第15話 二人だけの秘密②

【演劇部入部初日の夜】


 う~ん、どうしよう……


 私はめちゃくちゃ悩んでいた。

 脚本の内容が全然浮かんでこないからだ。


 浮かんでくるのは『前の世界』で彼が書いた面白い脚本の内容ばかり。


 まぁ、彼の脚本が選ばれることは分かっているから別に私が悩む必要はないのだけど、でも十五年も生きてきたのだから今の私なら一つくらいは何か面白い脚本を書けるのではと思っていたんだけど……


 脚本を書く才能が私には無いということがハッキリした気がするわ。


 それにしても今日の彼の態度はどこかおかしかったなぁ……

 『前の世界』の時と全然違うんだもの。


 彼はちゃんと『あの面白い脚本』を書いてくるのかなぁ……

 もし書かなかったらどうなるのだろう?


 あっ、そうだ。明日彼に何気なく聞いてみよう。

 五十鈴君は脚本で面白いアイデアとかはあるのかな? みたいな感じの聞き方をしてみようかな……



【あくる日の朝の教室内】


「ねぇねぇ、五十鈴君?」


「何だい、石田?」


「五十鈴君は脚本どうするの? 何か面白い内容とかはあるの?」


「えっ!?…………」


 彼は私の質問に少し驚いた表情をした後、黙ってしまった。


 えっ? 私、聞いてはいけない事を聞いてしまったのかな……?


 私が少し不安そうな表情をしているのを気付いたのか彼は頭を掻きながら私の顔に自分の顔を近づけ、小声で何か言おうとしている。


 私は彼の顔が近過ぎて凄く恥ずかしかったけど彼はそんな事など気にせずに話しだす。


「実はさぁ、面白い内容の話は一つ浮かんでいるんだけどさぁ……でも書こうかどうか悩んでいるんだよ」


「えっ、何で悩んでいるの? せっかく面白い内容が浮かんだのなら書けばいいじゃない。私なんか逆に全然浮かばなくて悩んでいるんだから……」


「えっ、そうなのかい? へぇ、それは逆に驚いたよ。石田でも悩むことがあるんだな?」


「ど、どういう意味よ、失礼ね!?」


「ハッハッハッハ、ごめんごめん、冗談だよ、冗談……」


「もう!! 五十鈴君のバカ……」


 何て幸せな時間なのだろう……

 彼とのたわいもない会話で私の心がとても癒されていく……


 もっともっと、彼とたくさんお話がしたい……


「俺さぁ……もし、もしもだよ。もし俺が書いた脚本が選ばれてしまったら……『演劇部』の副部長に選ばれてしまったらと思うとめちゃくちゃ不安なんだよ……」


「えっ、五十鈴君は副部長になるのはイヤなの?」


「そ、そりゃぁイヤに決まっているじゃないか!!」


「えーっ、何で? 五十鈴君なら副部長は簡単にできると思うんだけどなぁ……あっ、もしかしたら四年生が副部長になったりしたら先輩達に睨まれるかもしれないって思っているのかな?」


「ま、まぁ……それもあるけどさ……でも一番の理由は……俺さぁ、学校であまり目立ちたくないんだよ……」


 私は彼の回答に驚いてしまった。

 だって彼は今まで何をやっても目立っていたし、何を今更って目立ちたくないなんて言っているのかしら? って思ったから……


「えーっ、そうなの? 目立ちたくないからっていうのが悩んでいる理由なの?」


「そ、そうだよ。なっ、何かおかしいか?」


「うん、おかしい!! 絶対おかしい!! だってさ、今までだって五十鈴君、何をやっても目立っていたし、今更、目立ちたくないって言われてもさぁ……」


「えっ、俺ってそんなに目立っていたのか!?」


「うん、そうよ。逆に目立っていなかったと思っている五十鈴君の方がおかしいと思うんだけどなぁ……」


 私がそう言うと彼はガクッと肩を下した。


「そ、そうなのかぁ……はぁ……今までの俺の苦労は何一つ報われていなかったんだなぁ……はぁ、そうだったのかぁ……」


 彼がそんなにも落胆するとは思っていなかった私は彼の落ち込んでいる姿を見ながら唖然としていたけど、それよりも小四の少年の口から『報われていなかった』という難しい言葉を発したことの方が私は気になっていた。


「五十鈴君ってさぁ、たまに『大人』みたいな言葉遣いになるよね? そういうのも目立っている所なんだよ」


「えっ、俺の喋り方、そんなに変なのか!? うぅ……マズいなぁ……」


「変ではないけどさぁ……それにさ、別にマズいってことは無いんじゃないの?」


「イヤイヤイヤッ!! 俺にとってはかなりマズいんだよ!! よし、こうなったら今日から俺は『無口少年』に生まれ変わることにするよ!!」


「えーっ!? それはイヤよ!! 絶対にイヤ!! 今まで通りでいいからさ……お願いだから『無口少年』にだけはならないでよ~っ!!」


 私が必死に言い返すと彼は『プッ』と吹き出し、そんな彼を見た私も思わず吹き出してしまう。

 

そしてお互いに顔を見合わせながら大笑いをしていた。


「実はさぁ……俺、昨日の夜に脚本書いたんだよ」


「えーっ、一晩で脚本を書いちゃったの!? す、凄いじゃない!!」


 中身が十五歳の私がいくら考えても一行も書けなかった脚本を小四の彼が一晩で書いてしまうだなんて……私は色んな意味で凹みそうだけど、やっぱり彼は凄い人なんだと愛情意外に尊敬の念まで湧いてくる私がいた。


「それでさ、その脚本を今日持って来ているんだけど……石田、一度俺の書いた脚本を読んでみてくれないか? それで感想を教えて欲しんだ」


「えっ!? 提出する前に私が読んでもいいの?」


「ああ、頼むよ。石田の感想が聞きたいんだ。それで石田の感想を聞いてから、この脚本を提出するかどうか決めることにするよ。で、でも他の奴等には今日のやり取りのことは内緒にしてくれないかな? 俺と石田だけの秘密にしてくれないか?」


「えっ!? あぁ……う、うん……分かったわ……約束する。二人だけの秘密にしておくわ……」


「ありがとう石田。ホント助かるよ。やっぱり石田は昔から頼りになる奴だよな!?」


 彼にそう言われた私は心が躍っていた。

 だって『この世界』に来て初めて二人だけの秘密ができたし、それに……


 私のことを頼りになる奴だと彼が前から思ってくれていたことが分かったから……



「二人で何を話しているの?」


 突然、久子が私達の会話の中に入ってきた。


「あぁ、久子!? お、おはよう!! べ、別に大した話はしてないよ。少しだけ『演劇部』のことを話していただけだから……ねっ、五十鈴君?」


「あ、あぁ……そうだよ……」


「ふーん、そうなんだぁ……演劇部の話かぁ……」


 久子はどことなく、私達の話に入れず悔しい顔をしている様に見えてしまった。


 久子、ゴメンね。


 私は久子の応援をするって決めたけど、『演劇部』だけは彼と私の唯一の接点だから、今だけは私に幸せな時間をちょうだいね。


 今だけは……





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


五十鈴が書いた脚本を提出しようかどうか悩んでいることを知ってしまった浩美

その中で色々と会話をすることを幸せに感じている浩美


そんな中、五十鈴は浩美に自分が書いた脚本の感想を聞かせて欲しいと頼んでくる。

そしてそういった会話は二人だけの秘密にして欲しいとも……


二人だけの秘密ができた浩美は嬉しくて舞い上がっているが、果たして浩美は彼にどんな感想を伝えるのか?


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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