、か。ここじゃ一年が三六五日じゃないからな、計算はしやすいか」


 一年は三五〇日。俺がここに来るようになってから、今日で丁度五年だ。

 俺は……ここに実っている木の実を、毎日全て食べてきた。

 知らない木の実を食べるリスクを何故負っているのか。その答えは――


「これで……もしもゲームだったら全ステータス+一七五〇〇か。強くてニューゲームなんてレベルじゃねぇなこりゃ……」


 近くにあった石を軽く指でつまみ力をこめると、パンと音を立てて粉砕されてしまう。

 どんな握力だ。そしてその欠片を空に投げれば、遥か彼方までとんでいく。

 間違いなく、ゲーム時代の『ステータスアップアイテム』の効果が、俺に適用されている。

 この場所は、元々はゲームになかった。だが、ゲームの難易度が難しいと嘆くプレイヤーの為、救済処置として追加された隠しマップだ。

『貴重なドーピングアイテムを無限に採取出来るポイント』として追加されたこの場所が、本当にこの世界にもあったのだ。

 だが、無限に採れると言っても一日一つだけ。だから俺は、それを毎日欠かさずに回収し、食べてきたのだった。

 実験として『攻撃力増強の実』を非力な女の子に食べさせてみた事もあるのだが、その子に効果は表れなかった。

 どういう訳か、その効果は俺にしか現れない事が既に判明している。

 だから、俺はそれを食べ続けていた。


「……この里を出た後の安全の為に。そして……物語の続きを見守る為に」


 俺の、今の目標はそれだ。『もう絶対に続きを見ることが叶わない物語を、現実の物として、近くで見守る事』その為だけに、毎日欠かさず食べてきたのだ。

 ゲームと同じなら、リヴァが一八の誕生日を迎えた年の収穫祭の日、主都から来た行商人に同行していた『冒険者一行』に見出され、この里から外の世界に旅立つ。

 そして『主都リュクスフリューゲン』にて、彼女は最初の選択を迫られ、その道を歩んでいく。

 俺は……それを近くで見守りたい。だが元日本人の俺に、危険に立ち向かう勇気も、特別な才能もない。だから……この救済措置を最大限に利用させてもらったのだ。

 これなら……彼女についていくだけじゃない。未来に降りかかる災厄を、先んじて払い、悲しい運命を排除し、道を整える事も出来るのだ。


「情が湧いた、か。リヴァの道行きは決して順調じゃない。どんな道を選んでも、悲しいイベント、許せないイベント、苦しいイベントに溢れていた……それを、もしも回避出来たのなら……」


 もしかしたら、その辛い経験がやがて彼女を女帝と呼ばれる人物に育て上げるのかもしれない。だが――俺には、どうしてもゲームとして盛り上げるために、不必要で理不尽な展開を盛り込み、難易度を上げたようにしか見えなかったのだ。

 まぁ救済処置を求められるくらい高難易度なゲームだったのは俺も認めているし。というかその内容で開発にGoサイン出したの俺だし。

 だが、こうして現実としてそれが待ち受けていると知ったら、絶対に回避させたいのだ。


「あの子が一八になるその日まで……陰謀と欲望、覇権争いが渦巻く主都の道を慣らしておく……この世界を知っておいて助言を与えるのが俺の今の目標だから……な」


 まぁ、嬉しそうに毎日ゆりかごの中から俺に向かい手を伸ばすあの子が、不幸な目に合うなんて許せないっていうのが一番の理由、なのかもしれないけどな。


「一五になったら一応は大人の仲間入りだしな……今日、父さんを説得するか。最悪腕づくで認めさせる事になるけどな」


 相変わらず優男にしか見えない俺。だが……本気を出せば大岩どころか家一軒くらい持ち上げられる程度の腕力もある。戦士としての才能があると分かれば、さすがに里で腐らせておく訳にもいかないって考えるだろう。俺の父さんはそこまで愚鈍じゃあないからな。

 さぁ……じゃあ最初の関門、突破させて貰おうか!








「構わんぞ」

「え? てっきり反対されるかと思ったけれど」

「母さんも構わないか? ケイアの才はこの里に留めておくにはもったいない」

「そうねぇ……どうしてか貴方、とても賢いものねぇ……私と父さんの子なのに、算術からなにまで里の大人顔負けだったじゃない。主都で働き口を探すのだって、良い選択肢だと思うわ」


 普通に賛成されたんですが。だが、どうやら俺の頭の方を評価してくれているらしい。

 確かに、日本では腐っても大学は出ている人間。まだ学校が一部の特権階級だけの物であるこの世界の平均より、多少は頭が良いかもしれない。

 だが、それでいいんですかパパン、ママン。貴方達の息子は今『頭を使うとしても物理的に使う(頭突き)道』へ進む気まんまんなんですが。


「ただ、出来たら毎年三回は顔を出して欲しいわぁ……初秋の収穫祭の時期と、冬の年越し、そして貴方の誕生日。三回は無理でも、せめて一回は戻って来てね?」

「ああ、そうだな。それに、お前がいなくなると里の商人の手伝いを出来る人間が減る。皆、お前には随分と助けられているんだぞ」

「はは……分かった、出来るだけ戻るようにする。じゃあ……今年の収穫祭が終わったら、俺、旅立つよ」

「分かった。主都は多くの人間が日々、他人を蹴落とし、なり上がろうとしていると聞く。お前は聡い子だが、それでも心配だ。重々、気を付けるのだぞ」


 父は、幼いころは中々に『昔気質な頑固者』と思っていたのだが、俺の記憶が戻り、子供らしからぬ動きをするようになってからは、割と自由に行動をさせてくれていた。

 そして、様々な村の仕事を俺に体験させるような人だ。

 恐らく、何かしらの才能……というより、要領の良さを見出していたのだろう。

 だから、今回もある程度は自由にさせてくれるかもしれないという予感はあった。

 が、母さんや、マジでそんな軽いノリで送り出すんですか。貴女めちゃめちゃ過保護だったじゃないですか。

 少し前までは森の木の実回収する日課が困難な程監視の目がきつかったというのに。


「主都まではどうやって移動するつもりだ? 道中の護衛だって必要だ」

「そうよねぇ……この村の自警団のお兄さんをつかせる訳にもいかないし」


 たぶん何が出て来てもワンパンです。盗賊の凶刃に襲われてもたぶん皮に跡すら残らないんじゃないかな。

 一応、木の実の効果を確認する為に様々な検証はしている。

 結果、身体が危機を感じるような外傷を負う事はないと分かっている。

 そして同様に攻撃力という名の筋力も。こっちもまぁ攻撃の意思がなければそこまで大きな力が出る事はないんだが。

 素早さも同様。本気で走ると地球なら世界記録塗り替えられるどころかそのまま研究機関に連行されそうなタイム出そうです。

 知力も上がるっているらしいのだが、こっちは実感なし。元々魔法の攻撃力に関係するステータスだが、残念ながら魔法の使い方は分からない。それこそ、主都で調べてみるのもいいかもしれない。

 そして最後のドーピングはMP。これも計りようがないので実感なし。

 個人的にはHPが欲しかったのだが、このあたりは筋力のおかげで普通に体力も上昇している風に感じた。

 とまぁ、たぶん現段階で俺に護衛というものは必要ないのだが――足が欲しい。

 この世界に来てからずっと里の周辺で暮していたが、そろそろ移動用の足が欲しい。

 さすが走って行くわけにもいかないし、つまり行商人に同行するのだ。


「行商人さんに同行したいと思います。かなり仕事のお手伝いで貸しも作っていますしね、前々から話してはいたんです」

「そういえば、帳簿づけの手伝いから何からしていたな。里の店も感謝していたぞ」

「そういうこと。あの人ならしっかり護衛もつけてるし、無理なく主都まで行けると思うよ」


 そうして親の許可を得た俺は、次に行商人が来る日まで、荷造りや今後の予定をつめていくのだった。






 いよいよ明日、行商人さんがやってくる。

 主都はこの村から馬車で一月もかかるというが、途中で他の村にも寄るという。

 まぁフルに野宿って訳じゃないのなら、長旅初心者の俺でもそこまで苦じゃないと思うのだが。

 まぁ現段階で疲れ知らずだけど。相変わらず毎日木の実もストックしてあるけど。

 俺にしか効果はないが、もしかしたら、もある。一応こいつも持って行く。


「問題は主都でどう動くか……」


 ゲームのルート分岐は多岐に渡る。リヴァは、あらゆる才能に恵まれており、様々な『ギルド』と呼ばれる各職業の集団に引っ張りだこにされる。

 そこで、最初の分岐が入るのだ。

『騎士ギルド』『冒険者ギルド』『魔術師ギルド』『傭兵ギルド』『教団ギルド』基本はこの五つ。

 それぞれストーリーの展開も変わり、どこに進んでも……厳しい展開が待っている。

 その分岐後も更なる分岐が待っているが、それについては今考えなくても良いか。


「俺が彼女を誘導するのは避けたい……あくまで彼女の人生なんだ……彼女がどこに所属しても手助けしやすい冒険者になるか……? それとも最終的に一番権力を持てる騎士ギルドか……」


 ベッドの上で一人頭をひねる。既に夜も更け、蝋燭の明りが悩める俺の瞳を照らす。

 炎……魔術師は正直不安要素しかない。俺が使えるかもわからない。

 傭兵ギルドは、展開上様々な重要人物と顔を繋ぎやすくなるが、五つの中では一番難易度が高かった記憶がある。ヘタしたら仲間になるはずだった人物と敵対したり。

 教団ギルドはまぁ……さらなる分岐で悪堕ちルートに行きやすいって印象だな。

 こっちも面倒そうだし俺には向かない、か。


「父さんも母さんも俺が商人ギルドかどこか商人の店に働きに行くと思ってそうだよなぁ」


 やはりここは無難に冒険者かね。自由度も高いしフットワークも軽いし。

 まぁ……どんなに能力に優れていようが、人生は苦もあり楽もあり。これからリヴァが一八になるまで、俺が平穏無事に生きていられる保証もないのだ。

 ……まずは生活基盤を作るところから、かね。




 そうして、俺は里を出た。

 主都への道で様々な道、村、事件、主都の様子を聞きながら、改めてここが俺のよく知る世界だと再認識しつつも、年甲斐もなく好奇心に胸膨らませていた。

 当然だ。身一つで上を目指す、なおかつ自分に最低でも戦力だけは備わっていると知っている状態なのだ、そりゃテンションも上がるって物。

 それに、護衛についていた『パーティ』つまり冒険者や魔術師の混成隊から、各々のギルド良し悪しも聞けた。

 やがて、辿り着いた主都で俺が最初に選んだ道は――

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