第5話 突然、彼は現れた
入学してから二週間程経ったある日、一組の『
久子も私と同じ幼稚園に通っていた子で、順子と三人でよく遊んでいた。
背は低くショートヘアでとても肌がとても白くて目がクリっとしてる、私から見ても完璧な美少女……幼稚園時代から男の子に大人気だった。
順子はそんな久子の事を羨ましく思っていたけど、私はあまりそんな事は気にしたことはない。
やはり順子が言う様に私が男の子っぽい性格だからなのかなぁ……
『この夢の中』ではもっと女の子らしくしなくちゃいけないわね。
じゃないと、『あの人』に振り向いてなんかもらえないし……
影で『鬼姫』なんて言われている場合じゃないわ。
「ねぇねぇ、浩美ちゃん?」
「ん? なぁに?」
「あ、あのねぇ……浩美ちゃんに聞きたいことがあるの……」
久子は少し顔を赤くしている。
「久子ちゃん、私に何を聞きたいの?」
「う、うん……えっとねぇ……私のクラスに五十鈴君って子がいるんだけど……幼稚園の時ってどんな子だったのかを聞きたくて……」
えっ!?
私は驚いた。まさか久子の口から『五十鈴君』の名前が出てくるだなんて……
「な、何で私に聞くの?」
「だって浩美ちゃんは幼稚園で五十鈴君と同じクラスだったから、どんな子か知っていると思って……」
だから何で久子がいきなり五十鈴君の名前を出すのよ!?
とは言えず私は優しい口調で話し出す。
「で、でも久子ちゃんは同じクラスだし、家も近所じゃなかった? 久子ちゃんの方が五十鈴君のことはよく知っているんじゃない?」
「ううん、私、今まで五十鈴君とお話したことがないの……だから、どんな子なのかなぁと思って……」
久子はそう言いながら更に顔が赤くなっている。
そんな久子の姿を私は内心焦ってしまう。
この子、もしかして……
私は勇気を振り絞って久子の問いかける。
「な、何で五十鈴君の事が知りたいの?」
久子は少し間を開けてから私の質問に答えだす。
「あのね、五十鈴君ってね、凄く『不思議な子』なの。私と同い年なのに色んな事を知ってるのよ。漢字も凄く知ってるし……それに男子達が喧嘩していても五十鈴君が直ぐに止めに入って何か言っているんだけど、みんなアッサリ五十鈴君の言う事を聞いちゃうのよ。凄いと思わない?」
「う、うん、そうねぇ……」
「それにね、うちの担任の井上先生って、この学校で一番怖い女の先生で有名なのに……みんな怖くてあまり近づかないのに、五十鈴君は毎日、井上先生に勉強で分からない事を質問しているの。それであの怖い井上先生がニコニコしながら勉強を教えているのよ。凄いと思わない?」
「そ、そうなんだぁ……」
私は久子が五十鈴君に興味があるのは好意ではなく何かと不思議な感じの五十鈴君に珍しいものを見るような感覚で興味があるのだと思い、少しホッとした。
それに毎年毎年、クラスの『マドンナ』的存在で男子達からいつもチヤホヤされている久子が、まさか五十鈴君に好意を持つはずは無いなぁとも思った。
しかし……
それにしても私は久子の話を聞いて驚いた。
まさか、あの五十鈴君がクラスの中心的な人になっているだなんて……
幼稚園の頃はあんなにも大人しくて引っ込み思案で、いつも先生にべったりしていた子が……こんなにも変われるものなのかしら?
というか『現実の世界』での五十鈴君はこんな感じでは無かったと思う。
まず、久子がこんな事を私に聞いてきたことなんて無かったし、私の見る限り、久子は五十鈴君のことなんて中学生になっても眼中には無かったはずだから……
これも『夢の世界』ならではの展開なのかな?
まぁ、私はどちらの五十鈴君も素敵だと思うから別にいいんだけどね。
「それで、浩美ちゃんは五十鈴君がどんな子だったのか知っているの?」
えっ!?
「ああ、そうだったよね? 私、まだ久子ちゃんの質問に答えてなかったよね? ゴメンゴメン……でもね、私も五十鈴君とは幼稚園の時、全然お話していないのよ。だから、どんな子かは知らないの。逆に今、久子ちゃんのお話を聞いて驚いちゃったくらいなのよ……」
「そ、そうなの? そうなんだぁ……」
久子は少しガッカリした表情をしていたが、仕方の無い事だ。
だって本当に私も『低学年』の頃の五十鈴君のことは『現実世界』の頃だって全然知らないんだから……
話が終わると久子は私の教室を出て行こうとした。
その時……
ガラッ、ガラガラッ
一人の少年が慌てて私の教室に入って来た。
「いっ、石田!!」
「えっ!?」
私を大きな声で呼ぶその子は……
「いっ、五十鈴君!?」
私の頭の中はもうパニック状態になっている。
な、な、何で五十鈴君が急に教室に来て、何で大きな声で私を呼ぶの!?
私同様に久子も驚いた顔をしながら彼を見つめている。
そして私達を驚かせている張本人は少し焦った顔をしながら私にドンドン近づいて来る。
えっ? 何? 今から何が起こるの!?
彼は私の前に来たと思うと自分の頭を掻きながら少し恥ずかしそうな顔をしながらこう言った。
「石田、悪いけど国語の教科書貸してくれない? 俺、今日忘れちゃったんだよ。頼むから貸してくれないか?」
彼はそう言うと少し頭を下げてきた。
「えっ!? べ、べ、別にいいけどさぁ……」
何で私なの? 何で私に教科書を借りに来たの!?
私の頭の中はそんな言葉が駆け回っていたが、なんとか『元演劇部』の力を振り絞り、冷静な顔を無理矢理つくって、机の中に入れている国語の教科書を取り出し、『はい、どうぞ』と言いながら彼に手渡した。
すると彼は『有難う、助かるよ!!』とだけ言い残して足早に自分の教室へと戻って行った。
そんな彼の後ろ姿を茫然と見ていた私に久子が近づき耳元でこう呟く。
「浩美ちゃん、いいなぁ……私も二組だったら良かったなぁ……」
その言葉に私は苦笑いをするだけで精一杯だったけど、心の中ではこう叫んでいた。
「私は彼と同じクラスの久子の方が、めちゃくちゃ羨ましいわよ!!」と……
一時限目の授業が始まり私は先程の彼とのやり取りを思い出しながら、緩んでくる顔を何とか必死で抑えていた。
でも次の業間休みの時に彼がまた教科書を返しに来てくれるんだと思うと更に顔が緩んでしまい、この時間の授業は何一つ頭に入って来なかったのは仕方が無いことよね……
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
友人の久子からの話で五十鈴君が『現実世界』の頃と性格が変わっていることに驚く浩美。
しかしこれは『夢の中』だからと納得するのだった。
そんな浩美のところへ突然、五十鈴君が現れ、そして教科書を貸して欲しいと言ってきた。
こんなやり取りだけでも浩美の心の中はウキウキ気分
そりゃぁ授業どころじゃ無いですよね(笑)
ということで次回もお楽しみに(^_-)-☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます